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キップ・ウィンガー "Seventeen"の秘密

キップ・ウィンガーがメディアのインタビューに答えました。作曲にスポットを当てたサイトのインタビューだけに、作曲家としてのキップに迫る内容となっています。ミュージックビジネスにキップが思うこと、過去の作曲について、興味深い内容でしたので、一部を和訳して編集してみました。

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Kip_morc2016あなたはクラシック音楽の作曲もしますね。WINGERの作曲とはどう違いますか?

全く異なる作業だ。俺は独学タイプのミュージシャンなんだよ。クラシックのような長編の音楽作曲を学ぶのには長い時間がかかった。35歳で始めたんだ。まずピアノ音楽なんかの譜面を読んで、でもオーケストラ音楽の作曲は30代で勉強を始めて、40代になってから書き始めた。俺が言う勉強っていうのは、作曲理論とプライベート・レッスン(キップはジュリアード卒のNY芸術大教授のレッスン等を受けている)を12年間やったってことだ。

ロックとは全く違うんだ。ロックは仲間と一緒に歌詞やなんかも作るものだけど、クラシック音楽はもっとずっと長いものを作らなくちゃいけない。そこにはテーマの多様性も必要だし、他の魅力的な要素も必要だ。全く違うものなんだ。

クラシックってのは正しい言葉じゃないな、俺が言ってるのはオーケストラ音楽、コンテンポラリー・クラシック音楽の作曲のことだ。短編の作曲というのはヴァース、コーラス、ミドル、ヴァース、コーラス、エンディングで、そこにソロを入れるかだ。そして長編の形式というのはそこからさらに10分続くものにするってことだ。

ずっと作曲の勉強をしてきたことは、ロックの作曲の方にも役立ってる。例えば、普通のバンドが4回繰り返して次へ進むようなリフがあるとして、オーケストラ作曲を学んだことで、おれはそのリフを取り出して、変化させ、操り、様々な手法でもっと面白いものにすることができるんだ。

今の時代って何でも凄いスピードで進んでいて、大衆が飽きるのも凄く早い。だから、「分かったから、次へ行って」なんて思う人たちの前で何度も同じフレーズを繰り返すなんてできない。バッハは3回以上繰り返しは使わなかった。それこそ俺がやってきた過ちさ。(笑)

ロックの作曲とオーケストラ曲の作曲は両方の経験が役立ってる。生涯ロック・ミュージシャンでいることは簡単だけど、刺激的なロック曲を作るのは簡単じゃない。破産するのは簡単さ。過去から深く学んで、俺の未来に成すべきことを考えるのは最善だと思う。

今と80年代、90年代のレコード・ビジネスというのはどう違うのでしょうか?

音楽ビジネスってのは本当におかしなことになってしまった。昨日、俺がやったインタビューではモトリー・クルーがVIPパスに499ドルも取ってるのをどう思う?」って聞かれた。俺は「それじゃぁ、Pandoraアメリカの音楽配信サービス)で100万回再生されても200ドルしか支払われないのはどうなんだよ?」って言いたかったね。これがビジネスの状況なんだ。インターネットは知的財産権を破壊したんだよ。その一方で創作活動を全盛にした。

つまり、インターネットはビジネスに進歩をもたらしたけれど、知的財産はもはや何の価値もなくなった。だから、KISSやBON JOVIでない限り、殆どのバンドは苦しんでいるのさ。

今やCDってのは大量消費財のひとつでしかない。それでも俺の音楽に捧げた人生の目的は、音楽の仕組みを理解することにあるんだ。俺はTシャツやグッズの販売には興味がない。俺はいい音楽を書きたいんだ、ただそれだけだ。

