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ジョエル・ホークストラ 「生まれつきの才能なんて、僕にはそんなものはなかった」

Whitesnake のジョエル・ホークストラがメディアのインタビューに応えました。ギタリスト向けの番組のため、機材やプレイに関する話がメインになっており、興味深かったのでインタビューの一部を和訳してみました。

機材まわりの訳は私にとってチャレンジ。機材好きの方に楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。(汗)
後半では苦労人ジョエルのキャリアトークが。ミュージシャンとして世に出る前に音楽シーンが激変し、苦労を重ねた彼の話は実に興味深いです。

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(Gibson) Les Paulになぜ惹かれたのですか?

僕が Les Paul に辿り着くには本当に長くかかったんだよ。僕がギターを始めた頃はフロイドローズ時代だったからね。両親が僕に初めて買ってくれたエレキギターGibson SG ぽい Westone のものだった。その次に使ったのが Kramer Baretta で、それではシュレッドしまくったよ。PUはシングルのEMGでさ。

その後はブレット・ガースド(訳者注:ジョエルがティーンの頃のギター教師はT.J.ヘルメリッチだったことから、彼の紹介でブレッドと交流があったそう)から買った Jackson のフィル・コリン・モデルさ。彼は当時既にロック・スターで Nelson でプレイしてた。そうやって僕はフロイドローズのギターでプレイしていたのさ。

でも僕が沢山ギグをやっていた90年代当時のシカゴではブルースやアメリカーナ(カントリーやアメリカン・ルーツ音源を感じさせる音楽の総称)が中心で、Telecaster や Stratocaster を弾くのがカッコよかったんだ。だから僕が Les Paul を手に取るまでには長くかかった。でも一度手に取ったら、どうしてこんなに時間がかかったんだろうという感じだね、最高だよ。

もうずっと長いこと Les Paul と時を過ごしてきたから、あのフィールがたまらなく好きなんだよ。テクニックの面では妥協することもあるけれど。ネックの薄いギターがとんでもなく売れているけれど、そうじゃなくて…

分かります。あの重さとしっかりした木の厚みですよね。

そうさ。 Les Paul を使ってからシュレッダー・タイプのギターを弾くとそう思うね。まず第1に、これぞあるべきギターのサウンドだ。皆はどれだけ速く弾けるか、スムースかというところに注目して、Aコードの響きはどうかってことは見落としがちだ。でもそれこそがロックバンドで弾くのなら重要なことだよ。

あなたはスタジオ・ワークもライブも沢山やっていますが、どちらが好きですか?

どちらも同じくらい刺激的だよ。ただ全く異なる気持ちで臨むね。例えば、何かをレコーディングしているときや、何か凄くインスピレーションが湧いて制作に取り組んでいるときは、休憩を取って食事したりすることも忘れて12時間ずっとやってしまって、後から気付くことがある。まぁ、パフォーマンスも同じなんだけど、どちらかと言うと、スタジオの方が不安を感じなくて済むから精神的に楽だね。僕は今でもステージでのパフォーマンスでは緊張や不安な気持ちを克服しなくてはならないんだ。

ギター・レコーディングについて、初心者向けにコツを教えてください。

今の時代は色々な方法があるよね。でもまぁ言えることは良いダイレクト・レコーディング・ユニットを使うことと、良いサウンドのギターを使って、シンプルな設定で録音することさ。ギターは中音域の楽器であることを理解すること。多くの人はトレブルやベースを上げすぎるんだけど、重要なことはバンドと音を合わせることだ。だから高音域も低音域も落ちることを考えないと。

おすすめのマイクはSM57だよ。そして僕の選ぶスピーカーは Celestion Greenback 25W だね。マイクはボイスコイルの半分くらいの位置に。そうすると明るいトーンと暖かいトーンのミックスが録れる。ストレート・キャビネットの方が大抵はスラント・キャビネットよりも良いんだ。キャビネットの奥行がある方が自然な低音域が得られる。

そしてビッグなブランドにはそれなりの理由がある。Marshall アンプがビッグなのは音がいいからさ。歴史があるのも、Gibson Les Paul と同じさ。Les Paul を Marshall に繋げばゴキゲンな音がする。もしくは良いダイレクト・レコーディング・ユニットを使うことさ。今ではそれで色んなことができるからね。

Kemper についてはどう思いますか?

