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キップ・ウインガー Better Days Comin' 全曲解説

WINGERのキップ・ウインガーがニューアルバム"Better Days Comin'"の全曲解説を複数のメディア(こちらこちら)で答えていましたので、その内容をまとめて和訳してみました。一読して感じたのは、キップが70年代ロックの影響を色濃く受けていること。これでアルバムへの理解がぐんと深くなりました。最後にはインタビューから1つだけQ&Aを紹介します。

イタリック文字は私のコメントですので時間がありましたら読んでみてください。

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1. Midnight Driver Of A Love Machine

これはこのアルバムで最初に書いた曲だ。イントロのサウンド・エフェクトはKISSのアルバム「地獄の軍団」("Destroyer")と(そのプロデューサー)ボブ・エズリンへのオマージュだ。俺のお気に入りの一つさ。実はボブにこれを聞いてもらったんだけど、凄く気に入ってくれたよ。
曲は俺が書いた変な2音から始まったんだ。そこへレブがリフを書いた。歌詞のアイデアが思い浮かばなかったから、元Kixのドニー・パーネルに書いてもらったよ。この曲はアルバムのオープニングになるって書いてるときからはっきり分かってた。

車のエンジン音とカーラジオから流れる曲(ここでは前作"Karma"から"Deal With The Devil")を聞いた時、私が真っ先に思い浮かべたのはKISSの"Detroit Rock City"でした。キップの意図はしっかり伝わりましたよ!
オマージュと言えば、アルバムのアートワークはQUEENの"A Night At The Opera"のイメージでデザイナーさんにお願いしたら、ああなったそう。白い背景、バンドロゴ、アルバムタイトルのフォントまで分かりやす過ぎるほどそのまんま!(笑)

2. Queen Babylon

"Blind Revolution Mad"をもっとダーティーにした感じの曲かな。多分、アルバムの中で一番クールなリフだと思う。
行き詰ってた作曲中に苛立ったレブが「この曲はサイテーだ。こんな感じの曲が要るんだよ!」って最初から最後までリフを一気に演奏したんだ。俺はもう、「それ最高だ!」って感じで、この曲が出来たんだ。
アレンジを仕上げるのが大変だったよ。特にギターがコーラスに入るところなんか。全部を上手くまとめるのに凄く時間がかかった。ギターソロではワウを効かせて「語らせ」たんだ。

これを読んでからリフとギターソロを何度も繰り返し聞きました。ダーク&ヘヴィなリフがとにかくカッコイイ!そしてギターソロ。リフにかぶさってくるワウの効いたギター。このあたりのクール&ヘヴィネスはこれぞレブ!キップのボーカルも秀逸です。

3. Rat Race

俺たちがこんなに速い曲をやるのは珍しい。俺は「ダン ダダ ダン ダダ」って曲をやるのは好きじゃないんだけど、これはリフがクールだし、こんなのを弾き倒すのは楽しかったよ。これはもちろんレブのお得意さ。俺は速くてヘヴィなところ、ドニー・パーネルの書いた歌詞が気に入ってる。歌ってると気持ちいいんだ。
ギター・ハーモニーのソロとディープ・パープルっぽいヴァイブがあって、俺たちの持ち歌にいい曲が加わったよ。俺はアルバム最初の少なくとも3曲はヘヴィなロックにしたかったんだ。

確かに、バンド史上最速の曲ではないでしょうか。レブは速弾き得意ですけど、バンドの曲自体がこんなに速いのは今までになかった。スピード感とギター・ハーモニーのソロによって、バンドのライブ曲としても定番化しそうです。

4. Better Days Comin'

この曲は"Down Incognito"に対するアンサー・ソングだ。アルバムにはヘヴィでシリアスな曲が多かったから、何か気分が晴れる楽しい曲が欲しかったんだ。
正直に言うと、ちょっとした皮肉でもあるんだ。この世には最低な事が沢山ある、でもいい加減、何かは変わらなくちゃ。そんな気持ちから作って、たったの1日で仕上がった。
"there's a sign of a better days comin'"って曲の最初のメロディと歌詞が俺の口をついて出てきたんだ。それで、結構いいタイトルだなって思ったのさ。この曲では'70年代のヴァイブを出そうとした。いかにもストーナー・ロックさ。

