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スティーブ・ヴァイ&キップ・ウィンガー Part 5 「偉人を真似したとしても、そのインスピレーションを再現することはできない」

引き続き、今週はヴァイ先生とキップの対談 Part 5 です。今回から YouTube で公開された動画 Part 3 の内容に入ります。クラシック楽曲の作曲に関して2人の会話はディープな内容へと進みました。今週はその前半部分をまとめました。

 

 

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Kip Winger:あなたの和音言語について話を戻したいのだけど、リズムとメロディの進行において、あなたの作品にはとても美しい回路があるんだ。ビッグでリズミカルな聴かせる場面があると思えば、それが止んで美しい弦楽奏を聴かせるよね。

ハーモニー面であなたが何を参照しているのかとても興味があるんだ。このモードをやってそれから別のモードということではなくても、単に本能なのかも知れない。

俺はあらゆる音楽理論をできる限り学んだけれど、でも最終的にはそういうものではなくて…

Steve Vai後ろのギターを取ってくれるかい?私がハーモニックな地図を創作する過程では様々な方法があるんだ。

KW:ぜひそれが知りたいよ。

SV:ピアノでコードを鳴らすだろう、そして何をしたいのかを考えるんだ。このセクションが欲しいとか、美しいメロディだとか何でも。1つのコードが探し出せればいいんだ。そこから全てが湧き出てくる。それでトーンが定まるからね。

私がこうしてギターを弾いて、よしこうだと曲を書くことは稀なんだ。ハーモニックな地図はアイデアの意図から大抵はやってくる。

例えば、"There's Something Dead In Here" では、あれは私が21歳のときに書いたもので、飛行機に乗っているときだ、最初のバージョンではギターパートを15本程重ねるものだった。

KW:それだよ、訊きたかったのは。確かデモを送ってくれたよね。

SV:私の初ソロアルバム『Flex-Able』に入っている。私はリズム面ではビッグなポリリズムの実験をしたいと思っていた。ハーモニー面では思い切り不協和音を使いたかった。

KW:オーケストラ・バージョンはこの上なく美しかったよ。ギター・バージョンとは大きく違っていた。まるで別の惑星から登場したような。

SV:ありがとう。オーケストラ・バージョンは元のバージョンから多くを取り入れたけれど、多くのパートを追加したんだ。

冒頭では、あのメロディしか必要としないんだ。あれは奇妙だが面白くて好きなんだよ。あのメロディは弾いたのではなく、頭に聴こえたものなんだ。すると残りの曲は自然に生まれた。

そしてこんな風に(歌う)、このメロディは私に聴こえたものなんだ。音符を書き留めて、ここで合うコードは何かを考えた。

KW:つまり、あなたの使うハーモニーは使用するメロディから派生しているということ?

SV:それが1つのアプローチだ。別のアプローチは弾いてみて、ムードや色合いの合致するコードを見つけるんだ。そしてメロディで補足する。

"Still Small Voice" の終わりにあるセクションがあるのだが、曲中の様々なメロディが全て集まるんだ。とても大変だったよ、その下で同じ1音が続いているのだからね。だからあのような和音構造は大変な挑戦だった。

KW:フーガだね。(訳者注:2声以上の声部による対位法の楽曲形式)

SV:そう、いかにもフーガぽいね。でもああする前は自分でも何をするつもりかわからなかった。思い付きだったからね、これらのセクションを取り出して集め、音楽的に聴こえるだろうかと。理論的には不可能だったので、戻っていくつかの音符を書き直して他のメロディと調和するように、成り立つようにした。あれはルービックキューブを解いているみたいだったが、とても楽しかったよ。

KW:あのパートでは多くのメロディが鳴っていて、減音程しているところがあったけれど、あなたはそれを使い過ぎることはなかった。そこが気に入っているんだ。

SV:ああ、うるさくなってしまうからね。

KW:そして多くのところで時折メジャーコードで解決していて、新鮮だったよ。

SV:ああ、"There's Something Dead In Here" でもそうなんだ。最後のコードがメジャー9thで。とても楽しい実験さ、あの曲ではメロディから来ている。メロディを聴いて、ハーモニックな地図を作るんだ。

"Middle of Everywhere" などでは、複雑なリズム面に加えて、コードを発見するのもそこさ。私は重厚なコードが好きなんだよ、でも不協和音もあるから、良い響きにするのは難しい。

KW:もちろんだ。(譜面上の複数の声部の)縦方向に(音符を)簡単に並べたとしても、横方向に並べるのは一層難しい。各声部が進みつつ、音楽的であること。響きが要素としてつながっていること。あなたが言ったようにうるさくならないように、というためにも、(作業していると)見失ってしまい、メロディの繋がりがなくなってしまったりするんだ。

SV:私が作曲でやることについて言うと、実験的という言葉は使いたくないけれど、なぜなら自分で何ができるのかわからないと言うようなものだからね。大抵の場合私には良いアイデアがあるのだが、時には知識的に構成してみるんだ。

KW:活用すべきだよ。構造を磨いたりなんかに。思うに、音楽理論的な思考を全ての(作曲)に土台とすべきと思うんだ。

SV:ああ、背景としてそこを持っていなくてはいけないね。

KW:そう、さもなければ何もないままに蛇行するばかりで忘却の淵に堕ちるように聴こえてしまう。

SV:私はギタープレイヤーにこう言っているんだ。「良い耳があれば音楽理論を学ぶ必要はない」とね。知らずとも使えるようになるからだ。でも作曲家になるためには必要だ。ルールを知らねばならない。

