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スティーブ・ヴァイ 「新しいギターを十分使い慣れるには、まる1年くらいかかるんだ」

スティーブ・ヴァイの新しいシグネチャーモデルPIA (Paradise In Art/奥様の名前でもある)の限定カラー3色も遂に日本の楽器店で入手可能になりました。ゴージャスな写真にうっとりするばかりです。PIA制作過程の話は各所で語られていますので、今年の2月に Guitar Interactive で特集されたPIA発売記念インタビューから、他であまり話されなかった興味深い部分の概要をまとめてみました。

www.guitarinteractivemagazine.com

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PIAはあなたの言うとおりこの上なく、デザインの背景には真のインスピレーションが伺えます。過去にJEMに手を加えたけれどあまり成功しなかったこともありましたか?

 

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ああ、JEMが登場してから長年になるのでグリップを変えようという話になって、奇妙な穴を空けたことがあるが、上手くいかなかった。1度限りの実験だったよ。ハードテイル・モデルも上手くいかなかったな。ファンに気に入られなかったんだ。あれはアーム無しのJEMが欲しいプレイヤーもいるかと思ってのことだったが、全く気に入られなかった。それ以外についてはJEMは素晴らしい進化を遂げたよ。カラーやピックアップやネックなど様々に変化を加えたが、ギターの骨格は不変だ。

それで、ニューモデルを出す時期がきたのではないかと思った。私の直感が告げたのだ、「OK、今だ変えよう」と。このような直感が浮かんで消えず、一層大きくなるとき、これは本物だとわかるのさ。これを私は「衝動が強烈になる」(push comes to shove)と呼んでいる。これはやらなくてはいけないのさ。

PIAには独自の音があるとのことですが、まだレコーディングには使われていません。ツアーに出たとき、どの曲がPIAで弾かれるのでしょうか?

いい質問だね。まだ答えはわからないが。まだ複数のPIAを試しているところでね、最初のプロトタイプの4本を受け取った。これでピックアップをいくつか試したり、手を加えたが、今は別所に保存されている。私が死んで何年も経たないと開けられることはない。

それからNAMMショウ用に4本を受け取って、そのうちの何本かに手を加えた。ピンクのPIAにはサステイナーもスキャロップも何も手を加えていない。だからEVO同様で、EVOでプレイする曲に使うだろう。この何年も私は少々スキャロップされたフレットを好んできた、FLOⅢのようにね。グリーンのPIAは "Bad Horsie" をプレイするようなセットアップにした。ドロップチューニングでは違う弦を使うし、テンションもスプリングも全て異なる。少しばかりスキャロップにしたし、サステイナーを載せた。白のPIAはFLOの分身みたいで、同じくスキャロップとサステイナー付きだ。ゴールドのPIAはドロップDチューニング専用にセットアップした。

 

 

 

これらのギターは実験としてNAMMでのギグでEVOも含め全てを使用した。FLOも使ったかな?全てを使ってレコーディングとツアーのために評価したかった。更に4本のPIAを受け取る予定で、最初のPIAはIbanezの博物館みたいなところに収納されるんだ。次の4本は私のもので保存する。そうしたらツアー用に様々にPIAに手を加える。

あまり話してこなかったのが、ネックサイズについてだ。PIAのネックはJEMよりずっと太いのだが、とても気に入っているよ。ツアーでは薄いネックに惹かれるのだが、ネックの太いものよりも簡単に環境変化の影響を受ける傾向がある。楽屋からステージに移動する間にチューニングが狂ってしまうんだ。ショウの間も同じだ。会場が暑くなれば全て変わってしまう。それで太いネックを試すことにした。この方がツアーでは使い易いから、このサイズを使おうと思う。だが、薄いのも作ってもらうかも知れない。個人的好みとしては薄いのが好きなんだ。

PIAにサステイナーを載せたそうですが、一般販売のものに付ける予定はありますか?