俺は音楽理論オタクだから、音楽の勉強が好きなんだ。「音楽なら何でも好き」っていうのじゃなくて、特定の好きな音楽があるんだ。俺が勉強している特定の音の要素というのがあって、それが俺の音楽だ。俺は残りの人生ずっと音楽の勉強ができれば幸せさ。ロック・スターになろうとしているんじゃない、音楽スタジオなんかで教師ができてもそれで幸せだ。それが俺のアプローチなんだよ。退屈なんてしていられない。

子供の頃はロック・スターになりたかったさ。それは楽しくて仕方ない経験だった。でも16歳でクラシック・ギターを始めて、それからバレエを始めて聞いたストラヴィンスキーは「どうやってこんなことが出来るんだ!凄い!」って感動した。俺はずっとそれを学びたかったんだ。

実際、そんなことが可能だとは思わなかった。オーケストラが俺の作曲した曲を演奏するっていう目標はとても手の届かないものに思えたんだ。でも実現した。最高のことさ。でも本物のオーケストラ曲を書くにはとんでもなく長い時間がかかった。クラシックをやろうとする多くのロッカーは誰かに編曲してもらえばいいと思ってるけど、そんなのは勉強が足りないんだよ。

(訳者注:キップがここで強調しているのは、オーケストラ曲を書くには作曲編曲し、全ての楽器パートの譜面を書くということ。恐らくHR/HM界でこれができるのはキップ以外にはスティーブ・ヴァイのみ)

"Madalaine"を作曲してレコーディングした時のことを覚えてる?

WINGERの"Demo Anthology"は聞いてない?これは俺たちのデモを集めたもので、アルバムと比較して聞いてもあまり違いのない曲もあるけど、"Madalaine"はデモではずっとテンポの遅い曲だった。スタジオに入った時、プロデューサーのボー・ヒルの提案はテンポを上げるってことだった。で、テンポを上げたら、曲に命が吹き込まれたのさ。

この曲は俺とレブが最初に書いた曲で、周りで聞いてた人は皆、「ワォ、これはシングルだな」って言ってたんだけど、俺は「これがシングル?それって何だよ?」って感じで、全く分かってなかったのさ。俺はウブな若造だったんだ。俺は遅咲きのタイプで、マーケティングなんかのことは後から理解した。俺はただ音楽を作って演奏しただけで、それ以外の面倒なことが後から追いかけてきた。いいことばかりじゃなかったよ。

"Seventeen"についてはどう?これぞWINGERっていうロック・ソングだと思う?

いいや。でも皆はそう思ってるだろうね。俺たちの中でこの曲は一番チャートを上昇した曲でもない。(HOT100のチャートで最高26位。"Headed For A Heartbreak"は19位だった)俺は"Headed For A Heartbreak" こそが俺たちを最も象徴する曲だと思う。ロッドのドラムとレブのギター・ソロがあるからね。あの曲はリディア旋法の曲で、俺たちの音楽的バックグラウンド以上の広がりがある。

(訳者注:原文には注釈としてリディア旋法のロック代表曲が紹介されています。Joe Satrianiの"Flying in a Blue Dream" 、Steve Vaiの "For the Love of God"、Led Zeppelinの "Dancing Days" のオープニング・リフ、Jimi Hendrixの "Third Stone from the Sun"のイントロなど。いい選曲だ!)

でも"Seventeen"は人気曲だ。この曲の面白いところは、カバーバンドがこの曲を演奏してるのを見る度に、誰もこのリフを正しく弾けてないところだ。(笑)あの曲には騙されるだろうな、生意気なメロディなのに、音楽的には普通のバンドが演奏するには難しいんだ。ピッキングが複雑で、リフとシンコペーションが大量にある上で、歌ってプレイするのは毎回チャレンジングなんだ。

(訳者注:某音楽サイトでは"Seventeen"についてこんなコメントが寄せられていました。「この曲はWINGERの音楽トリック知識を見せつける曲だ。レブ・ビーチの熱狂的なギター・ソロに続けて、バンドはヘヴィなシンコペーションの利いたグルーヴに突入する。このシンコペーションの悪夢のようなリフの中でダウンビートを探してみるといい。ドラマーのロッド・モーゲンステインはビートを逆回転させ、リズム・セクションは始終16分音符で演奏される」) 

