ヴァイ先生の来日公演は10月!実に9年ぶりの単独公演です!
Generation Axe で複数回来てくれましたが、自身のセットが短くてファンには物足りなさがありました。久しぶりの先生ソロライブが嬉しい!
公演詳細はこちらでご確認ください。
さて、今週はヴァイ先生とキップの対談 Part 3 です。今回から YouTube で公開された動画 Part 2 の内容に入ります。今週はその前半部分をまとめました。
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Kip Winger:作曲においてあなたに影響を与えた作曲家は誰?
Steve Vai:私は幼い頃はクラシック音楽のファンではなかった。好きなのは『West Side Story』の類で、そこにはドラマや演劇の要素、そしてメロディがある。古臭くないしね。
そして7年生になってビル・ウェスコット先生の(音楽理論)クラスを受け始めた。そこではクラシック音楽の歴史を学んだのだが、そうして様々な時代やその時期の代表的な作曲者を知った。つまらなかったとまでは言わないが、モーツアルトは好きじゃなかったし、ベートーベンにもバッハにも惹かれなかった。
KW:その話を以前インタビューで読んだのだけど、「完全同意!」とハイファイブの気分だったよ。俺はモーツアルトもベートーベンも聴いてしっくりこない。
(訳者注:キップが影響を受けた作曲家の話はこちらで読めます)
SV:ハハ、まるでスケールの滝のようだからね。
KW:ああ、20世紀以前のクラシック音楽はなかなか好きになれないんだ。つまらないんだよ。皮肉にも、メロディとしては多くの優れたものがあるのだが、チャイコフスキーとか美しいものがある。でも俺はそれ以降の音楽が好きなんだ。
SV:私もだ。でも大人になってから好きになったものもある。ベートーベンを深く掘り下げてみると、いいじゃないか、となった。バッハにしても。
バークリーに進学したときだ、学校には図書館があったから、そこで水門が開くように多数の音楽に触れて目覚めたのだよ。
KW:何歳でした?
SV:18か19。こうして大量の音楽世界に触れ、学び始めたんだ。ヤニス・クセナキス(Iannis Xenakis)やストラヴィンスキー、そしてリゲティ・ジェルジュ・シャーンドル(Ligeti György Sándor)を聴いた。彼らは皆予想外のことをしていた。私は予想を裏切られるのが好きでね。一方で、うるさい理論的現代音楽の作曲は全く好きじゃない。
KW:ジョン・ケージ?
SV:ああ、全部ありがたく聴いたよ、でも私にはピンとこなかった。
KW:全く同じだ。俺もやってはみたけど…
SV:中には聴くに堪えないものもあった。ありがたいけどね、私はそんな音楽を書きたくはないのだが、中にはそんなのもあるかも。(笑)
KW:ハーモニーの面でとても難しい。レブ・ビーチが俺の音楽を弾いて「これエグイなぁ!」って言うことがあるんだが、俺は「何言ってるんだよ?」と。
SV:ディミニッシュ・コードが幾つもあるのかもね。(笑)
KW:話を戻すけれど、あなたの和声言語がどう生まれたのかについて。あなたのは一貫性があり、個性的で、構成の仕方が俺にはとても興味深いんだ。もう少し説明して欲しいんだ、例えばここにある作品について。(譜面を渡す)
SV:これは "The Middle of Everywhere" だね。これもアイデアが降ってきて書いたものだ。非律動的対位法(non rhythmic counterpoint)で曲を書くというもの。大きな挑戦だったのは、どの音符も他の音符より長くできない中で音楽らしく聴こえなくてはならないということ。
大変だったが、このようなアイデアを閃くというのは私にとって宝を見つけたようなものだ。なぜなら、それによってある枠組みで構想することになり、例えそのような条件があっても、無限のことが可能なんだ。
KW:これはロックだろうと、どんな音楽であっても、伝えていくべき重要事項だと思う。作曲では重要なアイデアを見つけることが大切で、それによって効率的に取り組める。この作品は素晴らしい事例だと思う。簡潔でありながら、退屈でなく、完全な楽曲としての形式へと拡大する。
