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スティーブ・ヴァイ Part 2 Hydra 演奏ビデオ解説:「私の動きの中にミュートの動きが多数あることに気付くだろう」

先週に続き、ギター番組 Music Is Win でのヴァイ先生インタビュー続きです。

後半では、Hydra 演奏で苦労した箇所に加えて、シグナルパスの説明も聞けます。そして締めには有難いVAI説法も。

 

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あなたが今話したように、12弦ネックのデザインは実に実用的です。フレットレスで多用するのは5~8フレットでしょうが、ハイポジションに上がるとあなたがソロでやったように、独特の音色が出せます。

そうだ。ベースのフレットレスについて言うと、1弦だけにするか、1・2弦にするか、様々な組み合わせを熟考した。何が最も使い勝手が良く、実用的なのか。

さっき、ピックを持っているのが大変だと言っただろう?このビデオ撮影中の私は高度な集中状態にあった。こう言うと変だと思われるかも知れないが、そのような高度な集中状態にあるときは、心理的な時間の動きをコントロールできるんだ。自分の時間を支配するんだよ。

このパートをプレイしているとき、ピックを見失ってしまった。しかし慌てることなくピックをみつけて掴み、必要なところで使えたのさ。まるで時間が止まっているようだった。説明するのは難しいのだが、あのゾーンに入っていると、できないことなどないと思えるんだ。

一昨年の12月には肩の手術をした、そして去年の夏にはアクシデントでまた肩を痛めてしまった。そんなに悪いと思っていなかったので、そのまま『Inviolate』を仕上げ、猛獣のごとき "Teeth of the Hydra" は最後に取っておいたんだ。6週間スケジュールを空けて取り組み、レコーディングとミックスをした。

この曲の前に手術を受けるはずだったんだ。でも先に手術をしたら、レコーディングはおろか、ギタープレイがしばらくできなくなるとわかっていたんだ。それにビデオを撮影しなくてはならないとも思っていた。なぜなら、聴衆は曲だけを聴いてもどういうことか理解できないだろう。

大変だったのは、私が "Teeth of the Hydra" を作曲・レコーディングをしたときには、Hydra のスタンドがあったが、ビデオであれを身に付けて立っているのは別次元だったことだよ。一度にできるのは3~5分程度だった。立って演奏し、全てのネックを操るには、Hydra はとても重い。

Hydra の重さはどれくらいですか?

人に測ってくれと頼んでいるのだが、まだ知らないのだよ。でもあれをプレイしながら動くことは出来ないんだ。足がセメントのように固まってしまう。ビデオ撮影の翌日には人の助けがないと歩けなかった。なぜなら、12時間に渡って、何度も何度も演奏したからね。撮影とはそういうもので、休憩も取っていられない。

あなたが自身の芸術のために苦しむのは初めてではありませんね。

私はそのテの苦行が好きなんだよ。「構わない、やるぞ」となるのさ。でも「これは私にはできない」と言うべきときはわかっている。自分を追い詰め過ぎて怪我をしてはいけない。まぁ、今回はやってしまったかも。

この撮影の3日後に肩の手術をしたんだ。7週間前で、昨日から理学療法を始めた。そんな訳で Hydra を欧州ツアーに持っていくのは無理だ。月曜にリハーサルを始めて3週間やり、私はオランダに飛ぶ。そこで1ヶ月かけてオーケストラ音楽のレコーディングを行う。そこから私は直接ツアーに入るんだ。

Hydra を1ヶ月もプレイせずにツアーで弾くなどありえない、あれは常にプレイしていないと楽器と一体になれないんだ。北米ツアーで弾けたらいいとは思う。もう1つ Hydra の問題は、特に今は輸送費が高額なことだ。それにあれはとても繊細な楽器なんだ。運送時に傷つく恐れもある。

Hydra のシグナルパスはどうなっていますか?

