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スティーブ・ヴァイ&キップ・ウィンガー Part 1 「音楽の創造とは無限であり、自分の思うままどんなこともできる」

今年の4月からキップが度々口にしていた、ヴァイ先生との対談動画が遂に公開されました!長い対談となったそうで、動画で Part 3 まであるそうです。

コンテンポラリー・クラシック音楽の作曲家同士である2人の会話は非常に興味深く、今までにヴァイ先生が話してこなかった分野の会話が引き出されています。キップさすがです。

当ブログでは複数回に分けてこの対談内容を掲載していきます。

 

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Kip Winger:俺の友人であり、俺を含め世界中多くの人のメンターでもある、スティーブ・ヴァイだ。実は今俺は彼のスタジオにいる。寛大なことに、彼は俺がここに来て質問するのを許してくれたんだ。

あなたについては多くのインタビューを拝見したよ、だからこれまでに訊かれたことのない多くの質問がある。

ティーブと俺はこれまでにクラシック音楽についてメールで意見を交わしてきた。まあ、それが俺とスティーブの関係の殆どなんだ。

念のため、知らない人の為に言うけど、彼は凄腕のギタリストというだけでなく、偉大な作曲家なんだ。だから今日はそれについても少し話そう。今日はありがとう。

Steve Vaiこちらこそありがとう。私にとっては、君のキャリアが、作曲への情熱が故に拡大する様を見るのは嬉しいよ。それだけでなく、君の作曲した作品を聴くと実に良く書かれている。私が君に書いたメールは全て私の本当の気持ちだ、実に素晴らしいよ。

KW:ありがとう。あなたは幼少期から作曲を始めたそうだね。ピアノで、その前にはアコーディオンを弾いたと。高校ではオーケストラ曲を書いたとか。

SV:私にはロックとクラシックの並行した音楽世界があるんだ。6歳のときに母がオルガンを買ってくれてね、触ると右に行くと高音に、左に行くと低音になるとわかった。その瞬間に、閃きがあったんだ。それは2つあって、まるでダウンロードするように閃いた。1つは、これが音楽か!というもので、見えたのさ、なるほどそういうことか!と。音符の黒い点はそういうことか。即座に認識したのだよ、その構造を。そして本能的に音楽の創造とは無限であり、自分の思うままどんなこともできると思った。

KW:鍵となる話だ。あなたは見えたと言ったけれど、俺もそうなんだ。俺も、作曲のアイデアが浮かぶときに時折、楽曲の全体像が見えるんだ。

SV:そのとおり。

KW:過去・現在・未来であなたには楽曲が目に見えるのかい?もちろん頭に聴こえているのだろうね。どのようにして音楽アイデアは現れるの?

SV:コンセプトとして現れるんだ。例えば、オランダのストラヴィンスキー・フェスティバル用に曲を書いて欲しいと頼まれたことがある、私もギターを演奏する形で。

以前に "Expanding The Universe" という曲を書いたのだが、それはヘヴィなギターを含む、オーケストラの荒々しく張り詰めたうるさくて美しい曲で…(キップがガサガサと動く)まさか君は譜面を持っているのかい?

KW:ああ、これがその楽曲だ。(カメラに譜面を見せる)

SV:その通り。(笑)それで彼らからもう1曲依頼されたんだ。私には余り時間がなくてね、君ならわかるだろう?20分の80ピースのオーケストラ向け楽曲を書くのにどんなに時間がかかるのか。それに私は全てを手書きしていたからね。

ツアーの計画をしていたところで、作曲の為に5ヶ月を工面しなければならなかった。それがどんな楽曲になるのかわからなかったのだが、私はレシピを天に送ったのさ、つまり私自身にね。(笑)

この曲に何が必要か:

1.簡単なギターパートが欲しい。なぜなら私には時間が無いので、自分の領域を広げるようなパートを書いて、その演奏を覚える時間は無い。

2.私にとって個性的で優れたもの。こうした事柄を挙げてみるのさ。自分がやったことのないことをする、これまでに自分が聴いたことのないものにする、という具合に。

これは高度な要求だが、それが不可能だと思ってしまうなら、「宇宙には限りがある」と言うのと同じだ。私には可能だとわかっているのだよ、それは誰でも可能なんだ。「そんなことを願うなんて、私にはそんな資格はない」という思いも浮かぶかも知れない。しかしそれは間違っている。

