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アンディ・ティモンズ vol.1 「微妙なニュアンスにこそ感情表現の全てが宿っているんだ」

アンディ・ティモンズがニューアルバム "Theme From A Perfect World" についてメディアの取材に応えました。アンディはアルバム発売に合わせていくつか取材を受けていますが、これが一番ディープで長いインタビューだと思います。アルバム曲について、レコーディング機材やプロダクションについて、アンディの熱い語りの概要を和訳しました。とても長いので2週に分けて掲載します。

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"Ascension" はもう曲が出来てから数年になりますね。

そうだね、Andy Timmons Band の最後のアルバムは Sgt Pepper だったから。でもそのアルバムとこのニューアルバムは同じセッションから始まったんだ。2009年か2010年のダラスで、この "Theme From A Perfect World" のアルバム製作を始めたところだったんだ。

セッションが終わるとエンジニアが「あと2日なら時間があるから、他に何か録音したいものはある?」と。それでドラマーのミッチ・マリンは僕がビートルズのアレンジを趣味でやっているのを聞いていたから「よし、じゃあ、あれをレコーディングしよう」って言ったのさ。

それで僕らは2日間で Sgt Pepper アルバムのベーシックトラックをレコーディングしてしまったんだ。それであっちのアルバムを先にすることにしたから、このアルバムに取り組むのに6年かかってしまったんだ。(笑)

他の新曲についてはどうですか?

"Sanctuary" は仲の良い友達のジョージ・ファラーとメイリー・トーマスのために書いた曲だ。彼らはここテキサスのマッケニーでギター・サンクチュアリーというミュージックストアをやっていて、彼らへのギフトとして書いた曲だよ。

"On Your Way Sweet Soul" "That Day Came" はどちらも猫のことを書いた曲だ。"That Day Came" は僕と妻が飼っていたクッキーフェイスという猫の死を書いたんだ。ペットを飼っていると強い結びつきと家族愛が生まれるよね、僕らの息子、今では12歳になるけれど、息子が生まれる前に3匹の猫を飼っていたんだ。「この子たちがいなくなってしまう日が来るなんて考えられない」と言っていたんだけど、その日が来たのさ。

僕の人生では強く感情を揺さぶられ、自然と自分の中に音楽が湧き上がってきたことが何度もあるんだ。もちろん楽しい幸せな状況で書いたものもあれば、いくつかの曲はカタルシスとなって僕の感情を吐露したものなんだ。

"On Your Way Sweet Soul" は長年の友人の猫が死んでしまい、彼女がどれほど辛いか知っていたからその慰めに書いた曲なんだ。ちょっとしたデモを作って彼女にあげたら猫のお葬式で使ったそうだ。何年も前の話だけど、その後曲を聞き返してみたらとてもいい曲だからレコーディングしようと思ったのさ。とても気に入っているよ。

贈り物として曲を書いているのですか?

ああ、これまで何年にもわたって曲を書いてプレゼントしてきた。その多くは受け取った人しか聞いていないものだよ。僕は曲を書いてプレゼントするのが好きなんだ。だって何でも持っている友人に何をあげたらいいんだい?他では手に入らないアートを創ってあげる、そうするのに音楽はとてもいいのさ。

僕は大学の頃、お金がなくて家族にプレゼントが買えなかったから、音楽を小さなカセットに録音して贈っていたんだ。アルバム "Ear X-Tacy" に収録された "There Are No Words" という曲は家族へのクリスマスプレゼントだったんだ。このクレイジーな音楽ビジネスの世界でミュージシャンになろうともがいている自分を愛し、支えてくれた家族のことを考えながら書いたものだよ。

この後、"The Next Voice You Hear" についてもアンディが話していますが、これについてはこちらで詳しい記事がでていますので割愛しました。

そのような個人的な出来事について書いた曲というのがこのアルバムのテーマなのでしょうか?