僕は殆ど試したことがないんだよ、でも良いって話は聞いてるからもっと試してみたいね。僕は Fractal の経験が長いんだ。Rock of Ages でも、TSO でも使ったし、最近は Cher でも使い始めたんだ。Fractal は毎年改良されていくし、初心者にはこっちの方がいいんじゃないかな。でも学習という意味では、さっき説明した本物のアンプにマイクを立てるレコーディングも経験するといいと思う。

その場合にはアンプの種類にもよるけれど、アンプのセッティングはトレブルは1か2だ。ミドルは普通7~8、ベースは使用ギターの種類にもよるけど、3か4だ。でも Les Paul は低音域が大きい。そして人が聴いて認識するのは中音域が多い。アンプっていうのは人が膝をついてプレイしたときに良い音に聞こえるよう設計されていると思うんだ。

楽器販売店なんかで、Marshall の音をチェックしている人を見てると、彼らは立ってプレイしながらキャビネットを上から覗き込みながら聴いているんだ。座って弾いていても、まだキャビネットの上から聴いているんだよ。つまり、本来の高音域を捨ててしまっているのさ。Marshall ヘッドを4X12のキャビネットに繋いで、本当のサウンドを聴くには頭をスピーカーの前に降ろしてないと。まぁ、今どきは素晴らしいマイク調整システムがあるから何だってできるけどね。

Img_1588ツアーでの機材面のアドバイスはありますか?

シンプルにすること。僕はレブ・ビーチの代役で Night Ranger のギグをやったのだけど、25曲くらいを急いで覚えて、リハーサル無しで臨んだんだ。オリジナルではジェフ・ワトソンがフェイザーとかのエフェクトを使っている曲があるよね、それで僕は沢山のエフェクター・ペダルを持って行ったんだ。ジェフのアルバム・サウンドの細かいところをできるだけ再現しようとして。

サウンドチェックに現れたブラッド・ギルズに言われたよ、「ワォ!こりゃあ俺も大量のペダルを買ってこなきゃならないな。(笑)いいか、物を沢山使うとそれだけトラブルが発生する確率も上がる。ツアーには飛行機移動もあるんだから、できるだけシンプルにすることが肝だ」とね。全く彼の言うことは正しかったよ。僕にとってはいい勉強になった。だってその曲の8小節目にフェイザーのエフェクトがあるかどうか、オーディエンスは気にする訳じゃない。大切なのはライブのプレゼンテーションやエネルギーだ。

それよりも気にするべきは、電源やパッチケーブルだ。そこに問題があればペダルが使えない。だからできるだけシンプルにすること。それにそういった物はトーンを食ってしまう。ケーブルはできるだけ短くしてアンプに繋いだ方がいい。ステージでの動きもあるから僕はワイヤレスを使う。ダイレクトにアンプヘッドに繋げば最高のサウンドだ。

ここで2つ質問です。既に確立されたバンドでプレイする場合のアプローチを教えてください。それから、多くの曲を短時間に覚えるにはどうやるのですか?

