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スティーブ・ヴァイ 「何ものにも、どんなジャンルにも従う必要がなかった」

スティーブ・ヴァイがメディアのインタビューに応え、Modern Primitive/Passion & Warfare の詳細について語りました。Passion & Warfare の製作風景や、Modern Primitive の内容が垣間見える内容です。ロングインタビューをほぼ全て和訳してみました。

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過去に立ち戻って、作品を辿るのは興味深く知的な体験だったのではありませんか。

その通りだ。我々がクリエイティブな活動をするということは、それぞれの人生のある時期の視点を通して生み出されるものだからだ。正確には、Passion & Warfare は Modern Primitive の後で製作されたものだ。私にはそこで随分大きな成長があった。だから、Modern Primitive は当時の私のイノセントさを反映している。

これらの音源を立ち返って聞くのはとても興味深いよ。若き日の自分が目に浮かぶんだ、20代前半とうのは力に溢れた時期だ。自己の確立を発見するんだ。素晴らしかったのは、あの当時これを製作していた私には何の期待もなかったことだ。自分の周りで耳にした様々な音楽を吸収していた。でも私が作りたかった種類の音楽は、自分だけの秘密だと感じていたんだ。

Passion & Warfare の数年前に ジョー・サトリアーニの Surfing With the Alien が大きなヒットとなりました。それを見て、ギターミュージックは成功するのでは、と思いませんでしたか?

どの種の音楽でもそれを好む聴衆というのはいるものだ。インストのギター音楽でもポップでもジャズでも何でもね。ジョーの音楽は耳に心地よいし、その仕組みを見極めるのは簡単だ。しかし、彼の音楽の裏側にある秀逸さ、見事なメロディを再現することは不可能だ。何事も真似ることはできる、しかし、オリジナルのインスピレーションを再現することはできないのだ。それは自分自身で見つけなくてはいけない。

Passion & Warfare を作り始めた時、私は比較的正統派メロディのギターインスト アルバムを考えていた。当時の私はジェフ・ベックの Blow by Blow なんかに夢中だったからね。The Attitude Song がGuitar Player Magaine で取上げられて、いい反応があった。それで私は「もしかしたら、こういうクレイジーなギターものでまるごとアルバムを作れるかも。皆が気に入るのじゃないか」と思ったんだ。

実際に、ジョーが Surfing With the Alien で成功を収めたことは貴重だった。なぜなら、それによって私は全く違う方向性に向かったからだ。私はジョーと同じ仕様でそれを真似するようなことはしたくなかった。

その方向性で製作して、結果については頭の中にあのアルバムの音があったのでしょうか?それとも結果的に素晴らしいサプライズだったのでしょうか?

その両方だ。Flex-Able の時は全く完成形は見えていなかった。アルバムをリリースするということすら私の考えにはなかった。だから何でも好きなものをレコーディングできたんだ。Passion And Warfare については、レコードリリースは頭にあった。でも先ほど言ったように、どのように世間に受け止められるかについての期待は全く持たなかった。

それは随分と自分を自由にする効果があったよ、なぜなら何ものにも、どんなジャンルにも従う必要がなかった。そうして、製作を進めて曲をまとめていくうちに、アルバム自体が何が必要かを私に語りかけてきた。最後にレコーディングしたのは The Animal だ。動きのある、クールで、ヘヴィな曲が必要だと思ったからだ。本を書いていて、何かが欠けていると本から語りかけられるのと同じだよ。

JEM と Universe(どちらもIbanezeのヴァイ・シグナチャーモデル)は作曲過程において、あなたの想像力をかきたてるのにどう役立ったのでしょうか?

興味深いことに、JEMは私の特異な演奏パラメーターに基づいて開発されたのさ。24フレット、1部のスキャロップ、特定のPU設定、音をとびきり上げられれるアーム、それにもちろん7弦が必要だった。それらが製作されて私の元に届くころには Passion and Warfare の多くはレコーディングされていた。

どの曲にJEMを使ったかは覚えていないんだ。でも "For the Love of God" と "The Riddle" をレコーディングした白い7弦のことは覚えている。そのギターはプリンスにあげたんだ。彼は多くの人からもらったギターと一緒に部屋の壁に飾ってあると言っていたよ。

"For The Love Of God" では10日間の断食の4日目にレコーディングされましたが、それは計画どおりなのですか?