バンドにとって新しいタイプの曲。そんな曲が今でも作れちゃうところがこのバンドの素敵なところ。今回のアルバムでは彼らの音楽性の幅広さを見せてくれましたが、この曲が最も幅を広げたサウンドだなぁと思います。楽しげなコーラスが耳に残って、つい口ずさみたくなっちゃう。キップのスラッピング・ベースが聞けちゃうところもマル。
日本版ボーナストラックのアレンジではキップの12弦アコギでイントロが始まっていたり、キップの飼い犬ZIGGYの吠え声も入っていて、こちらの方が好きだったりします。(ZIGGYカワイイ!)

5. Tin Soldier

意識的にプログレ曲を書いた。アルバム"IV"を思い起こさせるような曲をね。俺たちは気に入っているけど、"IV"はオーディエンスに受け入れられなかったアルバムだ。でも短くて簡潔な曲ならいいんじゃないかと思って。
俺がキーボードのオープニング・パートを4拍子で書いたら、レブは上昇するギター・パートを5/4拍子で演奏し始めたんだ。うまいこと俺たちは既にポリリズムになってた訳だ。そこでヘヴィなギターで高音のメロディを4回繰り返してみたら、何だかクールだぞって感じてきた。それからセクションに別れて作業した。十分進んだところで、別のセクションをアレンジし始めた。俺たちはコーラスでは違うメロディを歌って、ヴァースでは少しジャムを入れ、バンドのミュージシャンシップを際立たせた。
ヴァースのメロディを歌ってる時に俺の頭に聞こえてくるのはキング・クリムゾンのアルバム"Discipline"に入ってる"Matte Kudasai"だったよ。

アルバム中で一番のお気に入り。"IV"については自信作だったのに売れなかった悔しさがキップの中にあるのでしょう。やりたい事は同じだけど、もっと短く簡潔にしてみようということだったんですね。私は中盤のジャムでワクワクします。もう少し長かったらいいのに!

6. Ever Wonder

俺はよくキーボードの前に座って口ずさみながらトップ・ラインのメロディとそのベース音から書いていく。この曲も"Better Days Comin'"もそうして出来た。俺が最初に思いついたのは"Ever wonder who you are"で、レコードと同じメロディさ。で、いいタイトルだなと思ったんだ。それで、元のアイデアから離れすぎないようにしながら創り出したんだ。
主題から逸れないようにしながら新鮮な感じを加えるため、ソロとか複数の箇所で転調を使った。
歌詞は最も愛する人への裏切りについて。俺は曲の響きの世界観に合った歌にしたかったんだ。上手くいったと思うし、素晴らしいギターソロも入ってる。

作曲はキップ1人だな、と分かる曲。キップのソロアルバム"From The Moon To The Sun"に入っていてもおかしくない曲です。バンドのバラード曲にしては今までよりちょっとダークだけれど、シリアスな世界観があると感じます。

7. So Long China

これはレブと俺で作り始めて、ジョンと俺で完成させた曲だ。レブと俺で8曲くらい作ってから、完成しなかったリフをジョンに送ったんだ。で、ジョンがその中のいくつかから完成させた。ジョンと俺は、レブと俺がいつもするのと同じように膝を突き合わせて座ってこの曲を完成させたんだ。曲の中盤はSugarloafの"Green-eyed Lady"を思わせるよね。
曲のタイトルは製作1日目から俺の頭の中にあったんだ。曲の中ほどの転調は、このアルバムの中で俺のお気に入りの一つ。この曲はレブのお気に入りでもあるんだ。

