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ジョー・サトリアーニ 「ツアーはキャンセルする。誰の命も危険にさらす訳にはいかない」

ジョー・サトリアーニがニューアルバム『Shapeshifting』のリリースをするもコロナ・パンデミックによりワールドツアーをキャンセルした内幕などをインタビューで語っていました。生々しい話はなかなかに興味深く、そしてサッチの人柄が伺える内容でしたので、一部を和訳してみました。

guitar.com

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ツアーできないことがわかっていて、『Shapeshifting』をリリースするのは奇妙な気持ちではありませんでしたか?

このアルバムがいつ世に出るにしろ、音楽が永遠に(ファンの)手に届くことで私は大きく息を吐いて「よし、タイミングはどうでもいい」と言えるんだ。自分のコントロールできることがある場合には出来る限り最善の成り行きを得られるけれど、そうでない場合には自分にコントロールできることはない。今回は後者が起こった。私にとってはもうそこに現実があったんだ。何かが起きている、とても悪いことだが、私たちは対処しなくてはならない。私がアルバムを出したからといって、バンドとクルーをツアーに強制するなんてありえない。

例えあの時期にツアーをやろうとしてもできなかったのでは?

ノーと言わない国もあった。フランスは一番長びかせていた。フランスのプロモーターにとっては悲惨だったよ。彼は最後の瞬間まで「来ないなんて言わないでくれ」と言い続けていた。一方で他の国は全て「もちろんです、来ないでください」だったというのに。

ニュースを見て、その決断をしなくてはならないと理解したときはどんな感じでしたか?

理解して欲しいのは、アルバム制作に費用をかけ終え、ツアーに支出して出発直前のときには、大きな予算が動いているということだ。旅費でおよそ$100,000を既に支払っていた。でもこのビジネスでは鉄の精神が必要なんだ、そういうものさ。

最初、私が皆に電話をしたとき、「いいか、ツアーはキャンセルしなきゃならない。アルバムのプロモートの為に誰の命も危険にさらす訳にはいかない。ここは現実的になろう」と言ったのさ。

難しい決断だ。でもそれ程ではなかった。私は医療界にいる友人たちと話して、このウィルスが世界のどの地域でピークを迎えるのか予想を訊いたんだ。ちょうど私たちがツアーを組んだ欧州で起こっていたから。

バンドとクルー皆がツアーしないことに合意すると、次にパートナーたちにどう対応するかを考える必要があった。彼らは私たちが興行できるよう大金を投資しているんだ。

会場の使用料も。プロモーターは会場と使用契約を結んで会場を借りるし、様々なビジネスが進行している。チケットを完売しライブが行われるまで多くの人が神経をすり減らしているんだよ。ツアー最後までハラハラの連続さ。

そして今回のことが起こった。これは有り得る最悪のシナリオだ。私は既に全員分の搭乗券と滞在費用を支払っていたからね。バスもチャーターしていた、全てだよ。長年親交のある友人のプロモーターも既に費用を払っていたが理解してくれた。一部の国では、会場が返金を拒んだんだ。パンデミックなんてない。政府はそんなことを言っていない。だからこの金は返せない」チケット販売から彼らが得た金だったが、もちろんチケットは返金しなくてはならない。恐ろしい悪夢だったよ。

バンドとクルーに伝えるのは辛かったですか?

もちろんだ。自分の得ている情報のせいで楽観的だった人もいた。地域のコミュニティで医学発展の最前線にいて国際的に他の医者たちと仕事をしている友人たちが私にはいるので、彼らに話を聞くことができるんだ。彼らは赤い旗を振っていた、信じがたいことにね。TVをつければ「ディズニーランドはまだ営業してる!」なんてまだ言っていたときだ。

多くの人にとって辛いことだったよ、よくわかっている。ギターテク、ドラムテク、皆が仕事を失うんだ。現地や旅行関係のクルーにも絶望的だ。ライブをやるのに必要な人たちが皆今は家にいるんだ。

でも結局のところ、チケットに名前が載っているのはあなたなのですから、もし誰かが亡くなれば取り返しがつきません。

そうなんだ。そのリスクを冒す価値はない。SARS のときに私が言ったのがそれだ。「ロックの為にバンドやクルーを犠牲にするなんて思うかい?とんでもない」1ミリ秒だってそんなことは考えない。決断は明らかだった。それはG3の短いアジアツアーだったけれど、反感を買った決定だった。アジアのパートナーは皆、何年も私に腹を立ててなかなか再訪できなかった。「あいつはまたキャンセルするに違いない」と言われてね。