いや。たまたまあの時期に起こったことなんだ。21歳の頃から、年に2回、10日間の断食をするというのは私の健康法なんだ。断食中の心理的、感情的な大きな変化を感じてはいたが、自分がやっていることに応じて断食を計画することはなかった。ただ断食していたんだ。そしてその4日目に"For The Love Of God" ギターをレコーディングする必要を感じたのだよ。

断食をすると、通常の知覚を超越した明瞭な瞬間というのが訪れる。時には身体に多くの痛みを感じるし、陶酔感を感じる時もある。確かに断食はあの曲を演奏するのに何がしかの影響を与えただろう。何しろ私はもの凄く食事がしたくてたまらなかったから、ギターに泣きつきそうだったんだから(笑)

"Ballerina 12/24" では Eventide のハーモナイザーがとても印象的ですが、作曲はこれを使うと決める前に終えていたのですか、それともこの音がアイデアを拡張したのでしょうか?

あの音は実際には私が繋いだユニット全体で出しているんだ。あれはディレイとハーモナイザーによって作られた曲さ。私の演奏自体は全くあのようには聞こえないよ。あの曲はあのサウンドに基づいて作られたんだ。いろいろ試して遊んでいたら、あの接続を思いついて、それで弾き始めるうちに、これで何か魅力的なちょっとした音楽ができそうだと思ったのさ。

この曲ではクールなチキンピックングをしてますよね、これはどんなエフェクターを使ったとしてもいい音になったと思いますよ。

手品みたいにスモークと鏡で演出してあるのさ。実は全て単音ものなんだよ。どうプレイしているのかが分かったらきっと「私にも出来るし、誰にも出来る」と言うだろうね。クリエイティブなのは作曲の部分さ。指のテクニックによるものじゃない。もう何十年もプレイしていなくて、実はこの曲を昨日覚え直したんだよ。

"Blue Powder" のトーンは他の曲に比べて少しエッジーですね。これはこの曲がCarvinアンプの広告用にレコーディングされたからですか?

いや違う。始めにイントロのリフを思いついてね、自分のスタジオに立っていて、このリフが思い浮かんだのを覚えている。曲の感覚と流れを感じたので、そのリフをカセットに録音して取っておいたんだ。私の中ではその曲全体は完成していたから。CarvinからX-100Bアンプ用にデモをやらないかと持ちかけられたとき、この曲でやってみよう、そして結果を見てみよう、と思ったんだ。

だから、この曲がアルバムの中で他の曲とサウンドが違う理由は、これが別のスタジオで別の年に全く違うコンセプトでレコーディングされたからだ。少々強力な機材を使っていたから、よりエッジーに聞こえるんだ。

ボーナストラックの "Lovely Elixir" は実に魅惑的な曲ですね、今までリリースされなかったことが驚きです。

今まで時間がなかったんだよ。子供の頃、カルロス・サンタナの "Europa" をデパートで聞いて打ちのめされたんだ。レコードを買ってずっと聞いていた。素晴らしい作品だ。だから当時私が聞いていた他の曲と一緒に私のクリエイティブ脳に入り込んでいたのだろう。

そういうフレイバーのある曲は他にも "Cal It Sleep" や "Tender Surrender" を書いた。"Lovely Elixir" については最初のメロディがどれほど "Europa" に似ているかさえ気付いていなかったんだ。

気付いたときに、美しい曲だけど、最初のメロディを変えなくてはいけないと思った。あまりに似ていると。でも時間がなくて手を付けられなかった。それであるとき、これはもうこうなんだから、これでいこうと決めたのさ。いいボーナストラックだろう?

Modern Primitive の曲は以前から完成していたのですか?

いや、1つも。Flex-Able の後でバンドを組んでいた時期があるんだ。曲を書いて、録音を始めてた。多分10数曲は書いたが、その半分くらいしか録っていなかったと思う。 ライブでは演奏していたけど、レコーディングする時間はなかったんだ。

その曲たちは戸棚の中でウズウズしていた。そのアルバムを仕上げることはやりたいことの1つだったのだが、遂にその時がやってきたんだ。6曲は収録できた。ベース、ドラム、ギターとキーボード少々、これらをデジタルに変換して完成させたんだ。他の曲については新しく手をつける。

"Pink And Blows Over" という大作があるんだが、3部構成で20分くらいなんだよ。この録音のためにオリジナルのバンドメンバーを集めた。スー・マシス、スチュ・ハム、クリス・フレイザーとトミー・マースだ。

この曲は様々な音楽面を持っていますね、軽快なバラードからドラマティックで夢見心地のシアトリカルな部分があると思えば、ピアノ率いるシンフォニーに行き、そして

最後はジャズに溶け合う。(笑)あれは楽しいプロジェクトだった。これをやりたくてたまらなかった。とても大掛かりな曲だけれど、とても風変わりで純粋だ。これを書いたとき、私には何の期待もなく、ただ「おい、これは変わったアイデアだから、やってみよう!」という気持ちだったんだ。

過去の作品に戻ってレコーディングするとき、30年前の自分と同じ自分にどうやって戻るのですか?それともただ、今の見方はこうだ、と弾くのですか?