当初は好みでない曲だったのですが、何回か聴くうちに頭に残る、自然に口ずさみたくなる曲。キップの言うとおり、曲の中ほどの転調はカッコイイ。他のインタビューでキップが言ってましたが、さよならを言っている相手は国でなくて、女性の名前だそうです。

8. Storm In Me

これもレブと俺で完成できなかったリフの一つ。ジョンと俺は"So Long China"と同じやり方で完成させた。人間の二重人格性を戒める内容で、俺の二面的な人格も現れてるよ。(笑)短い時間で凄く幅広い感情表現のある音楽だ。この曲は多くの人が共感できると思うよ。ソロはジョンがプレイした。

アルバムの中で一番好きなリフ。絶対にレブ作だと思っていたけど、レブ+ジョン作だったんだ。ヘヴィなリフが超クール。Winger史上でもかなりヘヴィな曲ではないでしょうか。誰かがレビューでコーラスが酷いと言ってましたが、レブがたっぷり歌ってるコーラス、ディストーションが効いてて曲の世界観に合ってていいじゃないか!

9. Be Who You Are Now

これはジョンと俺が一から作った曲。ジョンがリフを思いついて、俺はメロディを書いた。アレンジには結構な時間がかかった。明らかにビートルズのヴァイブがある曲だ。少しサイケっぽいサウンドで俺のソロ作品ぽい要素も入っている。スパイシーなヴァイブがあって、このアルバムにいい曲を加えられたと思う。歌詞は友人のマーク・ハドソンに手伝ってもらった。ソロはジョンがプレイした。

この曲はあまり好きでなかったりする。多分レブが作曲に参加していないせいだと思う。(レブ+キップの黄金コンビがバンドソングのキーだと頭が固まっているからかも・・・)

10. Another Beautiful Day

紛争地帯で育つ人々についての強烈な曲だ。多くの人は(安全に普通の生活ができて)どんなに幸運に恵まれているか分かっていない。俺たちは戦争地域に暮らさざるをえず、必死に生活しようとしている人々に向かって大声でこれを叫びたかったんだ。

キップの解説でやっと曲の意図が分かりました。キップのヴォーカルがかっこいい曲です。

11. Out Of This World

これは俺のお気に入りの一つ。作曲の段階から俺とレブはこれだとピンときてた。アルバムの中でもキーとなる曲さ。メイン・リフには興奮しているんだ。いつもの俺たちとは違うから。ビッグなコーラスとレブ最高のギタープレイの瞬間の一つだね。型に囚われないアレンジで最後の長いインストパートがぴったりハマってる。これはクラシックなWingerらしさが溢れる一方でミックスには新しいアイデアを盛り込んだ。

私もこれはお気に入り。前作"Karma"の"Witness"もラストに長~いギターソロがありましたが、これもそう。レブのギターが素晴らしいの一言。

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Kip Winger インタビュー:
あなたのキャリアで一番の後悔は何ですか?

NYのロフトを売ったことかなぁ(笑)バンドのキャリアについては何もない。まぁ、2ndアルバムのミックスをやり直したかったな。あれは俺にとってポップ過ぎるんだ。俺はあまり過去のことを気にしない。いろいろと失敗は繰り返してきたけど、誰だってそうだろ?

"Better Days Comin'" を聴き終えて思うのは、WINGERというバンドサウンドの完全網羅版カタログの完成なのではないか、ということ。彼らの音楽的ルーツ、楽曲のヴァラエティ、光るリフ、作曲・構成力、高度な演奏力といった要素が全て反映されている。

ヒットした1st、2ndは今の彼らにとっては少々ポップだという思いがある。3rdは彼ら思いどおりの楽曲に重点を置いたヘヴィ・ロックで、再結成して製作した4thは凝りすぎてダークになった。そこで肩の力を抜いて思い切りストレート・ヘヴィにロックした5thは反響が良かった。というアルバム製作を経て、6thは今の彼らの要素を全て反映させたということなのでは。聴き応えたっぷりで、すっかりヘヴィロテのアルバムです。