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ジョー・ボナマッサとミッチ・ラフォン対談 新メディアとアーティストの関係

ジョー・ボナマッサがカナダのロック・ジャーナリスト、ミッチ・ラフォンに自分の動画チャンネルで逆インタビューしました。ミッチはカナダで20年超のキャリアを持つロック・ジャーナリストで、彼の番組は私も良くチェックしています。

いつもインタビューされるアーティストの立場から放つジョーの質問が興味深く、ミッチの話も面白く、いろいろ考えさせられたので、インタビューの一部概要と私の感想を書いてみました。

 

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JB:今はロックミュージシャンにアクセスしやすい状況になっているよね、朝食に何を食べたかとかもわかったり。昔と比べてミステリアスでなくなってきたことはどう思う?

ML:例えば僕の子供たちが昔の僕のようにKISSのLPレコードの生々しさに感激してファンになるかというと違っていて、インスタグラムで彼らの様子を見る方が彼ら世代に受けるのだと思う。そういうものが新たなファン層を惹きつけているんだ。

それに昔は KISS や Aerosmith が町に来るのは一大イベントで、「わぉ、アンコールもやってくれた、きっと僕らは最高の客だったんだ」と思っていたけれど、今ではツアー全部のセットリストもわかるし、他の町と同じってわかる。昔のような楽しみは無くなったけど、どちらがいいかはわからないな。

JB:昔はアルバムのセールスに多額のプロモーション費用がかかったけど、今ではSNSで十分なフォロワーがいれば、写真をとってアップすれば、多くの人がそのアルバムに関心をもってくれるよね。費用はかからない。

ML:SNSについて言うと、無料で宣伝できるし、数百万のフォロワーを獲得することもできる。でも肝心なのは彼らに参加させ続けることだ。フォローしてもほとんど更新しない人だった場合、チェックするのも面倒だ、となる。そうしない為には常にクリエイティブでコンテンツを提供しないといけない。いやらしくない程度で、興味深いものでなくちゃならない。これは紙一重の差なんだ。

JB:11歳のときにジーン・シモンズにインタビューしたそうだけど、その話を教えてくれる?

ML:テレビのチャンネルが2つしかない田舎に住んでいた僕はKISSの大ファンだったので、彼らに会える方法がないかと考えたんだ。そしたらアルバムにマネージメントの名前が書いてあったので、そこへ電話してインタビューできないかと訊いた。Dynasty Tour (1979)の後で彼らの人気に陰りが出ていた頃でちょうどいいと思ったんだ。

僕の友達はKISSのメンバーに会いたいなって言ってるだけだったけど、僕はどうしたら会えるかを考える子供だったんだよ。(笑)それで、先方から最初ポールでいいかと訊かれて、もちろん!と言っていたら、後から都合が悪くなったからジーンでどうかと訊かれた。きっと向こうも必死だったんだよ。

JB:良いインタビューにするものは何だと思う?

ML:それは究極のところ2つだと思う。まず第一に事前のリサーチをしっかりやっておくこと。例えば、ニューアルバムのことを訊いてから次に好きなアイスクリームを質問するようなインタビューってあるだろう?とんでもないね。

それから毎回同じ古いことを訊かないこと。君にも最近インタビューしたけれど、君の12歳のときの出来事はもう何度も話題に出ている。君のインタビューを聴いているのは君のファンなんだから、また同じことを訊く必要はないだろう。

僕は何か少し変わったことを訊くようにしている。例えば最近クラウス・マイネ(Scorpions)のインタビューをやったけど、Desmond Child と2007年にやった『Humanity:Hour 1』について訊いたら、それを訊かれるとは、と驚いていたよ。今まで同じ過去の名盤の質問ばかりだったろうからね。

もう1つは、僕は質問を決して紙に書かないんだ。最初にするアルバムやツアーの質問の後は相手の話を聞いて、そこから訊きたくなったことに入っていく。

基本はリサーチをすることと、計画を立てないこと、それから相手の話をしっかり聞くこと。例えば相手の答えから更に5つの質問が浮かぶこともあるんだ。フェスティバルに行くと、相手の話もしっかり聞かずに質問の答えだけ得ようとする輩(ジャーナリスト)がいるだろう?全く何してるんだ?となるね。

JB:ビッグネームのインタビューだと広報担当者とやり取りすることもあるよね、「これを訊いて、これは訊くな」とか。それはどう対処するの?

