今週はGW誌の記事で興味深いものがあったので、それを紹介します。
腕利きギタリストたちが曲をステージでパフォーマンスするため、どうやって準備しているのか。曲の暗記プロセスはどんなものかを質問した回答のうち、スティーブ・モーズ、アンディ・ティモンズ、ジョエル・ホークストラ、ポール・ギルバート、フィリップ・セイス、マーティ・フリードマン、ロン・サール、マイク・ケネリーのコメントをまとめてみました。
ギター弾きの方には参考になるお話かと思います。
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特定のギグでの演奏に向けて、どのように楽曲を覚えるのですか?
スティーブ・モーズ:繰り返しプレイして覚え(身体的記憶)、頭の中で音楽を再生する(音楽的記憶)、そして分析する(理論的記憶)。
身体的記憶はゆっくりと完璧に、止まらずプレイすることでどの部分の練習が必要かがわかる。原曲を聴くことで記憶できるし、分析することでどのキーが使われているのか判明し、アレンジを把握できる。
アンディ・ティモンズ:その楽曲の複雑さのレベルによるね。譜面が渡されたら、僕は最初は参照せずにできる限り耳で覚える。もちろん、難しいフレーズを弾くのに譜面は助けになる。
何年も前に気付いたのだけど、僕が最初に譜面を読んで入ると、曲を耳で覚えるのに対してずっと多くの時間がかかるんだ。耳で覚えるのが僕の指の動きへ直接の回路になっている。
記憶し定着させるのに最良の方法は繰り返し聞くこと。体に取り込んでしまえば考えなくても曲が聴こえる。
ジョエル・ホークストラ:反復練習に勝るものはないよ。僕は通常、ギグ当日を起点に練習開始日を決める。その日からは毎日その曲を演奏する。最終段階ではギターだけで弾く、そうすればもう曲の構造を覚えて何にも頼っていないことになる。
ポール・ギルバート:それが良い曲だといいね。良曲というのはメロディとアレンジが早く記憶に残るように書かれている。歌詞はもっとやっかいだね、調べものが必要だったり自己診断が要るかも。
フィリップ・セイス:ひたすら反復練習。ひたすら弾いて何も考えなくてよいところまでやる。できるだけ深く記憶に定着させて、毎回より上手く弾けるよう取り組んでいる。
マーティ・フリードマン:特に難しい曲の場合、全ての音に対してベストなサウンドで間違えないフィンガリングを決めるのに時間を割く。そして大量の練習をする前にそれを盲目なまでにこなす。
でも多くの場合、暗記することは余り考えずに、何度も曲を聴いて頭に取り込まれるようにすると、大抵の問題は解決できる。
ロン・サール:短いパートに分解するのが良い。複雑なフレーズなら、小さなセクションに分けて、セクションを練習する、それからセクションを繋げて練習する。
長いアレンジの曲なら、コード進行の数を数えてその数の並びを覚えるんだ。紙とペンを持って覚える曲を書き出すと良い。
それから曲を覚えるのに異なるキーで演奏する。練習時にはオケに合わせて弾かないようにする。曲のガイドが必要ないところまで練習するんだ。
マイク・ケネリー:何十年も前、ブライアン・ベラー(ジョー・サトリアーニのベーシスト)から聞いたんだが、彼が知らない曲を覚えるプロセスというのは楽器を手にする前に何度も何度もその曲を聴くということだった。
私も時間のあるときは、ひたすら曲を聴いてすごす。家でも車でも聴いて、その何が良いのか分析する前に、曲としてサウンドとして知り尽くす位まで。
そこまできたら、後は黙々とやるだけだ。自分のパートを小節ごとに覚えるのさ、ゆっくりと、微妙なニュアンスを会得して、必要なら曲の構造を書き出して、脳の記憶と体の記憶を同時に積み上げるんだ。
新たに曲を覚える上で最も難しい面は何ですか?
スティーブ・モーズ:一番難しいのは、(観客による)気の散る環境を作ることだ、実際のギグのようにね。例えば、何か通常でやらないこと、遅いテンポでプレイするとか(これは言葉よりも難しい)で試すことができる。でも人前(家族や友達でも)で弾くことが良い準備になるから、気の散る状況に慣れることだ。
アンディ・ティモンズ:音符を暗記することが1つ。曲の形式を覚えることは時により難しい。でもこれらは全て曲を体に吸収することで解決する、だから繰り返して聴くんだ!