KW:ロック・ミュージシャンがクラシックを作曲しようとしていながら、必要な勉強をしていないのを見るとイライラしてしまうんだ。

SV:そうだな、彼らは典型的なクラシック音楽に惹きつけられて、バッハとかモーツアルトとかね、それ自体はいいのだが、その雰囲気を模倣しようとする。まあそれもいいのさ、多くの人がそうしている。だがロックミュージックでも同様だ、他人である偉人を真似したとしてもそのインスピレーションを再現することはできないのだよ。

ところでキップ、君に質問していいかな?君が作曲していると知って私がどれほど嬉しかったか言い表せないよ。ロック・ミュージシャンで(クラシックの)作曲をする人は稀だからね。それで君の場合はどういうきっかけなんだい?秘めた情熱があったのを隠していたのかな?

KW:16歳でクラシックギターを習い始めたんだ。子供の頃にバロック音楽を聴いて何かあるなと思ったけれど、わからなかった。どうやるのか知りたいと思ったよ。それでいくつかクラシック・ギターの曲を学んだ。

16歳のときのガールフレンドがバレエをやりたがって、じゃあ一緒にやるよとなった。自然にストラヴィンスキーチャイコフスキードビュッシーラヴェルに触れて、ピアノ曲のレコードで教室をやっていたんだ。凄いと思ってひたすら聴いていた。

それまではずっと兄弟のバンドで弾いていたんだ、Grand Funk Railroad とか Led Zeppelin なんかを。その一方でクラシック音楽に心は惹かれていた。でもオーケストラ楽曲を自分で書いて、ましてやオーケストラに演奏されるなんて夢にも思わなかった。

そして22歳のとき、NYで音楽教師に学んで弦楽四重奏曲を書いたんだ。

SV:若くして書いたんだね。

KW:良い教師についたからね、彼は俺がロックに入れ込んでいるけれどドビュッシーとかそういうものにも惹かれていたことがわかっていた。彼の勧めで書いたんだよ。

彼にエドワード・エルガーエニグマ変奏曲を分析させられたんだ。主題と変奏曲の最高事例だと思う。彼の弦楽作曲は信じられない程素晴らしい。

SV:それは聴いてみないと。

KW:あの曲は主題と変奏曲の教材のようだ。あのおかげで曲を学ぶきっかけになったよ。でも長らくそのまま放置していた。真剣に学ぶのが怖かったんだ、俺はほぼ独学のミュージシャンで、ピアノは学んだから、ピアノの楽譜は読めたし、ギターも少しばかり学んでいたけど。

それで96年に最初の妻が亡くなって、グランジの時代が来て、俺は仕事が全く無くなってしまった。それで自分が本当にやりたいことは何かを考えたんだ。そしてニューメキシコ大学の作曲理論の教師を見つけて、35歳で彼の元に通って勉強したんだ。彼は「よし、類的対位法をやるぞ!」って感じで。

SV:類的って?

KW:5つの教程があって、1つずつラインを足していくんだ。それで異なるモーションが学べる。

SV:ああ、なるほどね。

KW:「対位法と作曲」という本があって、類的対位法のセクションがあるんだよ。そこではラインの書き方、斜進行(一部の声部が同じ音高にとどまり、もう一方の声部が動く)や平行(複数の声部が同じ音高を保ったまま動く)なんかが出てくる。俺はそこから勉強を始めた。

教師にはこう言われたよ、「ピアノから離れろ。ピアノではできない、全てを頭の中でやるんだ」

SV:その通りだ。

KW:それで俺は頭で考えるようになった。全部の音符を書いて、教程の4や5に進む頃にはもっと色々と進行する。それから彼にピッチ・クラス・システムの授業を勧められた。Cはゼロ、C#は1とかそういうの。12のピッチ・クラスがあり、それでメロディを書くんだ、そこではレジスタ(声の音域の区分)は関係ない。それは震えあがる経験だったね、調号を取り外せてしまうんだから。

そんなところから、彼とは多くを学び演習をやったよ、シークエンサーにずっと向き合ってたり。それからヴァンダービルト大学のマイケル・クーリックに付いて勉強した。そこで俺の最初の作品 "Ghosts" を書いたんだ。

SV:君の最初の作品が実に良く書けているのは興味深いよ。とても美しい音色だった。

KW:ありがとう。自分のファースト・アルバムのような感じだ。何年もかけて必死に作業して遂に書き上げたという感じ。大変だったよ、第1楽章の体裁を整えられるまでに1年程かかった。更に仕上げるまでには1年半もかかったよ。

SV:ああ、何度も何度も戻って編集するのはよくあることだ。

KW:ああ。だからあなたが曲が完成したとわかるのはいつだろうかと思ったんだ。俺があの曲の第3楽章をクリストファー・ウィールドン(振付師)に届けたとき、彼は曲をもっと長くしたいと言うんだ、(バレエの)リハーサルが始まる2週間前にね。「あと4分欲しい」と。それで俺は2週間で第2楽章を書いたんだ。締め切りと向き合ういい練習になったよ。

SV:ああ、私たちは常に締切に間に合わせなきゃならない。

(Part 6 へ続く)