ヴァイ先生とキップの対談は最終回の Part 6 です。YouTube で公開された動画 Part 3 の内容後半に入ります。
キップが最後にヴァイ先生へプレゼントを渡します。プレゼントをもらい慣れた先生が驚き大感激するものとは!?
「全てを持っている」人に何をプレゼントしたらいいのか、この前ヴァイ先生に渡すプレゼントでPolyphia の2人が悩んでいましたが、キップのような大人が選ぶプレゼントはさすがのチョイスでした。
Polyphia がヴァイ先生に渡したプレゼントの話はこちらで。
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Kip Winger:俺は早く書けるタイプじゃないんだ。2作目の曲には1年半かかったし、今のヴァイオリン協奏曲にも2年かかった。ツアーもしているから作曲に没頭している訳ではないけれど。
Steve Vai:君は異なる色んなことをやっているんだから。君の作曲プロセスというのはどんなものなのかい?発端はどんな?4分の音楽を書けと言われたら?
KW:最初はパニックだ。次は「こんなことできない」で3つ目に「わかった、もしかしたら俺にできるかも」
SV:小さな声がするんだろう?「だまってさっさとやれ!」って。(笑)
KW:あるときアラン・パーソンズから、ジェイク・シマブクロのアルバムでオーケストラ・アレンジをできないかと依頼されたんだ。俺は「絶対に無理!」だったんだけど、俺の音楽出版社は「絶対にやるべき!」だったよ。
SV:そうか(笑)私はあの若者が好きなんだよ。
KW:ジェイクは素晴らしいね。自分のことで長い時をかけてわかったことなんだけど、俺は長時間楽器に向き合うことができないんだ。
あなたは夜することについて話したけど、俺はスピーカーからの音を長く聴くと向き合いたい事から気が逸れてしまうんだ。立ち上がって部屋を歩き回り、何とか聴こうとする。
そして座っては俺は(創作を)どうしたいのか考える。いつも俺には進みたい先が聴こえてくるのだが、実際に聴こえたものを実現させたものは、ノミで彫刻を削っていって最終的に形になったというのでなく、最近書き上げたばかりの交響曲第一番が初めてなんだ。こうしたい!と思ってその通りできたもので、それが初めてなんだ。
SV:それが君の第3作目かい?
KW:いや、多分6作目だ。ちょっとした作品も書いているからどうだろう?
実はジェイクに最初のウクレレ協奏曲を書きたかったんだ。それで着手したんだけれど、別の誰かにパンチを食らったよ。彼の名前を思い出せないけれど、素晴らしいハワイの作曲家なんだ。とてもクールな楽曲だったので、俺が書いたものはクラシック・ギター曲に変更したよ。8分の作品だが、未公開曲だ。
だから、交響曲第一番は8作目か9作目かも。実はこの交響曲ではあなたが話したように「ああ、これか」というアイデアを思い付いたんだ。それはモールス信号で、Rush がやっていたとは知らなかったんだが、
SV:この世でまだ手の付けられていない新たなアイデアというのは難しい。
KW:でもオーケストラの世界ではまだ実行されてはいないと思うんだ。彷徨える人の魂が贖罪のモールス信号を送っているというアイデアで、
SV:そうか、君が送ってくれた譜面を見たよ。君は実際にモールス信号も送ってくれたよね。
KW:ああ。4つの楽章から成っていて、第3楽章が変容部なんだ。
SV:私たちがそうした多くの創造的道具を使えるというのは良いことだよ。
KW:真に音楽として成り立つアイデアを見つけるのは難しいね。
SV:ああ、その通りだ。私がバークリーで曲の分析を学んでいたとき、コード進行を解釈して I-VI7-IIm7-V7 とかの進行に進み、やがて代理コードの話なんかになった。そのうち遂には、皆の電話番号から進行を作ったりとか、確かにそんなこともできるが、そんなのはどうかなという気になったよ。良い音楽にはならなかった。
KW:トリックっぽくなってしまうよね。
SV:そうだ。トリック的なものから何かを取り出して自然に聴かせるというのは難しい。
KW:避けられないんだ。ところであなたはエドガー・ヴァレーズ(Edgar Varèse 作曲家)が好きだよね。あなたにプレゼントがあるんだ。あなたはとても寛大で親切にしてくれたからお礼の気持ちだ。これはヴァレーズから国際作曲家組合への手紙だ。
(訳者注:ヴァイ先生がエドガー・ヴァレーズのファンというのは、ザッパがファンだった影響がありそう。先生がバークリー在籍時、学校の図書館でヴァレーズのスコアを入手してザッパに送ったというエピソードがあります)
SV:おお~!これを読んでから凄い話をしよう。
KW:この素晴らしいスタジオの壁に飾ってくれたら嬉しいよ。
SV:これは手紙の原本じゃないよね?