SV:ああ、そして各セクションには異なる心理的構造があるのだよ。"Still Small Voice" では、3音で始めると話したね、「ダ~ラ~ファ~(歌いだす)」と。
KW:その音で曲を終えていたね。
SV:ああ、最後に解決するんだ。そして中間部はずっと17分間1音なんだ。その3音には関係性があり、さてここから知的アプローチに入るのだが、私はあるどこかの部分で知的アプローチを行うと、それをメロディやコードの色彩、感情といったもので覆いかぶせる。
そこで、知的エクササイズなんだが、3音を選び、それらについて全て解明するんだ。音間のインターバルなど、その周りで1曲を書いてみるんだ。そうしてこの曲は生まれたんだ。結果は思いも寄らないよ、こうして一生学び続けるんだ。
KW:譜面を読めば明らかだよ。
SV:では4音を挙げてみて、「ダ~ラ~ラ」ときて次の音が鳴ると同時に別の楽器が同じ音を繰り返し鳴らすとしよう。
KW:カノン的(対位法の厳格な繰り返しの形式)な展開をするということだね。
SV:そうカノン的な、そうすると面白い音のタペストリーができるだろう。私はそういうのが大好きでね、聴いて楽しいんだよ。
KW:素晴らしいよ、あなたのオーケストレーションは秀逸だった。
SV:(作曲の面白さは)大人にとってのビデオゲームのようなものだ。君にはわかるだろう、書いていて、期待以上のものができたとき。逆に駄作だったときもあるけどね。
KW:それは元のアイデアがどれほど良かったかに掛かっているのかい?時には魔法のように作品がまとまることもあれば、散らかしながら苦しむこともある。あなたは魔法のようにやっている。
SV:全てはコンセプトに基づいているんだ。中には機械的に書いているものもあるし、構想に基づくものもある。インスピレーションがあれば、例え聴いたことのないものでも、まだ実際に曲を書いていなくても、どんなサウンドになるのか明確にわかっている。ただわかるんだ。
KW:そこでもう1つの疑問なのだけれど、どこで曲が完成したとわかるのかな?
SV:曲が告げるんだ。ただわかるんだよ。いい質問だね、もっともな答えはでてこないよ。君もやっているよね、ロックでもどんな音楽でも。完成したとわかっているだろう?
KW:俺の場合は聴き返してみて、何も気になるところがなくて、頭の中で別のことをしろという声がしないときだな。もし別の道に向かう音が聴こえたら、それを辿ってみて、いや違うということもあるし、それが価値のあるアイデアなら考えてみたり。
SV:同じだよ。
KW:この曲では18分辺りでハープのパートが始まるよね。不思議に思っていたのだけど、その前で曲を終えることもできたけれど、このエンディングは素晴らしい。あなたにはそれが聴こえていたのかな?それでこれで終わりではなく、このパートを追加せねばならないと?
SV:メロディックなものが足りなかったんだ。オーディオ・イリュージョン的サウンドが不足していた。リズム構造の厳格性があるが故に、(このパートは)注意しなければトリック又は目新しさ狙いに聴こえてしまう。そういうのは避けたかった。
どんな上手い仕掛けがあったとしても結局のところ、楽曲として聴こえなければ、メロディがなければ意味が無い。例え奇妙なメロディであっても。だからあのセクションは必要だった。曲はその前で完結しておらず、あのセクションが必要だったのだ。あれが不思議な感覚を拡大していたんだ。
KW:あれが楽曲を強調していたよ。しかし、そこまでも非常に強力な曲だった。初めて聴いたとき、そうかこれでエンディングだなと思った。でもあなたはそこから更に進んでいた、とでも興味深いと驚いたよ。
SV:私は常に壮大なエンディングが好きなんだ。(笑)
ロックバンドがプレイするようなシンプルな曲が沢山あるんだよ、私のインストギター作品からの曲でオーケストラを加えたもの。8月にフィンランドに行って、それら大作をオーケストラとレコーディングするんだ。スタジオでの収録だ。とてもプレイするのが難しい、重厚な曲だから、今できる最高の収録をしたいと願っている。
KW:指揮者は?
