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ジョエル・ホークストラ 「全てのニュアンス、スライド・アップ/ダウン、ヴィブラート/ノーヴィブラートまでを学ぶ」

ジョエル・ホークストラがトッド・カーンズ(Slash featuring Myles Kennedy and The Conspirators のベーシスト)の podcast に登場しました。

ビッグなバンドでギグをこなしながら、ワーキング・ミュージシャンとして活動する両者のトークからはプロの仕事とは何かという話も伺えて、なかなかに興味深い内容となっています。

多岐に渡ったトークの一部をざっくりまとめて和訳してみました。

 

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Todd Kerns (TK):(ツアーで旅を重ねていると)ここって来たことあるっけ?ってなることあるよね。うちのバンドはドラマーの記憶力がいいので、ホテルや会場が以前も来たところだって教えられるんだ。(ツアーでは)空港・バス・会場・ホテルの繰り返しだからさ。

Joel Hoekstra (JH): ああ、空港に詳しくなるよね。2019年からこのコロナ禍が始まるまで、僕は Whitesnake と Cher を掛け持ちしていたから、そういう妙な体験をしたよ。3ヵ月前に Whitesnake で滞在したのと同じホテルにまた泊まったり。違う人たちと同じ場所に戻ってくるんだ。(笑)会場やホテルに詳しくなるよね。

TK: 君は Whitesnake, Cher, TSO を掛け持ちしているけれど、ストレスに感じることはない?優先順位を付けて、こなさなくちゃならないだろう?

JH: ああ、もちろんストレスはあるよ。これら全部をやろうと人生の何年もを捧げる訳だから。でも僕にとってはこれが通常でもあるんだ。こうすることで常にキャリアを進めてきたから。ブロードウェイのショウ Rock of Ages をやっていた期間もずっと。

TK: 劇場の世界は知らないけど、ロック界とはプレイヤーの代役に関する考え方が全く違うよね。

JH: ああ。あっちは組合が強いんだ。代役であろうが何だろうが、組合から雇用通知を受け取ったらそれは自分のギグなんだ。満席にするよう全力を尽くす。それはそれでとても良かった。別に他者より目立つとかそんな必要はない。仕事なんだ。

TK: ロック・バンドではそれが日常だよね。だから自分の代役を選ぶときは気を付けないと。いや、僕らもそうしてここにいるんだから。誰かの代役をやって、気付いたらそのバンドにいるんだ。

JH: ああ、そうだね。実際にそういうことが起こっている。ファンは(メンバー交代等を)個人的に受け止めてしまうんだ。TSOはとてもプロフェッショナルなショウだからそういうことはないけどね。バンドの個人ではなくショウ全体が重要なんだ。

僕はプロとして常にどんなギグにも感謝している。そこに合わないギタリストだと思われたり、僕がそのギグを尊重していることを理解されないのは辛いよ。

(訳者注:恐らく、ジョエルが Cher のギグをやることについて、ハードロックのファンから否定的なコメントが寄せられることについて言っていると思われます)

TK: ああ。だってバンドにしろプロジェクトにしろ、ショウにしろ、1年の何ヶ月かは仕事があっても、残りの時期の仕事が必要だから予定を埋めなくちゃならない。

JH: そうなんだよ、でもそういうことを理解しない人たちがいるってことに驚くんだ。音楽業界は既にこういう仕組みになっているのに。それにレコーディングに供される資金やレコーディング~ツアーのサイクルは以前とは違うんだ。

TK: ああ、ベガスでも同じだ。多くのショウで働くミュージシャンが多数いる。皆が様々な人の代役をする、これが至って普通さ。そして君が言ったように、レコーディング業界は過去とは変わってしまった。それが Rolling Stones や Aerosmith や KISS がツアー日程を増やしている理由だ。ツアーが収益源ということさ、もはやアルバムではないんだ。

JH: ああ、そうだ。だから個人としては常に生産的でいること、できることをやるしかないんだ。

(この後、ジョエルの家族やギターを始めるきっかけの話が続きます。詳しくは過去記事でどうぞ)

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JH: それで僕の2人目のギター教師が T.J. ヘルメリッチだったのだけど、彼は後にロック・フュージョンのキャリアで知られる腕利きのプレイヤーだ。彼に師事できてとても幸運だったよ。彼に8フィンガーを教えられたんだと皆は思うだろうけど、12歳の僕には「これがベンドだ」とかそういう基礎を教えてくれたのさ。彼が8フィンガーをやっているのを見て、「それどうやるの?」って教えてもらったのさ。

"Rock In America" のソロを教えてもらったのを覚えているよ。家に帰って天井を見ながら8フィンガーを練習したのさ、あれが一巡して僕の人生に(後に Night Ranger 加入という形で)戻ってきたのは不思議だね。

TK: どんなレッスンだった?

JH: 彼は譜面にも明るい人でそれも少し習った。5~10分 Mel Bay のギター教則本をやって、20分ほど曲を弾くという30分のレッスンだった。僕にとっては20分の曲を弾く時間が全てだった。譜面を読む必要はやがて僕のキャリアで必要になったから、学んだ。できるようにしておいて良かったよ。

Rock of Ages をやっていた頃、友人の代役でミュージカルのオケピの仕事をしたんだ。300ページの譜面を渡された。

TK: それは凄いな。そんなシーンに遭遇したら僕は「無理」って感じだから。

JH: 劇場の仕事にしろ、誰かの代役でプレイするときに重要なことはできる限り前任者のしていた通りにプレイして共演者が(変化を感じずに)気持ちよく演じられるようにすることだ。代役が自己主張したプレイで毎日演じている共演者を不快にさせないということ。

TK: ああ、わかるよ。Alice Cooper band に代役が入ったとして、そこに代役がいたとは観客も気付かないようなプレイをするということ、それが代役の仕事をやったということさ。それがやがて自分のギグになったら、プレイの幅を広げることができる。

JH: その通り。僕はブロードウェイでそれを学んだよ。『ターザン』のオケピに代役で入ったのだけど、作曲者がフィル・コリンズで、ショウの立ち上げ間もなくだったから、彼がまだ劇場に来ていたんだ。譜面を前に死ぬほど緊張して弾いていたら、隣に誰かが来て見ている。見上げたらフィル・コリンズだった。

TK: ワォ!

