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ロン・"バンブルフット"・サール コロナ危機後のコンサートの変化:ストリーミング併用と技術革新の可能性

4月後半に公開されたロン・"バンブルフット"・サールのインタビューは、コロナ危機後のコンサートの変化など、とても興味深い内容でしたので、一部を和訳しました。

今後起こるコンサートの変化について、思慮深いロンさんらしく様々な可能性を語っています。直接のミート&グリートが無くなる世界はとても残念だけれど、一方でストリーミングの分野は益々発達しそうです。

 

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今の状況で調子はどうですか?

いいよ、ニュージャージーの自宅に籠っているところだ。時間という贈り物を与えられたのだと思うようにしている。時間というのは常に手からこぼれていくのに、思いもしなかった時間を与えられているんだ。もちろん、医療やライフラインの最前線で命を危険に晒しながら働いてくれている人々に敬意と感謝の気持ちを持っている。ここ(NY州)では大変なことになっているからね。

時間があり余った僕たちにとって、今は学習し成長する最良の機会だと思う。新しいことをやったり、新しい技術を身に付けたり。僕らは普段の生活をぐっと低速に落とさざるを得なくなったけれど、そのせいでストレスの元だった慌ただしい競争に参加しなくても良くなった。実はもっとすべき大切なことがあったんだ。この時間を楽しみ、もっと心の平穏を得る、言葉にするとヒッピーぽいけれど、僕はそう思っているんだ。

今は自宅スタジオですごし、音楽制作に時間を使っている。これまでは忙しくてできなかったことだから。だから僕は今の状況をありがたく活用して、自宅にいることで自分も他人も健康でいられるよう責任ある行動をしている。それしかできることはないからね。この状況では皆が困難に耐えて回復すること、人間は元々そういう性質なんだ。そしてこの時間に良い目的を見つけることだ。

"Planetary Lockdown" という新曲を出しましたよね。

何でこんなタイトルにしたんだろうね(笑)(配信リンクはこちら

今の状況の最初の頃、欧州にいましたよね。全てが閉鎖され始めるときでした。

一番最初は中国にいたときだ。(昨年)11月の終り頃、僕は Cort Guitar のチームとアコースティック・ツアーをやっていた。韓国と中国に行ったのだけど、中国での最終日だ、食用ではない動物を食べた3人が病気になったとレポートが出ていた。でもそれは武漢じゃなく北京近郊のどこかだった。僕らもそこから1時間くらいのところにいたんだ。そしてそれから1ヶ月も経たないうちに武漢からのニュースが出始めた。(それが起源なのか)もちろん可能性の話ではあるけれど、世界中が活動停止のボタンを押す事態になった。

その後、Sons Of Apollo で欧州をツアーしていたとき、僕らは20のショウを予定していたけれど、4回のショウを終えたところで中止して帰国しなくてはならなかった。僕らは状況がエスカレートしていくのか、事態がどんな方向に向かうのか、だとすればどこまでショウを実施できるのかを慎重に検討した。バスのことも考えなくてはならなかったんだ、フライト移動の後、途中からツアーバスを使う予定だったけれど、その日程のショウはできないので、バスをキャンセルした。

プロモーターたちと話したのだけど、ある人には「(キャンセルするとは)訴えてやる!何も問題なんてないじゃないか、お前らは臆病者だ!」って言われたよ。でも1週間後には、その人の国は完全に閉鎖されてしまったんだ。同じ人が「俺が間違っていた。君らが無事だといいのだが。できれば延期日程を話し合いたい」って言ってきた。

 

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これは僕らが謙虚に思い起こす事例になると思う。僕らはこの世界において、ただのゲストでしかない。僕らが全てを取り仕切っている訳ではないし、僕らは優越する種でもない。自然界がほんの少し動けば、僕らは死に絶えてしまう。僕らは今あるもの全てに感謝するべきだ。健康であること、互いに助け合うことなどね。これは人間が全能ではないという注意喚起なのだと思う。

ツアーはいつ再開できると思いますか?