ジョエル・ホークストラ:短い時間で多くの曲を暗記すること。Foreigner のコンサート・セットを24時間で覚えなくてはならなかったとき、僕は1時間50分間集中して覚え、10分間の休憩をとって身体を横にして目を閉じて脳が処理できるようにした。
(訳者注:ジョエルが Night Ranger 在籍時、Foreigner とツアーをしていたが、ミック・ジョンソンの健康上の問題で代役に指名され、24時間で準備した経験がある)
ポール・ギルバート:暗記するには多くの時間を割いて聴くこと。好みの曲ならそれが楽しみになるけれど、その曲の作りが雑だとしたら苦労することになる。
フィリップ・セイス:集中力を切らさないこと。外部のものに気を散らさずに自分のゴールをしっかり見据え続けることで、曲に息が吹き込まれ命が宿り、グルーヴが生まれるんだ。
マーティ・フリードマン:自分の曲なら覚えることは全く難しくない。僕にとって暗記するのが難しいのは他人が書いた複雑なパートだ。そういう場合、練習時に詳細な合図を付けていく。
例えば「ダブルタイムのフレーズ」、「初回はF#で終わり、2度目はGで終わる」、「3拍のロングトーンを保ってから上昇」とか。特に似通った多くのパートを弾かなくてはならないときに。
ロン・サール:変わったアレンジを覚えるのは難しい。1つのバースでのみコード・ビートが余分に1つあるとか、休符とキー移動が予想外の場所にあるとか。
対照的に、単純な曲が覚えるのに難しいこともある。多くの曲に似通ったコードが使われていて、演奏の順序において少ない違いしかない。別の曲のパートを混乱してしまうことがある。
マイク・ケネリー:私の経験則では、シンプルな曲ほど暗記が難しいものだ。正反対に感じるかもしれないけれど、私にとっては全く理にかなっているんだ。
私がザッパの作品を覚えているとき、自分に定着させることはとても簡単だった。なぜなら全ての奇妙なメロディやコード変化は私がそれまでに弾いたことのないものだった。だから私の記憶に定着するのは早かった。それらを愛聴してきたことは無論役に立った。自分の一部のように感じたから。
対照的に、ジョー・サトリアーニの作品を覚えるのは難しかった。彼の作曲における創作過程はもっと繊細だからだ。
当初の暗記過程は全てを吸収するのに苦労した。そのような場合にはひたすら繰り返して聴くことが覚えて弾く前にとても重要だ。必要なら(曲の構造を)図に書き出すのは役に立つだろう。そうすることで異なる曲間の繊細な区別がつく。
ステージで演奏する上で、パートを忘れないようにするコツがあれば教えてください。
スティーブ・モーズ:異なるテンポや違うシナリオ、セクション毎などで練習すること。しかし重要なのは頭の中でできるだけ何度も反復すること。待ち時間や移動時間や行列に並んでいるとき、頭の中のフレットボードで音楽を視覚化するんだ。自分のアプローチを多様化することで自分のアプローチの基盤を強化できる。
アンディ・ティモンズ:集中力が一番難しいだろう。ステージというのは練習部屋とは全く異なるものだ。僕はバンドとオーディエンスに向かいたい傾向があって(もちろん、これらは譜面に頭をうずめていては不可能だ)そのためには楽曲がしっかり自分に根付いて自然なものになっていることが大前提だ。
それによって僕はただ演奏してその瞬間に音楽を投影できるんだ。ミスが起こるかって?もちろん、でも少なくとも僕は最高に楽しんでいるよ。
ジョエル・ホークストラ:反復、反復、反復あるのみ!誰かが耳元で叫んでいても、完璧に弾けるくらいに曲をしっかり覚えることさ。
ライブ演奏では様々なことに気をそがれる。インイヤー・ミックスの音が変だったり、観客の誰かが何かしていたり、バンドの誰かが(機材の)技術的問題を抱えていたり。そういったものに気を付けないと自分のパフォーマンスが低下してしまう。
ポール・ギルバート:僕が曲の何かを忘れてしまったなら、バンドの誰かがカバーしてくれるのを祈るよ。僕はただボリュームを落として自分の居場所を見つける。3ピースのバンドでは隠れる場所はないから、しっかり曲を覚えていないといけない。それかアームで狂ったように弾くしかない!
フィリップ・セイス:言ったように、しっかり繰り返し練習すること。時折、なぜか思い出せないところがあったら、小さな図を書いて床に貼るんだ。
要はその瞬間に集中して、歓びと感謝、興奮と楽しみの気持ちを持って音楽にアプローチすること。
マーティ・フリードマン:コンサートそのものは自分のベッドルームやリハーサル室や同日のステージ上でのサウンドチェックとも圧倒的に異なる雰囲気であることを理解して気を引き締めること。
不必要な感覚的情報を絶え間なく浴びる結果として、集中力を大きくそがれることもある。それを頭に入れて準備することで当日の問題を摘み取るのに役立つだろう。
ロン・サール:観客に観られると心境は普段と異なってしまう。だから、人に観られるところで練習しよう。曲を弾くときには人の目を入れるんだ、インスタグラムのライブをしたり、君の脳をパフォーマンスのモードに入れるもので。それから観客の目の届かないところにパートのメモとかのカンペを忘れずに!
マイク・ケネリー:まず本番の前に沢山練習することは必須だ。自分の脳をシャットダウンして体の記憶だけで弾けるくらいになるまで。体に刻んだ曲の記憶は脳の記憶よりもずっと長くもつ。だから、自分の体の記憶を信頼して仕事を任せ、頭に邪魔させないことができるかなんだ。
例えば、これから来る難しいパートのことを考えすぎると、何もそのことを考えずに自分の指の動きに任せた場合よりも、必ず多くの場合でお粗末な結果になる。
曲を何度も弾いて練習するより他の方法はないんだ。だから時間をかけるんだ、そうすればその結果はその後何年にもわたって実を結ぶだろう。
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皆さん共通の答えが繰り返し聴いて練習することでしたね。それ以外の道はないとの事。
そんな中で私はマイク・ケネリーの回答を興味深く読みました。