JH: 彼は僕が譜面通しで弾くのを聴いていたんだ。凄い!と思って、自己紹介しようと思った。僕は代役を依頼した友人の通りに譜面を覚えていたんだけど、1リックだけ、自分の思うようにやりたいところがあったんだ。シュレッドなんかではなく、ただのリックでその方が良いサウンドだと思った。

その1箇所だけ変えたらショウの後でフィル・コリンズが指揮者に何か言ってたんだ。「彼にそれは絶対するなって言っておけ」と言ってるみたいだった。(笑)たったの1リックだ!たった2拍長い位だったのに!

TK: それに1発で気付く彼らがいいよ。(笑)

JH: 後で友達に言われたよ、ほんのちょっとのことだったのに、「二度とするな」って(笑)

TK: それがロック界とは大きく違うところだね。Whitesnake の方は?

JH: デヴィッドとはとてもウマが合うんだ。彼はとても寛大な人で、あのバンドに加わるというのは僕にとって素晴らしい以外の何物でもないよ。パンデミックが終わったら、バンドとしてもっと活動したいね。

TK: それに Whitesnake は長く続いている。パンデミックにも関わらず、次の活動に向けて前進しているんだから。

(訳者注:先日、カヴァ様がコロナ明けの次のツアーをフェアウェル・ツアーにしてツアーからは引退することを発表する前の収録だった模様)

JH: 先日デヴィッドとメッセージをやりとりしていたら、僕が加入してもう7年になるということだった。時が過ぎるのは早いね。

TK: Cher の方は?

JH: デヴィッドが膝の手術でツアーができない期間があったので、何か代役の仕事があったら声を掛けて欲しいと友人に声を掛けていたら、話がきたんだ。でも最初、Cher 側にロックギタリストでも、きちんと(このタイプの)ギグをこなせるのか説明しなくてはならなかった。1つのピースとして仕事をこなせるのか、皆が心配したのだろうね。実際には僕は長い年月そういう仕事を経験してきているのだけど。

TK: そうだ。君にはできることが多彩にあるのに、Whitesnake だと言うと人にはハードロック・ギタープレイヤーかと、それで判断されてしまう。それは君の才能の一部でしかないのに。

でもショウのパフォーマンスの上で Cher はロック・ガイという外見の君をショウに加えるのを喜んだのではないかい?

JH: あれは、僕のアイデンティティを少しばかり入れた動きだ。代役として僕は最初、前任者デイヴのギターとアンプでプレイしていたんだ。できる限り、彼と同じ音を出すよう心掛けた。

音楽監督が全ての演奏を片側にクリックトラックと共にいれて、ギタートラックのみを別サイドにして音源をくれたんだ。おかげで僕は(前任者の)全てのニュアンス、スライドアップ/ダウン、ヴィブラート/ノーヴィブラートまでを学ぶことができた。

それをモノにしてから、彼らがくれた前任者のステージビデオを見て、僕は彼とは少々違うステージプレゼンスを、僕のパフォーマンスを出そうと思ったんだ。僕はそうやってギグの準備をして、皆が気に入るか後は運に任せるんだ。

あと、僕の髪をどうにかしなくちゃいけないかと訊いたよ。髪をまとめて帽子を被るとか、どうとでも。ポップ界ではこの頭はクールじゃないかも知れないから。でも Cher が長髪を気に入ったんだ。

 

 

TK: ああ、僕の見る限り、君の髪はヴィジュアルを加えた要素の1つだったよ。
今年後半以降にはライブが戻ってきそうだけれど、君の予定表はどんな感じだい?

JH: 今のところ僕に公表できることは無いよ。デヴィッドの計画ははっきりとはわからないんだ。彼は数ヶ月ツアーに出て、数週間家で過ごすのが好きだから、ツアーはそれを繰り返す感じだ。これは国内だけでなく海外の日程も含めてのこと。だからブッキングが国内ほど単純じゃない。

TSOについては、国内のみで11~12月のことだからね、様子をみてみよう。TSOのマネージメントはプロフェッショナルだし、ツアーを望んでいるから彼らがどう采配するのかについては信頼している。

 

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TK: 今日はありがとう、君が複数のギグをこなしているのは君に特別な才能があり、一貫した能力、自分の属する団体の負債にはならず、プロとしての行いができるということが聞けた。君は正に完璧な例だ。

JH: ありがとう。また僕たちがプレイできるようになったら、プレイしてそれを証明したいよ。(笑)

TK: 君と最後に会ったのは、2019年にヴェガスの Vamp'd でジェフとジェイソンのアコースティック・ライブだったな。

JH: そうだ、彼らに連れていかれたんだよ。彼らを何とかいいサウンドで聴かせるのに苦労したよ。(笑)

 

TK: 彼らを担いで、腰が痛くなったよな。(笑)

JH: 僕らは生身の人間なのにね、彼ら何を期待してたんだろう。(笑)

TK: ハハ。最後に君とツアー先で会ったのは2019年の Download フェスだったよね、また会えるといいな。僕は楽観主義者だから、またかつてのようなツアーは始まると信じている。また会おう、兄弟!

JH: ありがとう、また会おう。

 

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