わからないよ。今のこの状況では僕は何の計画もしない。僕らがかつてのアナログな世界にいつ戻れるのか、それまでは現状を受け入れてこの生活を続けるよ。今の状況はストリーミングについての技術発展を早めるだろうね。以前からあった会社 StageIt (訳者注:ストリーミング配信のプラットフォームで多くのアーティストがこのシステムを使ってライブ配信をしている)がある。

1つの場所からショウをやって配信できるとして、今はレイテンシー(訳者注:データ通信の遅延時間のこと)問題がある。スカイプで誰かとジャムしようとしても、君が弾いた音は相手に半秒遅れて届くし、それを聴いてプレイした相手の音が君に届くのにも半秒ズレる。全員が同じタイムを共有できない、これが大きな問題だ。

思うに、今多くの人たちがこのレイテンシーを減らそうと試みているはずだ。これを想像してみて欲しい、全員が異なる場所にいるバンドメンバーが同時にシンクロでプレイできて、皆が同じタイムを共有できる世界。もしこれが実現したら根本から変わるだろう。

 

それに人々はこの生活様式に慣れていくのだと思う。外出制限が解除されたとして、もうツアーをやりたくないと言う人が出てくるのではないだろうか。「自宅から直接、相方向のショウを配信したい」とね。

それにこう言う人も出てくると思う。「クラブに深夜までたむろして、1時間かけて運転して帰るのは嫌だ」とね。「家で観るよ。夕食を食べながら観れて、コンサートに出かけるのと同じだ」そう考えるだろう。

僕らが以前の生活に戻ったとしても多くの残留効果が残るのではないかと思う。これは消えてなくならないんだ。今僕たちが経験している生活は今後も新たな様式として続く。

あなたに賛成です。今後コンサートが再開されるとして、小さな会場になりますか?スタジアムやアリーナでのコンサートはもう開催されないのでしょうか?

ここで僕の別の考えを言おう。2つを組み合わせる試みがあるのではないかと思う。アリーナでのコンサートはあるのだけど、それはまたストリーミングされるんだ。スクリーンがあって、選ばれた何人かの人がいる。要は何人かをステージに上げてバンドと歌わせるみたいなことさ。

今はその代わりに誰かを分割したスクリーンに招き入れることができるよね。ファンから誰か選んで質問してもらうとか。そういうことを加えて1つのライブショウにできるのではないか?そうなったら面白いのではないかと思うよ。

新しいVIPの仕組みを想像してみよう。従来の「バンドに直接会って、握手して写真を撮ったらさっさと消えてくれ」みたいなナンセンスの代わりに、デジタルでストリーミングを使った何か、例えば1曲一緒にジャムするとか。そうして考えると可能性は無限大にある。ファンやバンド、皆のために何か特別なことができるのではないか。

ミート&グリートの話が出たのは興味深いです。今後ファンと直接触れ合うことに躊躇しませんか?

この後、人々は直ぐには以前のように握手したりハグしたりしないと思う。今の状況に慣れてしまったから、皆が注意深くなるだろう。

今後劇場が再開されても、人数を制限し、人々は互いに距離を取り合うのでしょうか?

劇場で互いに2メートル距離を取って座っているところを想像してみて。これが終わっても人々は病気にならないように注意深く行動するだろうから、隣に座ることや接触は避けるだろうし、咳をしたら銃を取り出したかのように見られるだろうね。

外出制限が解除されても、奇妙な状況だよ。バンドは皆ツアーに出られなくて、いつ再開できるかの賭けをしているようなもので、世界中の多くの会場は2021年いっぱいはすっかり押さえられている。そしてその会場の半分はいまだ再開されていない。どうやって支払いをしていくんだ?
この先6ヶ月、僕らはビジネスができないけれど、請求書はやってくるんだ。でもこれは僕らだけの問題ではない。皆が食も住居も必要だ。皆が仕事をできずにいて、政府の仕事は十分に全員を救えるほど迅速ではない。ではその結果何が起きるのか?公ではなく私のセクターで相互扶助が始まるのか、ただ恐怖におののくのか。

既にそれは始まっていますね。バンドはツアー再開が待ち遠しいのでしょうか?

今まで忙しすぎて家にいられなかった人たちがペースを落として、家族との時間が持てて喜んでいるというのはあるけれど、ツアーを恋しく思う人も多いね。実のところ僕はツアーは好きじゃないんだ。教えることとプロデュースすることが好きなんだよ。でも今は心からツアーが恋しい。街から街を移動し、自分たちの仕事をやって、数時間汗まみれになり、持てる全てを注ぐんだ。それにツアーバス。僕はツアーバスで最高の眠りにつけるんだ。僕の小さな棺桶、10時間だって眠れる。

