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スティーブ・ヴァイ 「作曲は美しき責務で創造の特権だ」

スティーブ・ヴァイが今年の1月末にロングインタビューに応えていました。インタビュアーはカール・キングさん、プログレロックのミュージシャンで、ドゥイージル・ザッパ、マルコ・ミネマン、ヴァージル・ドナティ、デヴィン・タウンゼントとお仕事をしたことがあるそうなので、その関係で彼のPodcast第1話にヴァイ先生を迎えられたのかも。

主に作曲面についての深く長いお話が聞けます。1時間に及ぶインタビューの概要を和訳してみました。少々難解な話もありますが、ヴァイ好きには面白い内容です。

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作曲というのはあなたにとってクールな音楽を作るという以上に深い意味があることなのでしょうか?

多くの人たちと同じで楽しいからだよ。インスピレーションが湧いてきてアイデアになり、それを形にしたいと思うんだ。それは創造的衝動の宇宙とも言えるし、神や宇宙に例える人もいるだろう。無限の様相を持つ我々の可能性とも言える。

私はもはやそれを名称で呼ぶことは止めにしたんだ。私はただ美しき責務だと思っている。責務と言うと、やりたくないことをやらなくちゃいけないように聞こえるから使いたくないのだが、創造の特権とでも言っておこう。

(ここから思想家サム・ハリスの本の話が始まります)

あなたはサム・ハリスを読んでいるのですね。いつ読書の時間があるのですか?

最後に本を読んだのがいつかは思い出せないよ。私は読書はしない。オーディオブックを聞くんだ。読むためには座っている時間が要るが、私のそういう時間はたいてい移動時間で飛行機に乗っていたりする。でもそういう時は音楽を聞いていたり作曲をしているんだ。たまに読むこともあるけど、私にはオーディオブックが合うんだ。ランニングとか運動の時などにね。今日も45分のワークアウトで聞いていた。

作曲はどんな方法でやるのですか?例を挙げて教えてくれますか?

私は1つの方法に限ったりはしないんだ。時にはただ座ってギターを弾いて、何か面白い変わったものが浮かんでくるのを待つけれど、一番私にとっていつでも上手く行く方法がある。何かを想像してある感情を創るんだ。そしてそれに相応しい要素が浮かんでくるように仕向けるんだ。例を挙げよう。

私は少し前にオランダのオーケストラに曲を書き、共演のライブをしてアルバムを作った。そのアルバムが出てから他のオーケストラも私との共演に興味を持ったんだよ。

それで "Story Of Light" のツアー中にまたオランダのオーケストラから共演の依頼があって、新曲の作曲も頼まれた。そこで私はリストを作ったんだよ。どんな音楽にしたいのかということを。まずは簡単なギターパートだ。何しろツアーの最中だったからね。その後5ヶ月のオフがあったので、作曲に取り組んだ。

多くの人はクレイジーな速弾きのギターパートを期待するだろうけれど、それはもうやっていたから別のことがしたかった。だからリストの一番上には「自分にとっても世界にとってもユニークな曲を書く」ことにしていた。これはとても難しい注文だ。しかし私には直感的に分かっているのだよ、私が創造したいと思うものは実際に創造することができる、とね。それは誰にでも出来ることなんだ。

(ここから曲の説明になりますので、過去記事を参照ください)

あなたは学術的知識、技術その両方を習得している人です。その一方で芸術的な才能もありますが、それらはどうやって習得してきたのですか?

それを話すのは難しいな。私はそれら全てをモノにしたかったから。知識や技術を習得することで技術よりも深いレベルの音楽に到達することができると私には直感的に分かっていたんだ。

どんな分野であっても、まずは技術を真剣に学ぶ時間が必要だ。大切なのはバランスだよ。私は技術の先の深いところに到達したかった。知識や技術というのは道具なんだ。

(ここから Dylan Beato 君という8歳の絶対音感を持った音楽少年の話が始まります。ビデオはこちら

あのビデオは全部見たし、少年の父親と話したよ。

(ここで話の出ている父親、リックさんの行ったヴァイ先生インタビューの動画が最近公開されました。ビデオはこちら

あの少年が将来どうなるのか楽しみだね。あのレベルの音感というのは可能だと思わなかったよ。私はずっと採譜をしてきたから、人間の耳が3、4音以上を同時に聞き分けることができるとは驚きだった。あの少年がやっているのはそのずっと上のことだ。恐ろしいね。

あなたもああいう人間業とは思えないような能力を目指したりしたのでしょうか。

ああ、絶対音感が欲しいと思ったよ。私はとてもいい相対音感を持っているけど。あのような絶対音感というのは別の次元の話だ。これが特定の遺伝子に由来する能力だという説には納得するよ。彼のような子供が登場することは正にゲームチェンジになるだろう。

しかし、彼のような能力というのは道具なんだ。彼は聞くだけでメロディが分かるし、簡単に採譜ができる。だがそのメロディの質はどうかということだ。それは知識とは全く別のところにあるからだ。文法の天才であっても素晴らしい詩を書ける訳ではないということさ。

情報量の多い音楽、すなわちクラシック音楽とポップ音楽とでは双方をどれくらい聞いていますか?