KW:正にそれがあなたと語りたい話だよ。あなたは「アイデアを天に送る」と言ったけれど、そう言う人は余りいない。でも実は皆しているんだ。

SV:そう、いつもしているんだよ。でも多くの場合引っ込めてしまうんだ。なぜなら自分の願いには苦難を伴うからだ。

KW:その通り。

SV:自覚していないだけで始終していることだ。不安に思ったり、責めたり、恐れたりするときにはいつも、それらの感情を送って、それらが増幅して返ってくるんだ。

KW:とても興味深いよ。俺はよく「虚空に向けてネットを投げる」という言葉を使うのだが、あなたは「レシピ」という言葉を使った。思うに、それがどんなものが返ってくるのかの鍵になるのだと思う、特に作曲について考えているときには。

SV:ああ、面白いことに、私があれらのパラメーター、つまりレシピを書くとき、私には何のアイデアも無いんだ。曲についても、どんなものになるのかについても。自分が欲しいものはわかっている。障害になるものはない。「これが欲しいが、それは無理だ。なぜなら…」というような考え、それこそが(創作活動を)ブロックしてしまうのさ。

私は自分の音楽について情熱的に話してしまうが、アーティストはそう感じるべきなんだ。皆が気に入るか、気に入るべきかということではない。アーティスト自身がそう思うこと。

聴衆にとってはそれが重要であり、アーティストがどれほど優れているのかが知りたいのだ。だから本人が全てだ。自分の為になることをする権利がある。それができないのなら、誰の為にも何もできないのだよ。

KW:ああ、そのとおり。

SV:それで、(レシピを天に送ってから)1週間くらいして車に乗ろうとしたときだ、ドアのカギ穴に鍵を差そうとして "Still Small Voice" という曲全体が音符の形ではなく、コンセプトの全体が君が言ったように、ヴィジョンとしてダウンロードされたんだ。それは従わざるを得ないもので、実際に立っていられない程で車に寄り掛からねばならなかった。

それはとても興奮するアイデアで、「1音を17分保持し続ける楽曲を書く」というものだった。自分は全く動かず、そこにオーケストラ全体が加わり、その1音の周りで踊るというものだ。楽曲全体を通して。

(訳者注:動画7:50辺り、譜面と音楽がながれ、ギターパートが赤線で囲ってあるので視覚で確認できます。ナイスな編集)

私にとって重要な事はクールなアイデアかということだ。

KW:実にクールなアイデアだよ。

SV:更に、私にとってクールだったのは、"The Middle of Everywhere" の第二楽章で、これはまた別のコンセプトで書いた別の楽曲だ。それは非律動的対位法(non rhythmic counterpoint)でね、君は楽曲で気付いたかな?

KW:もちろんさ。音符に表れていたし、譜面で読み取れたよ。

SV:譜面から聴いてもらうと、荒いだろう。とても堅い。どの音符も他の音符より長くないなんていう楽曲を書くことを想像できるかい?

KW:ああ、とんでもない挑戦だ。

SV:とても難しかったが、同時に楽しかったよ。そして "Still Small Voice" では、「ダ~ラ~ファ~(歌いだす)」と最後がF音(ファ)なんだが、その音を私は17分保つんだ。

そしてオーケストラが加わると、初めて音符が律動的対位法へと別れていき、楽曲となる。だがあの曲のクールなところは、私が保っている音に集中して聴いてもらうと、それを取り囲むもの(オーケストラの旋律)によってあの音がいかに曲の色合いを変えるのかが実に興味深いんだ。

KW:あなたは実に優れたオーケストレイター(声部編集者)だ。そこも俺が話したかったことなんだ。あの曲での1音が楽曲を保つというコンセプトは理解していたけれど、楽曲自体はあの音が無くとも素晴らしかっただろう。あなたがそういう切口で聴いたことがあるかはわからないけれど。

SV:なるほど、そうだね、ありがとう。私は時として、パラメーターを決めて仕事をするのが好きなんだ。

KW:(パラメーターを決めることは)重要なことだよ、それが無ければただ忘却の淵に堕ちて、構造の類も無しにネバーランドを彷徨うようなものだ。

(Part 2 へ続く)

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キップがこの対談について話していた過去記事はこちら。

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