ML:重要なことは相互リスペクトだと思う。「先月バスで酔っぱらった話はするな」という広報は他に3人のアーティストも担当してたりするだろう。だからそれを無視することはできない。でも時にはアーティストからそれを話してくることがあるんだ。そういう時は、「彼が話を出してきたんだ」って言う。相手の話を聞いて、そこから質問していくよ。でもそこではある程度のリスペクトも必要だ。

JB:クリックベイト(センセーショナルな見出しを付けて、ネット上で記事へのクリックを誘う撒き餌のこと)の話をすると、俺は31年音楽ビジネスをやっているんだけど、ただの1度もコカインとかそのテのものを勧められたことがないんだ。俺には全く縁がないものだけど、これって侮辱に近いんじゃない?(笑)なんて話をここですると、そこを切り取られて見出しに使われてしまったりするよね。でもインタビューの本文の内容とは全く関係のない話なんだ。こういうジャーナリズムについてどう思う?

ML:イラつくよ。そういう切り出しをするとそこにはもう本来の意味が無いんだ。僕はこうして音声会話をしているから、聞き返せばどういう文脈で会話をしていたかわかる。クリックベイトについては数年前の出来事を話そう。

Blabbermouth.net(ネットのHR/HM音楽メディア)が僕のやったルー・グラム(Foreigner)のインタビューから切り出して、そこに過去のミック・ジョーンズ(Foreigner)が彼に言った悪口を添えたんだ。ルーの妻から電話があって僕はもう出入り禁止だと言われたよ。なぜ?と訊くと、Blabbermouth.net を読めと言う。それは僕が書いたんじゃない!彼女には「あなたがインタビューしたんだから責任がある」と言われたけど、とんでもない!

それに僕がSNSにいろいろ投稿すると、本当に意地の悪いコメントが付くことがあって、僕はそういうのを削除して、できるだけ(スレッドを)クリーンにしようとしてるんだ。僕はアーティストをプロモートしようとしてて、彼らは僕に善意を示して(インタビューに応えて)くれたから。

思うに、Blabbermouth.net とかあの手のメディアは皆、ああいうのをどうにかすべきだ。彼らは結局のところ、アーティストをプロモートしているんだから。バンドの広報がもうあのサイトには載せさせない、と言ったら仕事に困るのは彼らなんだから。彼らはコンテンツ元のネタを使って金に換えているんだから、コンテンツ元に対してもっと敬意を払うべきだ。

JB:その通りだ。マイク・ポートノイやジョン・コラビもそういう目に合ってる。俺は敵対者じゃないけど、ああいう書き方はどうかと思う。メディアが印刷だった時代が恋しいかい?

ML:ああ雑誌が恋しいよ。その前にポートノイの話をさせてくれ。僕の理論では人は10年ごとに新たな自分になる、成長するんだ。だから何十年経ってもポートノイは Dream Theater でしかないような書き方はどうかと思う。

JB:そこだよ。彼は素晴らしいミュージシャンでシンガーで作曲家だけど、それじゃクリックを稼げないからさ。

ML:雑誌については、恋しいと思うところとそうでないところがある。雑誌の付録のKISSポスターを壁に貼るのは楽しかったさ。でも HitParader(1942年から2008年にかけて運営されたアメリカの音楽雑誌)に書いてあるのは広報のプレスリリースのコピペばかりだった。しかも情報は3~5ヶ月前のものばかりで、今の情報は得られなかった。今はネットで最新の情報が得られる。でも時々それは正確じゃないことがある。

JB:情報の量もあるな。今は子供だってちょっと機器を揃えて Podcast をやってたり、俺みたいなのがこうして配信をやってたりするんだ。今はコンテンツの量が多すぎて、本物の情報が見つからない弊害が起きているんじゃないかと思うけど、どうだい?20年この仕事をやってきた君はどう見てるの?

ML:最終的にはコンテンツこそが最重要だと思っている。最近の僕のインタビューはデヴィッド・カヴァーデイル、クラウス・マイネ、デニス・デ・ヤング等だった。僕はこのパンデミックの最中に絶えず努力して一流どころに接触してる。今は誰もが誰にでもインタビューしてるだろう?だから僕はこの競争から前に出る為に普段は捕まえられない大物に申し込んでいるんだ。

JB:本物のライブとトラックを使ったライブについてはどう思う?