ただ音楽として気に入って書いた曲もあるよ。"Ascension" はタイトルの前に曲が出来ていた。ただ僕が気に入って皆も気に入るといいなと思いながら出来た曲で特に意図したものはない。でもそうだね、曲によっては個人的感情があって、演奏やメロディにおいてそれが現れている。それこそが僕が最も誇りに思っていることでもあるんだ。バンドと僕自身の作曲の成長を感じるよ。

インストギター音楽のジャンルというのは自己満足に陥り易いんだ。演奏テクニックを見せ付けることに意識がいってしまい、作曲そのものの素晴らしさや、皆に何度も聞いてもらえるような楽しませる演奏というところからすっかり遠のいてしまったりするんだ。

僕が思うに何よりもまずアルバムにとても良い曲がいくつかあることが大切だ。そうすれば僕には1988年から一緒にやっているベースプレイヤーのマイク・デーンがいるから、彼のタイムには満足している。彼のバンドでの役割はとても大きくなったんだ。彼はいつもバンドの音楽に重要な影響を与えてきたけれど、今ではアルバムのエンジニアをやってプロデュースもしているんだ。

彼は共同プロデュースだって言うだろうけど、彼がメインプロデューサーだと思うんだ。経験を積んで、自分と全く違う考えでも、良い人に囲まれ、そのアドバイスに耳を傾けることで物事がより良くなるということを心得ることが成長なのかもね。

「これをやってみろよ」という風にマイクは僕を心地よい領域から引っ張り出して、僕が考えるベストの方法とは真逆のことを試させるのさ。そうすることでさらに良い成果をもたらしてくれる。

だからこのアルバムでのクリエイティブ面での方向性についてはマイクに大きく感謝している。作曲とメロディ・アプローチは殆どが僕だけど、形式的なところを整えたのは彼でそれは大きな功績だ。彼は画期的なベースプレイをしているし、そんなクリエイティブな心境で、僕らはこれまでの中でコンビとして最高の仕事ができているんだ。もっともっといいものが創れるって確信しているからとても興奮しているよ。

"Lift Us Up (Something Wicked This Way Comes)" はどうですか?

心躍る、楽天的なテーマだよね。元のテーマとメロディはもう何年も僕の中にあったけれどいくつかの理由で完成させられなかったんだ。僕らは欧州、特にスペインとイタリアではよく演奏するんだ。オーディエンスがライブにとても興奮したとき、曲と曲の間で彼らが声を上げ始めるんだ。サッカーの試合で聞くような唄だよ、わかるかい。それでこの曲ではオーディエンスが唄いたくなったらどんな風かを想像したんだ。

でも曲の補足部分が、気に入っているリフがあったのだけど、それは強力で、トッド・ラングレンや Raspberries みたいな70年代のポップス風で、これはいいと思った。でもその後はどうしたらいいか分からなかったんだ。それなのにスタジオに入ってドラムもベースもキメてくれた、そこで僕は曲の次のパートを書いたのさ。

たしか、ちょうどデヴィッド・ボウイが亡くなったところで、僕は特にZiggy時代の大ファンだったんだ。だからそのパートはちょっとZiggyアルバムのフレイバーが入ってる感じだね。そしてスタジオでは、「さあ、なんとかエンディングを考え出さなきゃ」って状況で、僕の頭にはこれで曲を終えたいって思っているコードが2つあったんだ。でもドラマーのロブがロックした高揚感のある感じの代わりにやってみせたグルーヴがとてもダークな感じになったんだ。

僕は明るい感じにしたかったんだけど、今のこの時代には楽観的過ぎるんじゃないかと思えてきて落ち込んでしまった。だって、世界で起こっていることを現実的に見ると、考えなくちゃいけないことが沢山ある。だから、この曲は世界やアメリカの状況や実際に起こっていることを象徴しているんじゃないかと思えてきたんだ。この曲は楽観的な曲だけどエンディングに少しばかりの現実が投げかけられるのさ。

ギタリストとしては、僕はミック・ロンソンを頭に描いているんだ。ミックはボウイの Ziggy Stardust 時代の素晴らしいギタープレイヤーだ。彼はシンプルな演奏の中にも素晴らしいサウンドとトーンを持っていて、時には感情的なプレイをみせていた。

(ベーシスト/共同プロデューサーの)マイクと僕とで背景音に楽しい創造のカオスをやったんだ。叫んでいるような音は僕なんだ。僕のペダルボードは大きくて、10個くらいのエフェクターが載っているんだけど、その全部をオンにして、そうするととんでもないノイズがするんだ。それに加えてワウペダル、ギターを何も触らなくても凄いノイズさ。僕がノイズの中でワウペダルを踏んでいるんだよ、拷問のような音さ(笑)

ニューアルバムでは主にどのギターを使ったのですか?