人生を重ねるにつれて、常に自分というものが確立されていくものだ。過去の自分と決別したのではない。それもまた自分の中にあるが、表面は進化しているのだよ。私が当時の自分に立ち戻るのは難しくはなかった。私は一度も当時の自分を忘れたことはないからだ。55歳のスティーブは23歳のスティーブの音を聞いていたのさ、全く異なった見方をしてね。今のような音には当時あの曲を弾くことはできなかっただろう。

何曲かで歌っていますが "The Lost Chord" はあなたではありませんね?

それはデヴィン・タウンゼントだ。彼のこの曲への貢献には圧倒されたよ。昔はヴァースの部分を自分で歌っていたのだが、今回歌ってみたら、私の声は曲を台無しにしていて、気に入らなかったんだ。デヴィンは私のお気に入りのシンガーだから、彼に頼んでみたんだよ。曲ごと送ったら、彼は傑作にして返してくれた。彼は私の誰にもできないだろうと思っていた所に到達してくれたんだ。彼が残した結果にとても興奮しているよ。

"Bop!" は実に楽しいジャズとポップの融合ですね。

Rolandから彼らの新製品のギターシンセサイザーのデモ用に何か曲を作って欲しいと依頼されていたんだ。そのシンセを入手して、「これは何か面白いことができるぞ」と思い、4曲書いて録音し、2曲残したんだ。そのうちの1曲 "Essence" はグラミーにノミネートされた。

それで、ギターシンセで遊んでいるうちに、Jazz Scat という設定を見つけて、これはクラクラすると思ったんだ。圧力にとても敏感なんだよ、それでbopとかdoが出てきたのさ。やっていたら上手くできるようになってきた。リードボーカルトラックはギターシンセで弾いているんだ。それをずっと棚上げにしていたのだが、この曲はそこからいつも頭を出して私に仕上げろと言わんばかりだったよ。

何十年も経ってやっと仕上げる気になったが、これは実に楽しかった。私は曲にいろいろと手を加えるのが大好きでね、楽しくてたまらないんだよ。ベース入れの時になって、モヒニ・デイという名手を知った。たった12歳で彼女は凄い腕前だった。彼女のビデオを見ていたら、ギターテクのトーマスが「彼女にこの曲で弾いてもらえば?」と言うのでね、「じゃぁ、彼女のアドレスを教えてくれ!」となったのさ。

彼女にはこの曲のデモにガイドベースを付けてメッセージを送ったんだ。その夜のうちに彼女は送り返してくれた。「ギグの後だったので、ちょうどいいと思ってベースを弾きました」と添えて送られてきたのは、2トラックで、片方はフィンガー、もう片方はフラットだった。感動モノだったよ。彼女は重要なニュアンスを完璧に捕らえていて、曲をモノにしていた。素晴らしいパフォーマンスだ。

過去の作品を聞き返してみて、自分がやっていたテクニックで驚いたものはありますか?

このアルバムの楽曲を再度弾いていて、いくつかの発見はあった。特定のピッキング・テクニックが多くの曲で使われていたりね。おかしなことに、聞き返していて、「こんなことをするなんて、なんて勇気があったんだ!」と思ったよ。当時はただただ自分を追い立てていたんだ。

あの年代でしか成しえないような獰猛さがあった。それは自立し、自分の音を見つけようとしている過程のものだ。それは私の息子や他の若者にも見られるね、特に彼らが政治や環境に声を上げている時に。私があの年頃だった頃にはそういう事に興味が全く無かった、私の注意は全てギターに向けられていた。

多くの人が Passion And Warfare をクラシックと言うのはいい気分ではありませんか?

もちろん自分の仕事が評価されるのは嬉しいことだ、いつだって素晴らしい。しかし、先ほども言ったように、結果がどうなろうとも作品を作らねばならないのだよ。私はこの作品を作るに当たって、何の期待も持たなかったが、それによって自分の独自性を切り開く素晴らしい位置に立つことができた。

ここに2つの道がある。誰かに「お前の音楽なんて面白くないし、誰も聞かない」と言われて、落ち込んで何もしない道と、「自分は何だってできる、ただ自分が満足できればいい」と考えて創作する道だ。後者において、アーティストの最高の作品が生まれることが多い。

25年が経って、「自分は何て幸運だったんだ。これを作って、これほど素晴らしい反応があった」と思うこともできる。とても良いことだ。でもそれは結果的な報酬だ。第一の報酬は自分を満足させることだ。これが重要なんだ。そうすることで、それを気に入るオーディエンスが反応してくれる。彼らが自分にとって最高のオーディエンスなんだ。自分の内にある本当の創造性に反応してくれたのだから。