情報量の多い音楽かどうかは聴き手によるから定義はできないよ。私はいろいろ聞くからね。息子のジュリアンはもの凄くヘヴィな音楽を聞くんだ。だからヘヴィメタル音楽世界の最新情報は彼に教えてもらえる。もう1人の息子のファイアは色々とテクニカルな音楽を聞くんだ。

私は元々 Led Zeppelin が好きだから、昨夜も家のステレオでレコードを聞いていたところだ。子供の頃家で聞いた音楽は "West Side Story" なんかで、あれには全てが詰まっていた。

高校ではビル・ウェスコット先生の元で多くのクラシックの巨匠たちの音楽を聞いたよ。でもそれらの音楽は私にはありきたりで優等生の音楽だった。私は意外性のある音楽が好きなんだ。大学では複雑な音楽を聞き始めてストラビンスキーに熱中したね。バークリーに入って良かったことは図書館に行けばあらゆる音楽を聞くことができたってことさ。

(ここからヴァイ先生の愛するクラシック音楽のお話。マーラー交響曲を自宅の高級ステレオで聴くのがお気に入りだそう)

自分では弾くことができないけれど、聞くのが好きな楽器というのはありますか?

ああ。振り返ってみると私にとって音楽というものはそれ自体とても自然なものだった。音楽を単純に視覚化して採譜することができた。しかし、楽器演奏に対してはそうではなかったんだよ。

ギターは私にとって唯一弾くことができる楽器で、しかも私は生まれながらの才能を持ってはいない。私は本当に努力して練習しなくてはならなかった。もし、もう少し演奏の才能がある人なら私ほどの練習時間をギターに注ぎ込めば、私よりもずっと優れた演奏ができるだろう。一方でプリンスのような人物は様々な楽器を弾く才能があった。彼の生まれ持った才能で、私には無いものだ。

優れたミュージシャンが必ずしも優れた演奏技術を持っている訳ではないんだ。作曲家があらゆる楽器向けに作曲できるケースは稀だ。

私は完璧なピアノ曲を作曲できるが、私は全くピアノを演奏できない。私はピアノの前に立って気に入ったコードを見つけて、それを視覚化して交響曲を書くんだ。オーケストラ向けに作曲をするには各楽器の特徴を理解しなくてはいけない。楽器の仕組みや音域、構造上の制限などをね。

あなたのロック音楽での活動はあなたという音楽家の氷山の一部でしかないようです。あなたは様々な深い知識を持っていますが、ギタリストとしてツアーしている生活の中でどうやってそのような勉強をする時間があったのでしょうか?

それは自分の持つ興味そしてそれを常に持ち続ける能力によるだろう。例えば私は情報を記憶する能力の1部、人の名前や電話番号、ホテルの部屋番号などを直ぐに忘れてしまう。それに他国の言語を覚える能力も全く無いようだ。でも音楽については忘れないのだよ。まるで学ぼうとしたことがないように自然なんだ。うまく説明できないな。

例えば2人のバイオリニストとツアーした時は、彼らに演奏してもらうために全て私がオーケストレイションを書いた。あれはそうあらねばならない音楽だ。音楽にもミュージシャンにも様々あって、例えばフランク・ザッパのバンドには譜面の読めないメンバーもいた。それでも構わないんだよ、彼らは別の音楽的貢献をしていたから。そしてフランクは私に譜面のパートを渡していた。

私の場合、作曲というのは譜面に起こすことなんだ。最近ではiPhoneにアイデアを録音するケースが多いけれど、"Flex-Able" の頃はアイデアは譜面に書いていた。私はコードからスケール、またその類似スケールを視覚化して、可能なトーンを考え、多次元のハーモニーを作るのが好きなんだ。 ギターでは私はこれが楽にできる。

3月にディズニー・ホールでLA青少年交響楽団とコンサートをやりますね。

ああ、とても楽しみだ。彼らの選曲の一つ "There's Something Dead Here" の話をしよう。 "Flex-Able" の当時、私のスタジオにはヘビがいて、それが壁の中で何かを殺したんだけど、食べなかったんだ。そのためにスタジオは酷い臭いがしていた。それを曲にしたんだよ。当時はドラムと12本くらいのギターパートとシンセサイザーを使っていたと思うが、それをオーケストラ用にアレンジした。非常に濃密なオーケストレーションになったよ。