ML:この件については支離滅裂になってしまうんだけど、小さなクラブでは血と汗の生のライブが観たい。友人が言った言葉だが、ライブは「不完全ゆえの完全」なんだ。でもアリーナのショウを観るときには話が違って、チケット二人分とディナーや車での移動を考えれば、$800に見合う完璧なライブが観たい。アーティスト側の見方で言えば、常に完璧でありたいだろうね。それがファンの望みだからだ。

JB:アーティスト側から付け足すと、常にこれ(スマホ撮影)がある。

ML:そうなんだ!SNSが全てを変えたんだよ。例えば君のライブがあるとして、行こうか迷っているときに「JBはシンシナティで酷かった」って書き込みを見たら、別のライブにしておこうかなと思う。だから完璧なライブにしようとするアーティストの気持ちはわかるよ。

それから音楽がパフォーマンスの乗り物でしかないアーティストのライブの場合、グエン・ステファニーやマドンナやシャナイア・トウェインとか。彼女らを観に行けば、ファンは音楽を聴きに行っているんじゃない。友達と楽しむとか、ダンスとか、レーザー光線とか。彼女らに2時間踊って歌ってキーを外すなって言うのは無理だよね。だからこの問題はアーティストによっても違うんだ。

だから、もし100人くらいのクラブに行って、もしアーティストが音源を使おうとしたら、絶対ノーだね。

JB:以前ノースハリウッドでリハーサルしてたとき、ギアを倉庫に取りにいったら、コンテストで優勝した若いバンドがリハーサルしてるところに遭遇したんだ。ドアの外にいたら、それは素晴らしい歌が聴こえてきて「うわ、凄いな!」と思ったのさ。で、ドアが開いたんで中を見たら、ステージにはベースを弾いてる子しかいなくて、他の音は全部PAから出てたんだよ!全部コンピューターで操作してた。何十年もギター弾いて歌ってる俺ってアホかと思えたよ。(笑)

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2人の会話はなかなか興味深かったです。最後のライブでの音源使用問題では最後にミッチから80年代のバンドがフェスで口パクのみならずオーディエンスの音まで用意している話も出ていました。(びっくり)

ネット系メディアと「今は誰もが誰にでもインタビューしてる」という話にはいろいろ考えさせられました。

この数ヶ月、Vince Palamara さんという一般の音楽ファンの方が Cameo というアプリを使って面白いことをしていました。Cameo はアーティスト等が登録して、1回の短いビデオの依頼を有償で受け、アプリを通じて納品するサービスです。多くのロックアーティストも登録していて、ファンの誕生日祝いメッセージなどを返したりしています。値段はアーティストによって少額から高額まで様々で、ファンと繋がり、アーティストが隙間時間をお金に変える手法の1つです。

ヴィンスさんはこのアプリを使って、好きなアーティストやその周囲のアーティストに様々な質問をしてその回答を彼らの承諾のもとYouTubeに上げていました。コロナで仕事ができないアーティストに対して助けになったと同時にヴィンスさんにとっても知識欲が満たされ、好きなアーティストのサポートができたのだと思います。(ちなみにヴィンスさんはYouTubeに上げることによる収入を得てはいないそうです。そのためにやっているのではないからでしょう)

 

彼のYouTubeから Blabbermouth.net は7回、他にも17のメタル系サイトが引用記事を書いたそうです。この引用記事を最初に見たときは驚きました。遂に一般人の取材成果からメディアが記事を書くようになったとは!いったいメディアって何なのだろうか?

これらの Cameo を見ると、ヴィンスさんは Sons of Apollo の大ファンで長年のロックファンだから、いい質問をしているのですよね。そういう熱意とピンポイントの深い知識は職業ジャーナリストとの違いじゃないかと思います。

かくいう私も機会を頂き、キップ・ウィンガーのインタビューをしましたし、ジョエル・ホークストラのインタビューもしました。

私が機会を頂けたのは、メディアに予算が無いご時世だったからと思います。来日するアーティストの広報にお金を出すのはプロモーターかレコード会社か、エンドーズ契約会社かなので、そこから出なければ取材者や翻訳者の報酬が出ない=取材は無い、という結果になります。(雑誌等の媒体が積極的に取材する場合は別)

海外には星の数ほどもネット上にメディアがあって、アーティストのインタビューやら大量の情報が流れていますけれど、日本ではロック音楽についても昔ながらの雑誌とかラジオとかTVとか、そういう媒体がほぼ全てで、ネット系メディアはまだほんの一部のような印象です。

私が行ったジョエル・ホークストラのインタビューですが、実は国内業界の方にジャーナリストでもない素人が何してるんだとお叱りを頂きました。でもジャーナリストって何だろう?資格職業でもないし、必ずしも質の高い記事を書いていないジャーナリストもいる。しかも予算のあるアーティストでなければジャーナリストに記事を書いてもらえない可能性が高い。ヴィンスさんは自己資金を投下して取材し、その成果をメディアが二次利用するような時代。

情報は印刷物やテレビの時代からネットにメインステージが移動し、ネットは音楽を始め、いろいろなモノを民主化した。この流れは止まらないと思う。もちろん誰もがメディアになったり誰もがクリエイターになったら質の低いものも多く生まれるけれど、それらはネットの海の中で淘汰されていくのではないのかな。

 

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