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スティーブ・ヴァイ Part 2 「たったの8小節なのに、何週間もかかっている!」

先週に引き続き、スティーブ・ヴァイの2時間に及ぶインタビューからPart 2 (2/2)です。現在制作中のニューアルバムについても語ってくれています。ヴァイ先生が8小節弾くために何週間も練習して未だ弾けないリフとはどんなものなのか、驚きと期待で一杯です。

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Morc2016vaigc1 自分の守備範囲外のことにチャレンジして、後悔したこと、後日自分にとって大きなプラスになったことは何でしょう?

そうだな、例えばフランクのバンドに加わったこと。他にももっと上手くやれたんじゃないかと思うことはあるものだ。でも誰にとっても「間違う」ことがあるとは思わないんだ。何事にも行動には結果が伴う。これらの結果というのはいわば教訓でもある。つまり、本当の意味での「失敗」はないんだ。

今なら違うことをしただろうと過去にしたことを悔いることがあるかと言われれば、確かにそう思うことはある。違うことができたと今思うことはあるが、その場合には違う結果になっていただろう。それはいいんだ、私は今、違うようにやっているのだから。人は誰でも今自分が置かれた状況に基づいて行動する。それは人生におけるどの時点に於いても同じだ。過去を振り返れば、自分にとってそれに対処する為の精神的な道具となるモノがあり、自分の状況認識はこうであると告げている。自分のその時の決断はその認識に基づいて下される。それが実際だ。

これは誰にも言えることだが、誰しも今の自分の状況に基づいて判断を下している。誰しもその時点において自分の過去の経験からの知見を元に判断をする。つまり、その時点においてはその判断しかなされないんだ。事実としてそれが自分の決断だったのだ。それには結果が伴う。

後から「あれはいい決断だった」と思うかも知れないが、何かが起きて「別の道があった」と思うかも知れない。そして違う道を選ぶ機会があるかも知れない。実際の世界では、あらゆる状況に於いて同じ原理が提示されるんだ。そしてあらゆる状況において自分が下す決断はその時点におけるそれ以前の決断による結果を反映したものになるだろう。ゆえに私は過去の決断を変えることはできないし、そこから学び、今は違う決断をするだろう。そして今の決断が最良でなくても後で、(状況把握・対応能力など)より良い道具を身に付けるだろう。

「こういう決断をすればよかったのに」という様な過去に関する後悔を聞くことがあるが、過去のその時点においては、それが唯一の決断だったのだ。そんなことは起こり得なかったのだから、それを言うことは無意味だ。だから真実の許しを自分に与えることが必要になる。「起きたことはこうだ、受け止めて先に進もう」と考えること。自分を許すことが多くのストレスを和らげるのだ。

ストレスとは自己の選択によるものだ。ストレスとは自分の外側にあるものから発生する。そこから将来に対する不安や過去に対する後悔など、自分自身に対しての思考によるものなんだ。心配することは更なる心配を招くだけだ。だから自分の内側にあるストレスを認識したときに初めて、それを解くことができる。そしてエゴは常に自分以外のものを咎めるのだ。誰かのせいにしなくては気が済まないのだよ。

今取り組んでいるギタープレイは何ですか?

今は私に弾けないものを弾こうとしている。昨日は4時間やっていた。ずっとやっているんだ。私のニューアルバムに入れる "Candle Tower" (仮)という曲だ。実に奇妙なリフを考えついて、ずっとそれを弾こうと練習しているんだ。ある弦をベンディングしながら別の弦を押さえなくちゃならない。とても複雑でメロディックなんだ。素晴らしいサウンドなんだよ、今ここで聴かせられたらいいのだけど。

このリフは私を有名にすることも金持ちにすることもないが、心の目で見て想像するだけでもワクワクするんだ。それで懸命に練習している、おかげで私の指はボロボロになってしまったよ。何しろ弦を一度に別々の方向へベンドしなくちゃならない。しかも別の弦を押さえながらね。そしてスライドしてネック方向へもっていかなくてはいけないんだ。こんなのはギターで聴いたことはないサウンドだよ。短いリフだが、大量の練習が必要だ。

 

 

そのサウンドはキーボードか何かで弾いて聴いているのですか?

いや、これは私の頭の中で聴こえたスナップショットだ。このアイデアはなぜだかわからないけれど、私にとってとても興奮するもので、頭の中から消えないんだ。別に技術的なものではないが、全くもって奇妙なんだ。誰かがこれを効果的に使っているのを観たことはない。

もっと練習できたらいいのだが、指がボロボロになってしまい痛いんだ。こうして例えば3弦をベンドして、こうやって2フレット動くのだが、音程を保たなくてはいけない。練習して1小節弾けたら録音するつもりだ。それを集めてイメージを確認しして、全部を覚えようと思うが、まだそこまでたどり着けないのだよ。たったの8小節なのに、何週間もかかっている!

