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Green (@ribbon_bear) が毎週好きな音楽ネタを語ります! Since 2011

スティーブ・ヴァイ ウルトラ・ギターができるまで~ Emerald Guitar のはじまり

2013年のスティーブ・ヴァイ来日公演でウルトラ・ギターを見たときは驚きました。アルバムジャケットから飛び出てきたような、あのギターが実際に演奏されているのですから!

そのギターを制作した Emerald Guitar の創業者の方のお話が掲載されているのを知人に教えてもらい、内容がとても感動的だったので、和訳してみました。

emeraldguitars.com

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大学で出会ったギター好きの友人がスティーブ・ヴァイのCDを聴かせてくれた。その音楽は僕が生涯ずっと探し求めていたのに存在することを知らなかったものだった。即座に僕は夢中になり、2週間以内には人生初めてのギターを買いに出かける程だった。

あのアルバムが僕の人生を変えたのだ。けれど当時はそれがいかに僕の将来を導くことになるのか、僕は知る由もなかった。2001年にスティーブは遂に Ultra Zone ツアーで僕の住むダブリンへやって来た。彼は『Ultra Zone』アルバムカバーのエイリアンの衣装でステージに登場したが、手にしていたのは白いJEMだった。彼の後ろには(アルバムカバーの)エイリアンが Ultra Zone ギターを手にした大きな垂れ幕があり、僕はそれを見て直感的に彼にはあのギターが必要だと思った。

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翌日、僕は家でそれを制作するのに取り掛かった。この時点で僕はエレキギターの制作には全くの素人だというのに、初制作で世界で最も変わったギターを世界で最も偉大なプレイヤーに創ろうとしたのだ。

ヴァイ作品を何年も聴きこんで刺激され、僕はそのプロジェクトに没頭し、あらゆる細部を完璧に再現し、完璧に動作するレプリカ作品を創るのだと固く決意していた。2次元の世界から飛び出すことなど想定されていないものをだ。僕は何時間も掛けてその形を彫り細心の注意を払ってアルバムカバーに描かれたあらゆる細部を捉えた。ギターの背面はありがたいことにアルバムの後ろに印刷されており、僕には360度の参照画像があった。

何時間もつぎ込んだが、とても難しいギターだったので、やがて作業は脇に置かれ、他の事に集中していたのだが、2002年のNAMMショウでスティーブのサイン会があると知った。僕は参加し、彼に僕がギター制作を始めたことを伝えた。彼は僕が少々常軌を逸していて、誰かがあのギターを創るとは信じていなかったと思う。けれど彼は完成したら写真を送ってくれと言ってメールアドレスをくれた。自分のヒーローに会ってやる気一杯になったので、帰国するとギターの完成に向け取り掛かった。そして完成した。しかも専用のポッド型ケースも創ったのだ。

ティーブのアシスタントのリッチ・パイクに写真を送ったけれど、返事はなかった。再度送っても返事はなし。やきもきしたけれど、遂にリッチに連絡がついた。どうやら彼らは写真が本物とは思わず、フォトショップで加工したのだろうと思ったのだった。リッチは写真をスティーブに見せると合意し、僕がスティーブにギターを届けるアレンジをしてくれることになった。

何週間も音沙汰がなかった。なぜならスティーブは次のアルバムのレコディングの真っ最中だったのだ。けれど遂にある水曜日、メールが届き、スティーブは土曜の朝に僕と会いたいとのことだった。彼らは僕がアイルランドに住んでいるって考えていないのだと思う。でも僕は急いでロスまでの航空券を手配し木曜の朝早くに旅立った。

土曜の朝、僕はリッチと会い、彼に連れられてスティーブの自宅へ行った。そこでスティーブが僕らを迎えて(彼のスタジオ)ハーモニー・ハットに連れて行ってくれた。数多くの偉大な楽曲が創られたこの有名なハーモニー・ハットでスティーブに会うだなんて、とんでもなく緊張する!

彼は僕のケースを見て「さて、君が持ってきたものを見てみよう」と言った。僕がケースを開けると彼の第一声が全てを物語っていた。ホーリー・シット!」彼は驚き、アルバムカバーにそっくりなギターを信じられないようで、『Ultra Zone』のCDを掴んでギターと見比べていた。僕の芸術とキャリアにインスピレーションをくれたその本人から承認を得られるのは喜びだった。

「それで君はどうするつもりなんだい?」とスティーブに訊かれたので僕は「これはあなたのものです。あなたの音楽が僕に与えてくれたインスピレーションに対する僕からの贈り物です」と答えると、「そうか。でもこれを私の為に君が持っていてくれるよう君に贈り返そう」とスティーブ。とても気の利いた態度だった。でも僕は彼が持っていてくれることが僕にとってはより意味があることなのだと説得した。彼は同意したけれど、代金を払うと言って譲らなかったので、僕らはある条件で合意した。代金は彼の Fire Garden ハチミツにすること。ご存じのとおり、スティーブは養蜂家だ。僕にとっては十分な代金で、僕が毎朝トーストにこのハチミツを塗るとあの素晴らしい日の記憶がよみがえるのだ。

あのギターを制作したことは僕の創作活動で最高のことだった。実際にあのギターは僕が制作を始めて最初に手放したギターだ。1998年からギター制作を始めたものの、それまで50本ほどのプロトタイプは全て僕の工場の屋根に釘で打ち付けてある。それらは今でも世界に供給するのに十分な品質のギターを制作するまでの上達過程のモニュメントとして残っている。つまり、僕の最初のギターは僕を最初にインスパイアした人の元に行ったのだ。

あれから僕は何度もスティーブと会った。そして彼に数本のアコースティックギターを制作した。それには彼が『Real Illusions Reflections』アルバムで使ってくれた7弦ギターも含まれている。ティーブ、ありがとう。あなたの音楽にインスパイアされて僕は自分の心に従い、自分でも思いも寄らなかった人生に導かれました!

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2013年の日本公演でウルトラ・ギターを紹介するヴァイ先生。Photo by Kuni

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素敵な話ですね。強い意志があれば道は開ける、そんな言葉を思い出しました。
プライスレスなギターにはプライスレスな思い出とハチミツが。