SV:ジュコレス・キーリア。素晴らしい指揮者であり、作曲家だが、面白いことに初めて彼に出会ったのは私のギターキャンプでだった。彼はギターファンでプレイヤーでもあった。
彼はフィンランドの交響楽団と多くの仕事をしていて、私は幸運にも、何か作曲して演奏してもらえる今日の状態になった。多くの作曲家はそれが実現できるとは思っていないからね。何か小さな事が起こってそれがきっかけになるんだ。
シアトル交響楽団が私の1、2曲を演奏したことがあった。私にはオランダにコウ・デ・クルーという友人がいてね、彼はフランク・ザッパの友人でもある。彼は優れた音楽脳を持っていてね、彼のことは創造の触媒と呼んでいるのだよ。彼には様々なものを惹きつけ組み合わせる力がある。彼はかつてレコードの卸業で働いていて、私の『Flex-able』を自国で販売網にのせてくれたんだ。それ以来の友人なんだよ。
(訳者注:ヴァイ先生とコウ・デ・クルー氏との対談動画が以前公開されています。かなり興味深いお話が聞けます!)
KW:彼は『Sound Theories』にも関係していたよね?
SV:彼は楽曲以外の全てに関わったんだ。彼が音楽に口出しをすることもあるけれどね。そんな彼がかつて私に言うんだ。「君は優れたギタープレイヤーだと思うけれど、君の中にいる作曲家の一面はまだ世界が知らないから、私はそれを世に出したい」とね。
それで「いいだろう、ではどうして欲しい?」すると彼はオランダ政府に掛け合って『Sound Theories』への出資を引き出した。彼が全てを企画運営したんだ。彼がいなければ何も実現しなかった。
(『Sound Theories』によって)その後、私は別のオーケストラにアプローチできる楽曲があったのだが、有難いことに事は上手く運んだ。それに君のコネクションでコロラド交響楽団との演奏もできた。素晴らしかったよ、あれらの曲を演奏したんだ。
そして前のワールドツアーの後で9~13のオーケストラ・ショウが実現した。ポーランドやロシアでも演奏したんだ。
KW:素晴らしいよ。俺は良い意味であなたがとても羨ましい。
SV:何言ってるんだ、そんなことは直ぐに君にも起きて、(余りのオファーの多さに)断りを入れることになるだろう。
KW:俺が言ってるのは、優れた楽器演奏者でもあることだよ、俺はその道は諦めてしまったから。
SV:君は歌えるんだから必要ないだろう。(笑)
KW:あなたは素晴らしい作曲家である上に凄腕の演奏家だから、オーケストラの前に立って実際に演奏することができる。きっと素晴らしい気分だろうね。
SV:ある程度、素晴らしい気分だよ。なぜならオーケストラは皆「それ、音量を抑えてもらえますか?」って言うだろう?私のシアトルでの初公演では、私の音がうるさければ、オケは演奏する必要がないのじゃないかと予想した。
そして私がサウンドチェックに入り、1音を鳴らすと3人ほどが立ち上がって去ったんだ。それほどうるさくもなかったのに。(笑)
KW:ナッシュビル交響楽団の指揮者にあなたのことを話したんだ。彼らは多くのセッションをやっていて、ロックも実に上手く演奏できる。
SV:メトロポール交響楽団も見事にロックできるんだ。彼らのような楽団は若くて、志があり、即興という言葉の意味を理解し、実行できる。冒険を好み、楽曲が渡されたら熱心に聴きこみ、楽曲に命を吹き込んで演奏できるんだ。しかし本物の交響曲ほど楽団を活き活きさせるものはない。
だから私はこれらの楽曲を楽団に持ち込んだが、他の曲は楽団に持ち込むことはない。
(Part 4 に続く)