その頭の中の音はどうやって覚えていられるのですか、録音がないのに。

iPhone に入れている。おススメの方法なのだが、いいアイデアかどうかは気にせず、思い付いたアイデアを録音しておくのだよ。そうだな、週に20個ぐらいたまる。私はそうして集めたアイデアを「永遠の戸棚」と呼んでいる。

あなたの曲で作曲過程がお気に入りの曲とプレイして楽しい曲は何でしょう?

それは訊かれる度に違う答えになるかも知れない。私が曲を書くときには、自分にとって、また世界にとって何かユニークなもの、自分がまだやったことのないことを見つけるようにしている。私自身の不文律みたいなものさ。私は今でも成長しているんだ。それを全ての曲でね、とても難しいが楽しいんだよ。ほとんどの曲にはそれらの何かがある。

"Die To Live" や "Frank" を例にとると、これらはシンプルなギター曲だが、この中には私の心のボタンを強く押すちょっとしたエネルギーがあるんだ。"Love Secrets" は意識の流れに任せた作曲だ。抽象的でありながら、実に音楽的だ。構造的にもとてもユニークで奇妙なんだ。

プレイする場合は、セットリストにもよるのだが、ショウでギターをプレイするだけで楽しいのさ。そうだな、"K'm-Pee-Du-Wee" には私の楽器への愛が捉えられており、私にとってもそしてある数のファンにとっても愛おしさがある曲だ。この曲はツアー中に書いたもので、私の感謝の気持ちが込められたものだ。

手放したギターで売らなければよかったと思うものはありますか?

あるよ。これまでに多くのメインギターを手放してきた。例えば "For The Love Of God" を弾いたギターは Prince にプレゼントした。オリジナルの7弦プロトタイプを手放したものを買い戻そうともしたけれど、高額すぎたんだ。(友人へのプレゼントが転売された模様)私のオフィシャル・サイトにはこれまでに所有したギターのライブラリーがあるよ。

(最近のデヴィッド・カヴァーデイル氏のツイートによると、氏所有のスタジオ内にヴァイ先生のユニバースがあるようです。これはヴァイ先生のオフィシャル・サイト上のライブラリーには収録されていません)

無人島に持っていくアルバムは?

ストラビンスキーの春の祭典のいい録音のもの、トム・ウェイツのアルバムを何でも。彼のアルバム全てはいつも音源を持ち歩いている。「ウエスト・サイド・ストーリー」のサントラ。フランク・ザッパの Over-Nite Sensation 。これも訊かれるときで違う答えになるけどね。

生涯最高の決断は?

この世に生まれるという決断をしたのなら、それだ。(笑)

若い頃は自分が結婚に向いていないと思っていたが、学生のときに出会ったピアと10年つきあってから、結婚してもう40年になる。いい決断だったよ。結婚を長続きさせるには努力しなくてはいけないと言われているが、自分自身が努力するということなんだよ。全ての人間関係において最も重要なのはパートナーとの関係だ。

自分のことは好きですか?

人好きなところが良かったと思うよ。うまく言えないのだが、私はミュージシャンとして知られているが、私は随分と多くの時間を精神的分野の研究に費やしてきた。それはとても役に立ったよ。私が20代の若かりし頃、暗黒の時代とでも言うべき、精神的に落ち込んだ時期があった。そしてある時点で降参し、救いを求めたのだよ。そこで出会った書店があった。それから多くの本を読んで学習した。最も重要なのは人との関係だ。人をどう受け止めるかということだ。

私は人が好きなんだと気付いた。空港で人を見ているだけでも彼らに何がしかの感謝を感じたりする。もちろん、クレイジーな人や、一緒の部屋に居るのが嫌な人だっている。けれど、それが彼ら本来の姿だとは思わないんだ。人というのはとてつもなく深いものだ。そういう認識の元に彼らに近づけば、同様の反応が得られるだろう。

精神的な落込みからどう抜け出したのですか?

苦悩には2種類ある。1つは病気やケガといった肉体的な苦悩。もう1つは精神的な苦悩。これは自分の頭の中で創り出したモノによる作り話がもたらす恐怖やストレスだ。自分が作り出したものを信じることでそれが現実になるのだ。

さっき話したように、若い頃に私は突然売れて有名になり、いくつもの賞を取ることでエゴを招き入れ、自分について偉大なる者というアイデンティティを創り上げてしまった。エゴは人間を破滅に導く格好の妙薬なんだ。エゴから逃れられる人間はほんの僅かしかいない。私が知る人で、こういう状況にありながらも、堅実な人間であり続けた人物はただ1人、ジョー・サトリアーニだ。