うーん、そうだな、そのギグに対して献身的に取り組むこと。僕は相当な準備をする。助っ人の例では Foreigner のミック・ジョーンズの代役をショウの24時間前に引き受けたことがある。(訳者注:Night Ranger が前座を務めていたツアーで、ジョエルは前座のライブをプレイして、その後の Foreigner のライブでもプレイした)それはもうパニックやら絶望やらの心境だったよ、全曲覚えて翌日には18,000人の前でプレイしなくちゃいけなかったんだから。

そこで僕は大きなポスターサイズの紙に曲の構成を書き込んだのさ。リフもセクションも覚えていたけれど、例えば "Cold As Ice" ではソロがちょっと変わったところで始まるんだ。そういうところで失敗したくないだろ?だから小節の繰り返しとかそういったことが分かるように曲の構成を書いたのさ。それ全部をポスターボードに重ねて、曲毎にスタッフにステージに持ってきてもらったのさ。24時間で覚えるんだからそうしなきゃならなかった。(笑)

Whitesnake の Purple Album でスタジオに入る時には、オリジナルのプレイを楽譜全部覚えて準備したし、自分としてのアイデアも用意してデヴィットに会った。僕はやり過ぎくらいの準備をする。最近の Cher のショウではバンドが退いてギターがソロプレイするシーンがあるのだけど、そこもひたすら練習したよ。ショウの流れとして違和感ないように、誰かが代役になったと気付かれないくらいに、1音漏らさず完璧にパートを覚えた。

多くの若いミュージシャンに訊かれるのですが、音楽学校についてはどう思いますか?

仕事を得るという意味では、行く・行かないは関係ないけれど、学ぶ時間と経験を得られる場所だね。僕にとってGITに通った経験は特別だ。僕が学校へ入ったのはインターネット時代の前だったから、世界がどうなっているのか知らなかった。

88年に高校を卒業した時には学校で2人のベスト・ギタープレイヤーに入っていても、GITで初めてのクラスに行くと500人のギタープレイヤーがいたんだ。皆が夢を持って来ているんだから、驚愕して目を見張ったよ。今ではYouTubeを見れば自分と同年代がどんなプレイをしているか分かるけれど、当時はそんな風じゃなかった。僕にとっては多くを学んだ魔法のような時間だった。

若いプレーヤーに対して言えることは、毎日を有意義に使うこと。世の中では生まれつきの才能が誇張され過ぎていると思うんだ。僕にはそんなものはなかった。自分のプレイが上手くないってことは十分な時間をかけて取り組んでいないってことさ、単純なことだ。自分に限界を作って、自分を犠牲者のように感じるのはおかしいよ。

それから他のプレイヤーを褒めることだね。若い頃はガードを作ってしまいがちだけど、上手い人に会ったら褒めて友達になり、そのプレイを学んで自分の刺激にするのさ。

若いギタープレイヤーに自分のユニークなサウンドを見つけるためのアドバイスをお願いします。

あー、そういうのは僕に訊く質問じゃないと思うんだ。僕がGITに入って、90年代がくると、グランジの時代がきて、ギターシーン全体が崩壊したんだ。僕は子供の頃 T.J.ヘルメリッチから8フィンガータッピングを学んだ。けれど(80年代のように)シュラプネルからデビューなんてことは僕には起こらなくて、完全に変わってしまった音楽シーンで食べていく為に僕はありとあらゆるプレイを学ばなくてはならなかった。

僕が言えることは、多くの経験をしたことで、僕は一歩下がって自分のプレイに特徴をつけられたのかなと思う。例えばジョージ・リンチは正にジョージ・リンチって音で、彼のプレイをするだろう。ところが僕は90年代にギターで食べていく為にありとあらゆるスタイルのプレイをして闘ってきたんだ。僕のプレイはジョージ・リンチのようには特徴のあるサウンドではないけれど、いつも落ち着く自分のプレイがあってそれがスタイルになり、僕と分かるのだと思う。

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80年代のギターヒーロー達が90年代の音楽シーンの変貌で苦労した話はあちこちで読みましたが、80年代のギター音楽を吸収して成長し、90年代にデビューしようとしていたジョエル世代の苦労も相当なものがあったようです。だからこそ、彼のプレイには音楽的な幅があり、人柄の謙虚さがあるのでしょう。

インタビュー音源の最後でジョエルはキップ・ウィンガーの物マネも披露しています。レブ直伝の為か、なかなか上手いです。(笑)