イスラエルの Dodies というバンドをプロデュースしたそうですね。

Dodies!アルバムが24日にリリースされるんだ!素晴らしいバンドなんだよ。彼らはテキサス郊外にいて、僕はそこへ出向いて共同プロデュースすることになった。2人の若者のうち1人はカート・コバーンのような詩的魂の持ち主で本物で真っ当、正にアートというタイプだ。もう1人のドラマーもそうなんだが、彼は片手でグルーヴを生み、片手で鍵盤を操りベースを弾く。The White StripesRadiohead のようなグランジっぽい味があって、素晴らしい曲を書く。(アルバム試聴はこちら、MVはこちら

今後の予定を教えてください。

カバー曲をアコースティックでプレイしてレコーディングしている。(リリースされたEPはこちら 現在はもう1枚のアコースティックEPを制作中)それから "Planetary Lock Down" のようにソロの新曲も。今度はもっとクリエイティブなタイトルを思いつかないとね。それから、Sons Of Apollo の新曲も書き始めるよ。

あと、僕のソロバンドのドラマーでUKにいる、カイル・ヒューズとビリー・シーンがベースで、僕がギターとバッキング・ボーカルを担当して、僕の友人のミラン・ポラック (Milan Polak) の為にプレイする。素晴らしいシンガーでギタープレイヤーでソングライターだ。

数年前に "Devil On My Shoulder" という曲を書いたんだ。トーマス・ラングがドラムでベースはデヴィッド・エルフソンだ。これはチャリティソングだよ。次の曲はアルバムに入っているのだけれど、新しいバージョンになる予定だ。次もチャリティに寄付するよ。

そんな感じだ。あと時々スカイプでギターレッスンをやったり。ミキシングやマスタリングやソロなどもあるけど、出来るだけ数を絞ろうと思う。注意がそれないよう作曲に集中したいから。そうじゃないと僕は書けなくなるんだ。

Asia については、2020年にツアーをという話があったのだけど(現状では)実現しない。2021年には Asia は数回コンサートをやる予定で、Sons Of Apollo はワールドツアーがまるまる残っている。ツアーを中断したところに戻って再開する。そのツアーの合間には自分のイカレたことをやり、アコースティックのライブやクリニックをやるよ。

Sons Of Apollo の新曲制作についてですが、バンドが離れていてどうやるのですか?

僕らは常に連絡を取り合っている。過去の2枚のアルバムでは僕とデレクとマイクのメールのやり取りがあって、曲やリフのラフなアイデアをドラムビートにギターを入れて僕が送ると、デレクがキーボードパートのアイデアMIDIのファイルなんかで送ってきて、そういった未完成曲のアイデアが山積みになっていて、取り掛かりがあるんだ。それらを持って集まりジャムをして、曲の方向性を探り、やがて1日の終わりには曲が完成するのさ。だから今はアイデアを出し合っているところだ。

今は直接会って話すことができませんが、ファイル交換とか以前とは別の制作アプローチをとるのでしょうか?

直接会えなければ、何か別の方法を見つけるしかないよ。今はこれが世界中の心境なのだと思う。「何であろうと、どんな方法であろうと、必要なことをやる」

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〈割愛したロンさんの小ネタ〉

・昨年、中国に行く前には南アフリカに行って、ペンギン見物をしたらペンギン風邪(?)にかかって、その後のカナダツアーで声が出なくなり、スティーヴン・ホーキング博士が使っていたようなボイス変換アプリを使ってツアーをしのいだというロンさん。中国に行く頃には非常に注意深くなっていて、N95のマスクも備蓄してコロナ対策は既にできていたそう。

・Sons Of Apollo の欧州ツアーでキャンセルしたバスは2週間で$36,000ほどだったそう。(ドライバー人件費と燃料諸経費込み)

 

〈今後のコンサートについて、私的感想〉

ロンさんが語っていたように、レイテンシーを解決したストリーミング技術ができれば、大きな革新となりそう。5G通信の世界では可能なことのようなので、技術革新がコンサートのあり方を変革してしまうのかも。一方でこのインタビュー動画自体にレイテンシー問題が激しく現れているのは笑えますね。

それから、ミート&グリートについて、ロンさんが 「バンドに直接会って、握手して写真を撮ったらさっさと消えてくれ、みたいなナンセンス」と言っているところも興味深いです。ツアーの収入源としてミート&グリートをやっているけれど、ロンさんとしては納得していない気持ちの表れなのかと。2月に Sons Of Apollo のミート&グリートに参加したときも、ロンさんは写真撮影後に最後までファンと会話したり個別の写真撮影に応じていました。ファンへの愛情を感じます。