レブはあのリフを15歳のときに作ったんだ。でもあいつは「このリフでどうやればいいのか分からない」って感じだった。俺はリフを聞いて「俺はこのリフをどうすればいいか分かる。こうして、こうするんだ」って言って、あいつがメイン・コーラスのリックを書いて、俺がソロ・セクションを書いた。ブリッジでは5度まで上がって、山ほどリフを詰め込んだのさ。

あの曲について今までに解釈されなかったことを教えよう。Led Zeppelinの曲で、タイトルは忘れちゃったけど、"I want you nananananana" ってのがあっただろ?(原文注:おそらく"The Crunge"か "Walter's Walk") 凄く奇妙なシンコペーションがある。"Seventeen"にも同じようなシンコペーションがあるから、よし、Led Zeppelin のアイデアをヴァースに使おうって考えたのさ。それがヴァースになってる。

それに、17歳との関係ってのはコロラド(キップの出身地)では合法なんだよ、だから俺にはジョーク(訳者注:17歳のグルーピーの話が当時話題になっていた模様。このエピソードを知る方は是非教えてください!)の意味が分からなかった。で、あの曲がヒットしてアメリカ中の17歳の子があの曲は彼女のことだって思い込んだんだ。だから、まぁ上手くいったんだよ。(笑)

では、"Headed For A Heartbreak"の作曲とレコーディングに関してはどうでした?

あの曲は俺一人でスタジオ作業してた日の終わりに書いたんだ。キーボードで適当に弾いてて、俺はキーボードで音の断片を繰り返したりするんだけど、それがDリディアン旋法のリフになった。それで、リフが出来て、少しジャムってたら、魔法のような一瞬が起こることってあるだろ、あれがそれだったんだ。最高のアイデアって偶然に生まれるって言うだろ?俺はよく何も考えずに、ただ座って鍵盤の上で指を動かしてみるんだ。そうすると何かが生まれることがある、あれはその一つさ。

曲の終盤で"Don't you think I feel the pain."って歌詞があるだろ?あれは、「ここで何を歌えばいいんだ?何も浮かばない。そのことをここに書いてしまおう」って思ったからそう歌っただけなんだ。メロディとしては何の関係もないフレーズなんだけど、結果的にクールな仕上がりになった。この手のことはただの偶然で出来るものなんだ。

本当はあの曲はもの凄く練り上げて作曲したって言いたいところなんだけど、まぁ、ある程度はそう言えると思うけどね。あの曲の演奏では音楽理論が生きてるんだけど、基本的にリフは偶然に浮かんだものなんだ。

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最高にうれしい出来事があったので、昨日の記事に追加します。

WINGERに昨日ツイートしていたのですが、初めてリプライを頂きました!これまでにも何度か彼らにはツイートをリツイートしてもらったり、お気に入りしていただいたことはありましたが、彼らが1ファンに対してリプライをすることは殆どないため、最高に嬉しいです。(*^.^*)

Tw_iv

WINGERの公式ツイートアカウントは多分キップ本人によって運用されていると思います。キップが以前どこかのインタビューでソーシャル・メディアは慎重に使うと語っていたとおり、バンドの広報が主の保守的な運用がされています。(今年の春にやっとリツイートを使うようになった程度)

そんな彼からもらった"Thank you"の言葉は大変うれしかった。アルバムIVに対しては、彼らの中で複雑な思い(アーティスティックには自信ある作品だったが、売れなかった)があるのだと思うのですが、あれが名作だという1ファンの声を素直に喜んでもらえたのだと思います。私は"Thank you"をキップ本人からの言葉だと信じることにしておきます。

IVからの曲が1曲でも11月の来日公演で演奏されますように!