先週に引き続き、キップ・ウィンガーのクラシック作曲家としてのインタビューです。キップには現在抱えているプロジェクトが幾つもあるようです。そんな興味深いクラシック作曲家としての顔をみせたキップの話を和訳してみました。
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"Conversation With Nijinsky" はどうやって生まれたのですか?
順を追って話すと、マイケル・キューリックについて学んでいたとき、"Ghosts" を書いたんだ。バレエの繋がりで知人から振付師のクリストファー・ウィールドンを紹介された。彼はトニー賞も取っている実力者で、ブロードウェイでショウの監督もやった。ニューヨーク・シティ・バレエの女性とデートしたとき(再婚前の当時)に彼を紹介されたのさ。それで彼に曲を渡したら、気に入ったからもっと長くできないかと言われた。それで4楽章から成る "Ghosts" が完成した。
"Ghosts" が成功したので、もっと書けないかと言われて、彼に曲を送っていたんだが、彼は忙しくてなかなか連絡が取れなかった。やっと連絡がきて、クリスから「この曲では何も見えない(インスピレーションが湧かない)」と言われて落胆したよ。でも幸運がやってきたんだ。
"Nijinsky" の曲は知人に誘われて勉強を兼ねてNYに行き、その知人たちとアパートでジャムをするようになって、元々のアイデアがインスパイアされた。第4楽章まで書くとツーソン交響楽団のジョージ・ハンソン(2009年に "Ghosts" も初演している。アリゾナの楽団)から連絡があり、プレミア演奏されることになった。
するとある日、「ニジンスキーの孫です」って人からメールがあったんだ。連絡してもらって光栄だと丁寧に返事をして、コンサートに誘うと、ニジンスキーの娘である彼女の母と一緒に来てくれたんだ。ちょうどアリゾナに住んでいてね。
クラシックのアルバムは優れた指揮者で人間としても素晴らしいマーティン・ウェストがサンフランシスコ・バレエ・オーケストラと演奏して録音できた。アルバムはクラシックのチャートで1位にもなったし、グラミーのノミネートも受けた。思いも寄らなかった結果になったよ。現実とは思えない程さ。
この曲の第1楽章ではクラシックでありながら、ロックの爆発を表現したんだ。第3楽章は俺のこれまでの作品での最高傑作だと思っている。
"Conversation With Nijinsky" 第1楽章をオンエア
ここ、チェロがリフを弾いてるところがあるだろう?"Blind Revolution Mad" のリフと同じことさ。ここをレブに渡してギターで弾いてもらったら Winger の曲になるよ。
あなたのクラシック曲を聴いて思ったことがあるんですよ。私もロック出身でロックバンドでツアーもしていました。その後勉強して、音楽の学位や博士号をとったのです。けれどそこで出会った人たちは若い頃ロックを聴いていても、もうそのスピリットを失ってしまうのです。
君は作曲の博士号を持っているの?羨ましいよ。俺は高校中退だし、家族の中の変わり者なんだ。父方の家族は皆が博士号とか持っているのに。俺はツアーしながら独学してGDE(一般教育修了検定、アメリカの高校卒業資格)を取った位だ。
そうだね、確かに多くの人が「こう書け」と教えられているうちに、自分の元々の音楽的オリジンを捨ててしまう。しかし自分の直感を捨ててしまってはダメだ。モダン・クラシック・オーケストラ曲について言えば、自分をフィットさせるにはとんでもなく小さな穴を見つけなくてはならない。とても狭い道だよ、そこで自分の声を出して、(クラシック音楽界の人々に)まともに受け取られなくちゃいけない。
あなたの凄いなと思うところは、そうして苦労してクラシックの作曲を学びながらも自分自身のルーツを失っていないところです。
いや、告白すると最初は全てを捨てようとしていたんだよ。でも "Ghosts" のバレエツアーが始まったとき、クリスからインタビューをやってくれないかと言われたんだ。そんなのは俺にとってもうずっとやっていることだ。どうやら他のクラシック界の作曲家はシャイなのか、そういうことをやっていないようだった。それで俺はラジオでクラシック局とロック局それぞれでインタビューをやったんだが、その時だよ。俺の経歴が財産なんだって気付いた。ただ自分を駆り立てて進んできたけれど、そのことがとてもユニークな経歴になっていたんだ。
次は "Conversation With Nijinsky" 第3楽章をオンエアしますが、この作品について言いたいことはありますか?
この楽章は自分でもベストな作曲だと思っている。ここでは作曲技巧に頼ることなく、自分の耳に聴こえていた音楽を書いたものだ。俺が学んだこと全てがここでは自然に作品として提示されている。良い音楽というのは必然的なサウンドなんだ。俺はそれを成し遂げたと思う。俺のお気に入りの作曲家はアルテュール・オネゲル(19世紀フランスの作曲家、オペラ、バレエ、交響曲から映画音楽まで幅広い作品を残す)なんだ。この曲からは彼のサウンドが少し聴こえるかも知れない。でもこれは今までで最も純粋な俺自身が作曲した曲だ。
作曲家として今後追求するものは何ですか?
作品を書き続けたいよ。俺の持つロックの要素をオーケストラ曲の世界に持ち込みたいと思っている。そして何としてもアルバムを創りたい。ありがたいことに、ナッシュビル交響楽団から2曲書かないかと言われていて、アルバム制作の話をしている。これは2020年から2021年くらいになるだろう。これはとても光栄な話だ。
それに実は室内楽が数曲あって、アルバムにしたいと思っている。2曲ほどの小規模なオーケストラ曲や、いくつかのトリオの楽曲やギター曲などがある。これは俺のソロや Winger のようにアルバムを創るっていう意識でやりたい。そうやって曲を書いてアルバムを出し続けたいよ。
素晴らしい。この番組でクラシック界の人と話しているんだけど、クラシックの抱える問題は「プレミアで終わり」ってこと。新曲を完成させてプレミア演奏会があって、それで楽曲は棚に戻ってしまうんだ。(その後演奏され、人々に聴かれる機会がない)
そうだね。俺はレコーディングしておくことは演奏会よりもある意味大切だと思っている。なぜならそれによって曲が残り、生き続けることができるからだ。プラハに Smecky Music Studios というスタジオがあるんだ。そこでミュージカル曲をレコーディングしたのだけど、素晴らしいサウンドだ。ここの弦楽器のチームは素晴らしいんだ。第1バイオリン、第1チェロも最高だった。
とても費用を賄えないけれど、俺の室内楽を全てそこでレコーディングできたら、と思っている。俺は名もない作曲家だから難しいのは分かっているけど。グラミーの件は少しは助けになるのかも。米国でオーケストラをレコーディングするのは(費用の面で)全く別世界の話になってしまう。
私は以前プラハでピアニストに仕事を依頼したのですが、彼らには音楽の血が流れているようで、実に素晴らしい演奏家でした。
ああ。(ミュージカルの楽曲で)2時間もののオーケストラ曲を4日でレコーディングしたのだけど、素晴らしい演奏で、費用は米国の4分の1だったよ。その時に自分の作品を実際にレコーディングするという可能性を考えたんだ。
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キップにはクラシックの楽曲をアルバムリリースしていくという計画もあるようですね。作曲家として作品を生み出すこと、残すことに情熱を燃やす姿には頷けます。いつかは Winger の新譜もお願いしたいなぁ…