Stay Together

Green (@ribbon_bear) が毎週好きな音楽ネタを語ります! Since 2011

キップ・ウィンガー 「ヘヴィメタルとクラシック音楽はとても似ている」

キップ・ウィンガーがナッシュビルの公共ラジオ局のクラシック音楽番組のインタビューに応えました。ラジオにクラシック専門の番組があるとはさすが音楽の盛んな地域。

後半、なかなか深い話をしてくれていますので、興味深いです。クラシック作曲家の道を目指したキップに開けた境地、そしてヘヴィメタルクラシック音楽の類似性とは。

91classical.org

===========================

あなたの作曲スタイルについて教えてください。最大の影響を受けたのは誰からでしたか?

ストロマン主義がスリリングな初期モダニズムに繋がった領域のどこかだ。俺はロックバンドの出身だからその経験を俺の作曲に持ち込もうとしている。

影響を受けた人物のリストは常に変化しているが、故人のアルテュールオネゲルは挙げなくてはいけないな。俺が自分自身を深く掘り下げたいとき、彼は俺にとって鉄板の作曲家だ。彼のスコアを見ると、彼の音楽が明確にわかるんだ。

その他にも大きな影響はいくつかある。そしてその影響というのは彼らの音楽のフィーリングだけなんだよ。必ずしも彼らのスコアを学んではいない。モーリス・ラヴェルイーゴリ・ストラヴィンスキーヘンリク・グレツキヴォーン・ウィリアムズアルベルト・ヒナステラ、クシシュトフ・ペンデレツキ、ドミートリイ・ショスタコーヴィチなどだ。

存命の作曲家では、リチャード・ダニエルプール、クリストファー・ラウズ、ジェニファー・ヒグドン、マイケル・ドアティ、ミヒャエル・クレクで、そのうちの2人とは学んだことがある。

どの作曲家がもっと著名であったらいいのにと思いますか?

オネゲルヒナステラだ。俺に言わせれば彼らの音楽はあまりに過小評価されている。彼らの音楽がプログラムに載るのはほとんど見ない。残念だよ。

パンデミックの前には、あなたの交響曲第一番はナッシュビル交響楽団によってワールド・プレミアを迎える予定でした。作曲について教えて頂けますか、インスピレーションやあなたにとって初の交響曲を作曲するのはどうでしたか?

クラシックの世界に受け入れられて俺はこの上なく幸運だ。ナッシュビル交響楽団)が作曲依頼したもので、ジャンカルロ・ゲレロが俺に初の交響曲を提案したんだ。自分からは手を出さなかったかも知れない。完成するまで18ヶ月かかったよ。俺はいつもツアーに出ているから、断続的にしか作業できなかった。作曲は今年の1月4日に完成した。新たなプレミア日程が近づいたらこの件については喜んで話そう。

(訳者注:交響曲第一番の作曲依頼がきたときの詳しい話はこちらのインタビューでも話しています。↓)

staytogether.hateblo.jp

今年は多くのことが起こりました。パンデミックによって生演奏ができなくなった他に、人種差別に反対するデモが全国に広がりました。さらに今年は大統領選挙の年です。今年の出来事は作曲家のあなたにどのような影響を与えましたか?

影響は無い。作曲の時間がたっぷり取れるようになった他にはね。俺は政治的タイプの作曲家じゃないんだよ。自分の政治姿勢については表に出さないし、人種差別については、2020年にもこういうことが続いているのを見るのは悲しいよ。

ヘヴィメタルクラシック音楽は全く違うように見えますが、あなたのキャリアにおいてそれらがいかに交錯しているのか話していますね。Winger の経験がクラシックの作曲に最も役立ったのは何でしたか?

ブルース・リーがこう言っている。「私が格闘技を学ぶ前、私にとってパンチは単なるパンチであり、キックは単なるキックだった。格闘技を学んだ後には、パンチはもはやパンチではなく、キックはもはやキックではなかった。そして、格闘技とは何かを理解したとき、パンチは単なるパンチとなり、キックは単なるキックとなった」

俺が交響曲を作曲するのを夢見ていたとき、俺は完全に怖気づいていた。どうやってあの領域を超えられるんだ?と。俺は自称クラシック音楽を作曲したって言う「ロック野郎」にはなりたくなかった。彼らのやり方でやりたかったんだ。数百年かけて発展してきたテクニックを学び、正統な言語を話して。それで35歳で作曲と理論の教師を探したんだ。俺は未来を掴むためには俺の過去を捨てなくちゃならないと思っていた。

学びの過程は厳しいものだった。主に、俺がクラシック音楽環境に縁遠かったのが原因だった。だから俺は自分で大量にその音楽を聴き、作曲してその環境を創らなくてはならなかった。10年程して、マイケル・キュレックの指導の下、俺の発表できる初めての作品 "Ghosts" ができ、幸運にも大きな成功となった。

2014年にダニエルプールと学んでいるときになって初めて、彼のピアノ・コンチェルトのプレミアがヴィーナであったときだ、俺の頭の中で灯りが点って、「キックは単なるキックだ」と理解したんだよ。それ以来、俺は今の本当の自分に戻る方法を探し、クラシック作曲家として言いたいことを考えていた。結局のところ、ヘヴィメタルクラシック音楽はとても似ている。自分を表現したいどちらのジャンルにしても、形式とオーケストレーションを知り、独自のハーモニーセンスを育てることだ。

作曲において次にあなたのやっておきたいことは?

今はヴァイオリン協奏曲と Winger のニューアルバムに取り組んでいる。インスピレーションに溢れていて幸運に思っているよ。自分のやっておきたいことリストについて言うと、どこかの時点でピアノ協奏曲を是非作曲したい。

 

f:id:ribbon_bear:20200725132947j:plain

=========================

キップの交響曲第一番のワールド・プレミアですが、当面のところナッシュビル交響楽団によって演奏される予定はなさそうです。楽団は今年の6月に2020/2021シーズンの公演をキャンセルすることを発表しており、活動停止状態になっています。コロナの影響でこうした楽団が活動できない状態や財政的危機が起きており、文化芸術を支援する活動が待たれます。

思い返せば、私が交響曲第一番の話をキップから初めて聞いたのは、2018年3月の来日時のインタビューでした。交響曲第一番をナッシュビル交響楽団のために作曲しているという話はまだどこのメディアにも話していなかったと思いますので、新しい話だなと驚きつつ、それがどんな意味のあることかはクラシック音楽の知識がない私にはピンときませんでした。とにかくキップが大仕事を始めたのだということは理解しました。

そして2020年2月の再会時にキップから交響曲第一番が完成したこと、自分の最高傑作になったという興奮に満ちた話を聞くことができました。交響曲着手と完成のお話を本人から聞けたのはとても感慨深いです。

制作期間は単純計算では18ヶ月じゃなくて21ヶ月程になりますが、途中作業できない期間もあったから18ヶ月なのかな。キップ最高傑作のプレミアは遠くなりましたが、必ずナッシュビル交響楽団が活動再開して演奏してくれるものと信じています。

 

staytogether.hateblo.jp