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Sound City -Real to Reel 時代の音楽を映すドキュメンタリー映画

このドキュメンタリー映画の事はダグ・アルドリッチインタビューを読んでいた時に知りました。ダグがライオンの2ndアルバムをレコーディングしたスタジオだそうで、映画のことを熱く語っていました。週末にBSで放送があり、やっと見ることができましたので、その感想です。

ロスで長年、様々なアーティストのレコーディングに使われてきたスタジオ、Sound City。スタジオの核となる24トラックのコンソールは長年に渡って音楽史に残る名盤のレコーディングを果たしてきたものの、デジタル化の波に取り残されたスタジオは経営難の末、終にはクローズされてしまう。

ニルヴァーナ時代にSound Cityでレコーディングしたフーファイターズのデイヴ・グロールはその歴史的コンソールを買い取り、自身のスタジオに設置する。これは使うことに意義がある、これで音楽を作りたい、というデイヴは様々なアーティストに声をかけ、2インチのテープをまわし、スタジオでレコーディングを開始する。

映画はSound Cityの生い立ちから全盛期、衰退までをそこに関わったアーティスト、関係者の証言でたどり、スタジオの歴史のみならず、音楽シーンや音楽制作手法の時代変遷を描いていく。

スタジオでの生演奏がテープに録音・編集されていく時代から、CDの登場による音楽のデジタル化、ドラムマシーンやシンセサイザーなどの登場による変化、遂にはプロ・ツールの登場による音楽制作そのものの変化についての証言は興味深かった。

特に印象深かったのは、プロ・ツールがあれば後でいくらでも編集ができるので、スタジオで真剣に決断をしなくなったという証言。編集の自由度が高いということは確かに何でもできて、最高のものが出来そうだけど、物理的な制約の中で、その瞬間の最高の音を真剣に取捨選択するという行為の方がより高い集中力を必要とし、人間のより高い能力を引き出すこともあるのかも知れない。

ミュージシャンにとっても、楽器演奏の腕前を磨くことの重要性が薄れたり、他のミュージシャンとの演奏によって、その場で生まれ、磨かれる楽曲製作の過程が失われつつあるのかも。今の産業的なミュージックシーンに対して、生でリアルな音楽の存在をデイヴは訴えたかったのだと思う。

音楽の消費者の立場で考えると、デジタル化で便利にはなったけれど、今の時代にはないものが、かつてはあったと思う。
音楽の情報はラジオと雑誌で集めて、お小遣いを貯めて、どのレコードを買おうかと真剣に考えた。今ではネットでいつでも視聴して、好きな曲だけをダウンロードできちゃう。レコードの帯に目をとおし、アートワークをじっくり見て、ライナーノーツを隅から隅まで真剣に読み、わくわくしながらレコードの針を落とすという体験を今の子供たちは知らないんだよね。便利になって失ったものはやっぱりあるんだと思う。

映画の中で、産業ロックの代表としてホワイトスネイクの'1987 Whitesnake'が取り上げられているのはファンとして若干複雑ではありました。とはいえ、映画後半のスタジオ606(デイヴのスタジオ)でのレコーディング風景は音楽ファンとしてワクワクできます。特に元ニルヴァーナの面々とポール・マッカートニーのレコーディング風景はファンタスティック!サントラが出ているのでキェックしようかな。

スタジオのコンソールを買うことにとどまらず、それを使ってレコードを作っちゃうだけにとどまらず、ドキュメンタリー映画を作って初監督してしまったデイヴには恐れ入りました。ノスタルジーに浸るだけでなく、古いものを使って新たな音楽を作ったところが映画の後味の良さなんだと思う。音楽ファンは必見のドキュメンタリー。

追加情報:
1月27日(日本時間)に行われたグラミー賞授賞式で、Sound City のサントラはBest Compilation Soundtrack for Visual Media を、その中のポール・マッカートニーが参加した1曲 'Cut Me Some Slack' はBest Rock Songを受賞しました!
デイヴ・グロールには本当に恐れ入ります。