前の2作よりずっと沢山のギターを使ったよ。僕のメインギターは僕のシグナチャーギターの Ibanez AT-100 の94年製プロトタイプだ。でも他に沢山の楽器を使ってる。ヴィンテージのストラト、12弦のRickenbacker に、Ibanez AS-50 という Gibson 335 タイプのギター、それから68年製のテレキャスターも。

それぞれの曲にどのギターが一番いい音かを見極めたんだ。僕にアイデアがあるとすると、マイクが「じゃぁ、これを試そう」って言うんだ。彼はギターコレクションを持っているからね。それで僕らは僕の持ってる少しのギターも加えて、シンガーを選ぶみたいにオーディションをしたのさ。

多くの場合は僕のメインギターだったけど、"On Your Way Sweet Soul" は60年製ストラトだし、"Winterland" "That Day Came" では65年製ストラトなんだ。僕は自分のメインギターが好きだけど、時にはヴィンテージサウンドの方が良かったりしたんだ。

なぜインスト曲を作る方があなたにとって魅力的なんでしょう?

僕は歌詞ありの曲も作るんだよ。でも僕は一般的にギターインストで知られているよね。これは歌詞を書くのが好きじゃないって意味じゃなくて、だって僕は歌詞を書くのが好きだから。僕が思うに、音楽は言葉を超越することができるからだと思う。

僕らの言語はとても限られていて、特定の考えや感情を表すのに言葉を組み合わせて使う。音楽、特にギターではもっとずっと深いところまで到達できるんだ。今のところ僕らは人の感情に触れるという可能性のまだまだ表面を引っ掻いているに過ぎないんだ。

ジェフ・ベックパット・メセニーといった僕のギターヒーローたちはギターでの感情表現に関してずっと奥まで到達していると思う、それが僕にとっての目標だね。僕はオーディエンスに対してはっきりと曲の意味を表さない曲を作るのが好きなんだ。彼らは僕のインスピレーションは知っているかも知れなくともね。

"That Day Came" は僕にとっては愛猫の死の曲だ、でも皆にもあてはまる曲だよね、だって命には限りがあるんだから。君の父や母のことかもしれない。僕は前作のアルバムからこのアルバムの間に母と弟を亡くした。僕らは愛する人たちの死を受け入れなくちゃいけない、これが命で人生の必然なんだ。僕が込めた意味があって、オーディエンスがそれぞれの解釈をしてくれるのは好きだよ。

ブライアン・ウィルソンとカール・ウィルソンの Beach Boys 創設者の話で、ブライアンが作曲した "In My Room" "God Only Knows" といったディープで感情的なバラード曲について、確かカールが言っていたんだ。

「この曲は人々に感情と向き合う安全な場所を提供する。もしハッピーな曲なら元気が出るし、悲しい曲なら気持ちのままに泣けるように」とね。人々の感情に共鳴する曲を世に出すことは素晴らしいことだよ。だから僕の作曲と演奏に関してはそれがテーマでありゴールなんだ。

僕とマイクはこのアルバムでプロダクション的には出来る限りオーガニックにデジタルでないように努めたんだ。たとえ結果的にはMP3になって誰かのヘッドホンで聞かれることになるとしてもね。確かに60年代や70年代のレコードのようなサウンドになったよ。

どうやったのですか?

僕らは全ての段階でオリジナルの機器を使ったんだ。これは僕らの信条のようになっていた。ラウドにはしたくなかったし、圧縮しすぎるのも嫌だった。このアルバムのWavファイルを見ると、古い音楽のように、山や谷がいくつも姿を見せているし、それは圧縮され過ぎていないが音量がある証拠さ。

このアルバムは他のアルバムに比べて音量は低めだけど、それは僕らがこのアルバムに込めた音楽の細部が持つダイナミクスや親密さを維持するためのことなんだ。特にギターに関してね。微妙なニュアンスにこそ感情表現の全てが宿っているんだ。もし平準化され圧縮されていたら、その感情は消えてしまう。それではとても人々の感情に触れることなんてできない。だから僕らはそれを守るためにあらゆる闘いをして、結果的にいい仕事ができたと思う。