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ジョー・サトリアーニ 「芸術と商業は常に何らかの問題を抱えてきた」

ジョー・サトリアーニShockwave tour で9月に訪れたフランス、ボルドーでメディアのインタビューに応えました。

このインタビューでは、ニュー・アルバムのレコーディングにまつわるエピソードや、シグネチャーモデルJSの新モデルについて、販売中のストラップ止めや以前好んで被っていた帽子についてなど、いろいろ話していますが、後半に出てくる音楽とインターネットについてのコメントが非常に興味深かったので、その部分を和訳してみました。

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音楽はカセット、レコード、CDの時代からインターネットの発達によって様変わりしてきましたが、今後の音楽の形はどうなっていくと思いますか?

音楽を忠実に再現できるものであればいいと思うよ。例えば、オーディエンスがHi-fi音源(多分、ここでサッチが言っているのはハイレゾ音源のことと思われます。彼が今気に入っている形式です)を購入できるようになってきているのはいいと思う。私たちミュージシャンが聞いているのはそういう音だから。

例えば、私がここでギターを弾いたとしたら、耳に聞こえるのはそのままの音で、何の圧縮も施されていない。ところが、デジタルミュージックというのは世界中に配信するために、それが行われているんだ。

気軽なデジタルミュージックの発展というのは、そういったファイルを無料でシェアすることで進んだけれど、多くのミュージシャンは音楽を作るために対価が支払われなくてはならない。それが行われなくては、他の仕事を探すしかなくなってしまう。音楽制作のために時間を割くことができなくなってしまうのさ。

この利害対立というのはいつの時代にもあったことなんだ。芸術と商業は互いに必要としていて、共存もしてきたけれど、常に何らかの問題を抱えてきたんだ。もちろん、その内容は19世紀と20世紀、21世紀では異なるけどね。
私たちは何らかの解決法を見つけられると思う。さほど心配はしてないよ。

インターネットはファンとのコミュニケーションを迅速にした、というのは良いと思うんだ。例えば何かのサイトがどこからともなく草の根的な広まりで注目を浴びて、私もそれに簡単に参加できる。その間に何かの企業が入り込む必要もない。

私が音楽業界に入った頃はそういうものは一切なかった。何かあれば書類作業で、手間がかかった。ただ私が残念に思っているのはメディアというのは一般的に金がかかることで、プレゼンテーションをするには時間や人手が必要とするものだったのに、その変化だ。

例えば、これがTV番組で2000万人の視聴者がいたとしよう、だとすればカメラマンだけじゃなくて、カメラを支える人もいるだろうし、高価な照明やスタジオも用意するだろう。ホールからもれる雑音にも気を遣うだろうし、様々な準備をするはずで、撮影した映像は質の高いものになるはずだ。

でもインターネットの世界では、常に視聴者がいて、何でも早く提供しなくちゃいけない。でもそれに応えるために、品質を大幅に落とすことになる。もしこれがアーティストの立場になってみて、このとんでもなくカジュアルな環境でやらなくちゃならないとすると、見方を変えざるを得なくなる。

何に対しても、より無頓着になって、準備をしなくなる。もし例えばこれがフランス最大のTVへの出演だったらしっかり準備するだろう?でもこれは、またいつものツイッターやペリスコープやフェイスブックのインタビューだと誰かに言われたら、ああ、そうかと思うのさ。誰が真剣に見るのかってね。視聴者がほんの数秒スマホで見るだけのものだったら、作り手も気にしなくなる。

そうして、見る側も作る側もさして気にしないものができるとすれば、インターネットにはクズが溢れているってことになる。じゃあ、誰がいいものを作るんだ?

資金を集めることができればいいものができるかもしれない。そうやって私はまだいいアルバムを作ろうとしている。私にはソニー/レガシーという長年のパートナーがいるから。彼らは私が質の高い作品を作るプロジェクトを許してくれている。でも多くの人にとってはそういうことは難しい。それが今のところ私がインターネットに対して思っていることなんだ。

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インターネットの発展は少ない資金でも作品を作ったり、発表する場ができたという良いところがある一方で、サッチが言うように、品質を犠牲にしてきた部分があり、また最近の音楽配信の発達によって芸術と商業の矛盾を抱えているのが今の状況といえるのかも。

この手の質問は最近よく海外のインタビューで見かけるのですが、サッチのコメントにはなかなかに深い洞察力を感じました。

ネットのおかげで、海外のアーティストのインタビューを時間差なく沢山読んだり聞いたりできる時代になりましたが、メディアが乱立して、そもそも低予算でやっているものが多数なので、インタビュー自体の質が落ちているのは感じます。

サッチが言うように、「見る側も作る側もさして気にしないものができる」という状況はやはり悲しい。時間はかかるけれど、作り手が質の高いものを作り続けて、低いものを淘汰していくしかないのかな…