KW:もちろん、原本だよ。
SV:え?コピーじゃないのかい?
KW:原本さ。彼のサインが手紙の原本にあるんだよ。
SV:こんな貴重なものをどうして私にくれるんだい?大変な価値がある。
KW:壁に飾ってくれたらいいよ。
SV:これは私の墓まで持って行くよ!どうやってこれを見つけたんだい?
KW:俺はこういうものの収集家でもあるんだ。それでこれを見つけて、スティーブにぴったりだと思ったのさ。あなたが入れ込んでいるのを知っていたから。
SV:信じられないよ。彼は組合とは難しい関係だったよね?
KW:そこまでは知らないんだ。あなたが大好きな作曲家だから彼の曲をいくつも学んでその理由を知ろうとして、とても興味深い作曲だとは思ったけど。
SV:信じられないよ。どこで手に入れたんだい?
KW:教えないよ。(笑)
SV:こんな素晴らしいものを貰ったことはない。信じられない、これは価値の付けられないほど貴重な文化遺産だ。こんなものを貰うだなんて…
KW:あなたはとても稀な人で、親近感を感じているんだ。2人ともオーケストラの世界、エレクトリックの世界を行き来し、精神世界でもシンパシーを感じている。だからこれをプレゼントしたかったんだ、気に入ってくれたら嬉しいよ。
SV:ブラザー、ありがとう。これは今まで貰った中で特別のギフトだ。だからこの興味深い話をしよう。
エリオット・カーター(Elliott Carter)は素晴らしい作曲家で私は彼の作品は全て揃えているんだ。私は彼が102歳のときに彼のNYのアパートに訪ねたことがあるんだ。(訳者注:2011年と思われる)彼が訪問を受け入れてくれたのは嬉しかったよ。亡くなる前で確か34丁目のアパートに住んでいた。65年もそこに住んでいたんだ。
KW:ワォ!NYのどこに?
SV:ミッドタウンだったと思う。彼の妻が亡くなった後で、彼の小さな音楽部屋にはピアノがあり、そこら中に物が積まれていた。102歳だというのに、彼は作曲中の曲を見せてくれたんだ。それはファゴット(木管楽器)とオーケストラ用の楽曲で、彼のアシスタントがファゴット奏者だったんだ。彼は朝9時から正午まで仕事して、2時間ほど休み、3時から6時までまた仕事する、毎日だ。
私は彼にエドガー・ヴァレーズの話をしたんだ。すると彼は「ああ、エドガーはすぐそこに住んでいたよ」と言って、そのアパートを指さしたんだ。彼は毎週日曜日に夕食を共にしたそうだ。
それで、君がくれた手紙を読まないとだが、聞いた話によると、アーロン・コープランドは作曲家組合のトップだったそうで、正確かはわからないけれど。
それでアーロンはアメリカ人だから(フランス人の)ヴァレーズの作品については誰も理解できなかった。彼のように時代を先取りする者は余りいなかった。ストラヴィンスキーは誰よりも先んじていた。ヴァレーズはほんの少し自分の時代の先端を行っていたのだ。彼と(グスタフ・)マーラーだ。私は彼のファンで、私が心の底から感動したのはマーラーの音楽だよ。
それで、アーロンはヴァレーズが好みではなかった。カーターもね。アーロンはヴァレーズをサポートすることはなく、むしろ組合内で馬鹿にしていたんだ。それが嫌になったヴァレーズは作曲を止めてしまった。20年くらいに渡って。だから彼の作品は多くない。今になって彼の作品は発見され、最も研究されている。そんな話を学者のマイケル・カストーディスに聞いたんだ。
この手紙の内容が気になるね。読んでみていいかな。
うむ、作曲家組合のトップはアーロンじゃなかったね、ヴァレーズだったんだ。
KW:恐らく、(アーロンは)別の組織だったんだろう。アーロン・コープランドの作品は沢山聴いたよ。
SV:興味深かったのは、カーターが私の音楽について同様に思ったと言ったことだ。私は気にしないけれど、(同じように言われた)エドガー・ヴァレーズは気にしたんだ。作曲を止めて、後に戻った。
何と言っていいのかわからない、キップ。こんな素晴らしいプレゼントは初めてだ。ありがとう。
KW:嬉しいよ。こうして会話できて良かった。
(対談おわり)