以前ジョーにそれを訊いたのです。彼は突然あれだけの名声に包まれたにも関わらず、人として変わらなかった。有名になる中でも感情的な乱れがなかったのはなぜかと。彼の答えはこうでした。「そういった状況は自分には関係のないことだと、距離を置いて見ていた」

ああ、その答えが確かだと私も証言できる。彼はいつでも堅実で反抗者なんだ。実のところ、私を立ち直らせてくれたのはジョーなんだよ。彼は時間を無駄にしたりはしない、はっきりと真実を言ってくれる。

それこそが真の友ですね。

そうだ。つまり、私にはそういう時期があったんだ。精神的には貧しく惨めだった、幸せを得るためには多くの事柄を達成しなくてはいけないという考えは、その後一生惨めな生活をもたらすだろう。なぜなら、常に更なる何かを求めるからだ。私の心に大きな変革をもたらしたのがエカ・トーレの本だ。私は自分が頭の中で自分だけの現実を創り、それが自分を苦しめていたことに気付いた。

言うのは簡単で他人と議論することも簡単だ。自分の外の世界に原因を押し付けようとすれば、自分の言い訳をつくってそれで終わってしまう。自分の生活の質、家族や周囲の人たちとの関係は1つのモノにかかっているのだと気付いたのだ、それは自分の心の中にどれほどの平穏があるかということだ。

誰もが直感的レベルで自分自身の現実を創る、しかしそれが最大の自由で自分の人生の主導権を握ることなんだ。それこそが真の自由なんだよ。私は多くの精神的世界の著作を読んできたが、読み返してみると、どれにもそれが書かれていたんだ。ただ私が気付かなかったのだ。いずれの著作もあなた方個人を指して教えを与えていたんだ。外の世界について書かれているものは常にどこかの時点で誰かにとって役に立つが全能という訳ではない。

最近や今後の活動について教えてください。

Piano Reductions Vol.2

マイク・ケネリーが1枚目のアルバムを演奏した。見事な演奏だ。私には自分の曲をピアノ独奏曲にしたいというアイデアがあってね、彼らにアレンジをしてもらうんだ。とても幸運だったことに、2005年に私はマイクと仕事をしていて、彼は素晴らしい人だ。洞察力があって、彼は私の曲にあった私的で細かなニュアンスまで把握して、それをピアノで表現してくれた。

そういう作品を続けたいと思い、2枚目をマイクと準備に掛かったのだが、彼が忙しくなってしまってね。そうしたら彼がビデオのリンクを送ってくれたんだ。それは若い日本女性が私の曲をソロピアノで演奏しているものだった。彼女のプレイを見てがくぜんとなったよ。それでミホ・アライという彼女に連絡をとった。彼女はロスに住んでいて、このプロジェクトについて話すと、ぜひやりたいと言ってくれた。彼女は実に優れた演奏家で美しい。彼女とは半年に1度くらいずつ集まって準備できた曲からレコーディングしていった。

Vaideology

私は音楽理論が好きで、時間があるときは教えることも好きなんだよ。それで私の理解していることを本にしたいと思っていた。ギターや音楽一般、音楽の専門用語のより良い理解ができるように。例えば、若い人たちは基本的な金融の知識がないことで恐れを抱いてしまっている。同様に音楽理論も一部の人たちにとって恐ろしいものなんだよ。だから私はその神秘の扉を開きたかったんだ。

この本では基本的な音楽の用語や音楽理論の基礎的な事柄を網羅している。驚いたことに、とても良く売れているんだ。今、6ヵ国語に翻訳している。私には独特の文章のスタイルがあるのだが、この本ではできるだけ総合的にし、記載順を考えた。私はこれまでにいくつもの音楽理論の本を手に取ってきたが、何かが欠けていたり、ある主題について理解できないようなことを書きすぎていたりしていると思っていた。だからこの本は最も簡単に学べるよう、そして内容に尻込みしてしまわないように記載順にも気を配った。気負いせず手に取って読み易く、流れがあってもっと学びたくなるようにね。

Generation Axe (The Guitars That Destroyed The World - Live in China)

6月の発売予定だ。(発売日は6月28日)これは最もクールなギターアルバムになるだろう。アジアツアーでの録音だ。残念ながらこれには去年のツアーでやった "Bohemian Rhapsody" は入っていない。あれはとてもスペシャルだったな。けれど、これはアジアツアーのときに7公演を録音したものを私が編集したんだ。

活動予定

6月には Rio Montreux Jazz Festival 2019 に出演する。(ヴァイ先生は誕生日の6月6日にフェスティバル初日のトリを務めました。ライブの動画が公開されています。↓)7月には Vai Academy だ。

今は次のアルバム制作にかかっている。私の過去の作品のいくつかはとても濃厚で構造的、プログレッシブだけれど、これは Alien Love Secret のようなそぎ落としたギターアルバムになるだろう。