もう10年くらいやりたいと思っていることなんだが、問題は私の気に入るサステイナーが Fernandes のものということだ。サステイナーには基本的に供給元が2つだ。Sustainiac は品質が一貫しており、クリーンで長年に渡って私のギターのそこここで使用してきたが、ちょっとした限界があるんだ。PU自体の音にも満足できず、私にはしっくりこなかったのだ。

それで私は Fernandes を使い続けたのだが、彼らの問題は会社が小規模で生産量が少ない上に、品質に一貫性がない。通常、私がギターに載せたいと思う個体を見つける為には4個ほど買わなくてはならないのだ。これらの理由から、Ibanez の生産ラインに十分な供給を得るのは難しいと思う。それで Sustainiac に移行することに決めた。今は彼らと組んで私の求める物を目指して手を加えているところだ。

Sustainiac が私の要求全てに応えるものを創ってくれたら、Sustainiac を搭載したPIAかJEMの市販品を出せるかも知れない。私が実際にプレイするギターのようにしっかり創られていなければならないけどね。それにある種のトレムセッター(トレモロスタビライザー)も必要だ。フローティングトレモロは私にはデリケート過ぎるんだよ。本物のフローティングトレモロで1音弾くと音は奇妙に振動する。チューニングは難しいし、だからトレムセッターは必要だ。

なるほど、あなたの仕様が通常のオプションとして販売されないのがなぜかと不思議に思っていました。

サステイナーもトレムセッターも先に話した問題が解決すれば導入するだろう。スキャロップ・ネックについては、個人の好みの問題だ。そんなに需要があるのか疑問なんだ。だからシグネチャーギターに取り入れることは考えたことがなかった。とはいえ、常に「完全なスティーブ・ヴァイ モデル」を出す可能性は残っている。

あなたがジョーとエリック・ジョンソンとの最初のG3ツアーのプロモーションで持っていたギター(訳者注:10周年記念のJEM10)の記憶があるのですが、そのギターがライブで使用された覚えがないのです。あのようなアニバーサリーモデルにはなかなか愛着が湧かないものでしょうか?

Ibanez の世界ではアニバーサリーモデルであれ何にしろ、新たな美しいアイデアが生まれるのだ。もちろん私がライブで使用し露出することが期待されるのだが、私にとってEVOが常に1番なんだよ。あのギターには磁力のように惹きつけられる。暖かくて常に我が家と感じられる場所なんだ。

新しいギターというのは使い慣れる必要がある。十分に使い慣れるにはまる1年くらいかかるんだ。自分のDNAや汗が注がれ、様々なエピソードや秘密も染みつく頃に本物の音が生まれる。音が変わるんだ。新車のようなものだ。新車は新車の匂いがするだろう?新しいギターは新しいギターの音がすると感じるんだ。木材は呼吸していないし、膨張してもいない。何年も共鳴することで木材が変わるんだ。

だから、EVOやFLOを弾かないなんて私にはできないのさ。これらが何十年にも渡って私のメインギターだからね。だから、あれらのアニバーサリーモデルを私があまり弾かないことについて謝罪しよう、特にIbanezに対して。そのせいで潜在的な売上を減らしてしまったかもしれない。

でもこれが私という人間なんだ。私は自分の芸術的直感に基づいて活動するしかないんだ。私がIbanezギターを使うのはエンドーズ契約があるからではなく、それらが私にとって完璧な楽器だからなんだ。Ibanezのような意識高く実効的な会社と仕事ができてとても幸運だと思っている。

 

 

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Vai.com のギターギャラリーにJem10が掲載されていますが、そこに面白いエピソードが記載されていました。90年代に初めてヴァイ先生が中国でライブしたときのこと、ショウの後に食べるものが無く、プロモーターは北京から車で2時間かかる Hard Rock Cafe にバンドを連れていったそうです。しかし、厨房は片づけた後でバンドに食べ物は提供されなかったそう。ヴァイ先生はレジの後ろに展示してあったこのJem10をみつけ、後日 Hard Rock Cafe と交渉して別のギター何本かと交換でこのJem10を返してもらったそうです。それにしてもその夜のバンドは何か食べれたのでしょうか?