あなたはこの件全てでとても良識があり、賢明です。

一番重要なことを肝に銘じているんだ。ファン、コミュニティ、そして家族の健康と安全。そして自分が生き残ることも大事だ。

そして他のことにも気付く、音楽が全てさ。アルバムは完成している、ではなぜリリースしないなんて有り得るんだ?ファンにニューアルバムを約束したのに、収益を心配してそれを取り消すなんてすべきじゃない。ビジネスは自ら道をみつけるだろう。私は『Shapeshifting』というクリエイティブな記録を誇りに思っている。参加者はこの作品に持てる全てを注いでくれた。だから「これは家に籠っている人々に完璧な贈り物だ。マスク、手洗い、消毒の日々を忘れられる音楽を届けよう」と思ったのさ。

そうですが、「発売を延期しよう」というレーベルもあります。

それは全く起こらなかった。私たちはすぐさまSonyと相談し、実に率直な意見交換ができた。「この音楽で何を達成しようとしているのか」が最大の課題だった。そして答えはいつも通り、ファンに届けようだった。音楽を届けるんだ、それを念頭に置けば、「なぜ止める必要がある?」となった。アルバムはミックスもマスターもされ完成して、私たちは準備万端だった。

実際、私の創作者の立場としては、「今リリースする必要がある。来年には(クリエイティブ面で)別人になるだろうから」だった。私はそういう人間なんだ。アルバム制作を終えたら、次に進みたい。仕方ないのさ、私はアーティストだから。何か創る、それを世に出す、そして次に進む。

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正にそれをしている訳ですね。今は1度に2枚のアルバム制作をしていると。

そうだ。今回のツアーバンドでボーカル入りのアルバムとインストゥル・メンタルのアルバムを創る。ボーカル入りアルバムについてはまだスタイルを決めていないけれど、インストアルバムの方は10~11曲が入ってきている。楽曲構造に大きな違いがあってとても興奮しているよ。

『Shapeshifting』にはロックの確かなアティテュードがあった。グルーヴや前面にくるギターサウンドはクラシックだ。新作では変わったコード形式とキー移動を多用し、異なるグルーヴを使う。バンドが即興して展開できるよう、スペースを皆に用意するつもりだ。それはつまり、長い曲になるということだから、ロック・ラジオでは気に入られないだろうね。

各自がリモートでレコーディングするのですか?

リモートでやる。私とキーボード奏者のレイのパートは1~2ヵ月の間にできてしまう気がするんだ。彼はシドニー在住で私はサンフランシスコだ。ケニー、ブライアン、エリックはカリフォルニア南部にいるので、必要があれば集まれる。

通常とは大きく異なりますね。いつもはスタジオで全員集まり、あなたが決断しながら進めますよね。リモートでは送られた音源にあなたが驚くかも知れません。

ああ、それでいいんだ。今回は私が意図的な決断をして、バンドアルバムにすることにした。音楽は私だけでなく皆を反映したものになる。どういう風にアルバムをリリースするのかまだわからないけれど、ツアーに出られるようになったら沢山の音楽があるってことに興奮しているよ。

2021年のツアーはどんな形になるのでしょう?

それまでにはワクチンができると想像している。それに、どうやってファンをイベントに集めるか考え出されるのではないかと思う。そこはそれほど難しい問題じゃないと思うんだ。難しいのは演者と技術担当者だ。CDCやWHO等からの推奨やガイドラインに従っては、私たちが通常することができないんだ。どうやってギターテクと6フィート離れて仕事ができるというんだい?

あなたの友人のギタープレイヤーはこの状況にどう対処していますか?

幾人かはほぼ私と同じだよ。スティーブ・ヴァイがいい例だ。彼と話していたんだけど、この状況が私たちにとってはちっとも異常ではないんだ。私たちは自分の洞穴に潜ってギターと音楽制作に没頭できるから。子供の頃から私たちはちっとも変っていないんだ。

成功したビッグなバンドにいる友人はこういう時のために貯蓄してある。彼らの陣営は「2021年でも2022年でも、その時には世界のスタジアムを制覇する」と言っていて、彼らは悲観していない。

一方で、私の友人の中には家賃を払うため週に5日クラブで演奏する人もいて、彼らにとっては本当に厳しい状況だ。パーティやイベントで演奏する人も知っているけれど、とても苦しんでいて気の毒だ。ミュージックストアを経営する友人もいるけれど、彼らにとっても酷い状態だ。
今は皆の安全を願っているよ。

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SARSのときにG3のアジアツアーをキャンセルした話がでてきましたけど、2003年ならヴァイ先生とイングヴェイのときですね。そのメンツで日本も来る予定だった?

それから今後のライブでのオーディエンスの感染防止策については何か方法が考え出されるだろうと楽観的だったサッチですが、ミュージシャンとクルーたちの舞台裏での感染防止策には不安な意見でした。確かに対オーディエンスと同等に対策が必要でしょうから、その問題も解決されなくては。