Hydra のアウトプットについて話すと、cat6 イーサネット・ケーブル(情報伝達速度量の高いLANケーブル)から全ての信号が出る。1つ別のMIDIケーブル口(13ピンのアウトプットジャック)があるけどね。

イーサネット・ケーブルは(特製スプリッター・ボックス)"Brain" につながる。"Brain" は Hydra よりも重い、2倍くらいだ。"Brain" からそれぞれのネックの信号を出力できるのだが、私はそれを Fractal AXE-FX Ⅲに繋いでいる。これには4つのインプットがあるからね、最高だよ。

一度 Fractal に入れば何でもできる。それで特別なパッチを作ったよ。それでモノで入った信号をステレオに換えて、サウンドを開く。7弦のアウトプットは私のメインのリグに入って、他はコンソール等に入る。そんなところだ。

 

なるほど。スタジオではそのようにしていた訳ですが、ライブパフォーマンスでは弦のノイズ等もある中でどのようにするのでしょうか?

ビデオを注意深く見ると、私の動きの中にミュートの動きが多数あることに気付くだろう。ベースのスライド等全てにね。開放弦を使おうとしている12弦以外のネックでは常にミュートが必要だ。

ハープ弦においては、私がどのようなチューニングを採用するかということも問題だった。Hydra で更に曲を書くのかはまだわからないが、私には実に野心的なアイデアがあるんだ。でもアイデアに興奮しすぎてそれが消えてしまうんだ。(笑)

秋の北米ツアーに向けて Hydra のプレイをするとアイデアが湧くかもしれませんね。

ああ、しかしそれには邪魔の無い十分な時間が必要だ。1日に15時間くらいの時間が私には必要なんだ、全てのアイデアが自由に身体を巡るために。

それでハープ弦についてはハーモニー面でもメロディ面でも、この曲では比較的シンプルにとどめた。1本の腕だけではコード演奏が難しいからね。

ハープを弾く場面は調の変化に繋がるので、結果としてそのセクションでの演奏を反映するものが必要だった。イントロはマイナーキーなんだが、私はあらゆる倚音を含めた。それで、ハープのチューニングはメジャースケールにマイナー3rdを加えたもの、♭2か♭6マイナー7だったと思う。とても奇抜なクロマティック音階だ。

それにハープ弦のチューニングを保つのはほぼ不可能なんだ。だから何度もチューニングしなくてはならない。それにハープ弦は共鳴弦でね、つまり、ギターは弦が揺れているときに音を出すのだが、ハープ弦は常に全ての音を拾うのさ。だから、ビデオ演奏はああしたが、ハープ弦サウンドはオーバーダブしたんだよ。ハープのトラックには他のネックの音が全て入ってしまうからね。それにコーラス部などでは他にもオーバーダブを使っている。

あなたは言っていますよね、「取り組んでみれば、最初は不可能に思えたことが、さほど不可能ではないように思えるものだ」と。あなたのアドバイスとしては、「やりたいことは躊躇せずにやってみろ」ということでしょうか。

誰もが何らかの才能を持ってこの世に生を受けているのだ。絶対音感があったり、芸術的才能があったり、ビジネスに長けていたり、何かを持っているんだ。私たちは皆、物事に対する独自の創造的な取り組みができるんだ。人は皆違っているのだから、ユニークであるはずだ。

そして、私たちの取組というのは過去の経験に基づいている。スキルや学術的な達成度合いとか。ビジネスマンはその分野の十分なスキルが必要だし、ギタリストは技術を磨かねばならない。しかしこれは無理に自分を強制して学べるものではないのだ。これは多くの人が誤解していることなんだよ。

まずは自分の創造的関心が何かを見極めること。君の内面又は天から授かる刺激的アイデアは実は君自身に特別に創られたものだ。君の才能や能力に合わせて特注されている。それが「ああ、これだ!」と湧き上がるのだよ。

それを実現するために邁進するなら、君はその過程も楽しめるだろう。もちろん困難はあるだろう、しかし君はそれをも楽しめるのだ。そして達成できたなら、それは良い気分だろう。まずは創造的独創的アイデアが湧いたら、それを尊重することだ。そうしなければ後悔するだろう、達成感を味わえないから。実現できたときの達成感は素晴らしい。君は他人に対し、楽しめることを提供する力もあるのだから。

(インタビュー終わり)