スティーブ・ヴァイが女性ギター雑誌のインタビューに応えました。インタビューが行われたのは Generation Axe のライブアルバムがリリースされる直前だったようです。30分予定のインタビューでしたが話がどんどん広がり2時間半に及んだそうで、深い説法が語られていました。
かなり長文ですので、分割して掲載していきます。Part 1ではヴァイ先生の性差に対する考えが語られており、私は益々ファンになりました。
なお、今日(現地時間1月17日)はNAMMショウ関連で盛り上がるアナハイム、カリフォルニアで She Rocks Awards が開催され、ロック界で活躍する女性たちが受賞しました。昨年はヴァイ先生がプレゼンターとして出席したイベントでしたね。
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『She Rocks』(11人の女性ギタリストが参加したコンピレーション・アルバム、ヴァイ先生のレーベルからリリースされている。記事末尾のリンク参照)のプロモーションについては現在の社会情勢を考えると慎重にならねばなりませんか?女性のギターアルバムですが、それを創ったのは男性です。後援者として目立つのは本意でないのでは?
ちっとも思わない。なぜなら私が人生で求めるものは心の平穏だからだ。そしてその平穏を手に入れる唯一の方法は自分の思考を分析したときだ。そのような類の分断を招く考えはやがて苦悩を招く。
性差ではなく、創造的才能によって人を見る方がずっと簡単だ。なぜなら人の魂には性差はない。真の我々は男でも女でもないのだ。これが私の物の見方であり、取り組み方だ。私にはこの方が心地良いのでね。
我々はここでいつまででも意見を述べ合い、あるべき論を語り合えるが、私はそういうことに関心がないのだよ。それによって分断が生まれることは私たちが向かうべきところではないからだ。そういった意見がある程度のレベルにおいては変革をもたらす為に重要であり、必要であることは理解している。
しかし誰かがやってきて「あなたが出したアルバムは女性が制作すべきだった。女性の権利と支援のアルバムなんだから」と言ったとしたら、私はその見解は尊重するが、全く同意はできないね。なぜなら、このアルバムのような作品に私が求めているものは、何よりもまず、主張すべきことがある人による人を刺激する音楽なんだ。それが第一だ。ではそれをまとめるのに適した人物は誰か?
ブラッド(元Guitar World 編集長でこのアルバムの企画をヴァイ先生に提案)との会話においてはただの一度としてこのプロモーションをどうやるのか、ムーブメントが起きているから懸念がある、などど思ったことはない。そうではなく、「よし、ムーブメントが起きている、我々はそれを尊重し貢献しよう」ということだ。
女性の優れたプロデューサーはいる。私はその多くと仕事をした経験がある。しかし、その仕事に対して最適の人材を探すんだ。我々は女性ギタリストのコンピレーション・アルバムを創りたかったのだ、その結果には満足している。我々がこうすべきだったと考える人に対して言えることはない。しかし、これは保証できる。このプロジェクトの創造性において妥協することなく、それら意見も出来得る限り尊重していたのだ。
誰にも意見はあるだろう。彼らへの返答としては、私は皆を愛しているということだ。本当にね。これは私が人生で授かった最大の恵みの1つなんだ。誰もがありのままの自分を受け入れられたいと望んでいる。君がそれを受け入れたなら、彼らにとって君は人生の恩恵となるのだよ。
しかし、もちろん多くの人が、ある事柄については私も含めて、分断されたエゴイスト的見解に囚われ、何事に対しても不満を述べるのだ。私の言うことなど構わないのだ。私が人間が好きだと言うと誰かがそれについて文句を言うのさ。
それで不安になってはいけない。なぜか?もし不安になり、侮辱されたと言うなら、君は自分の感じ方について自信がないということだ。
例えば、誰かに「ヴァイ、お前なんて全くのクソだ!インタビューを受けたから皆に受けたいと思ってそう言っているのだろう」と言われたとして、そうか、構わない。そのように思われてもいい。そんなことは全く私の気分を害することはない、なぜなら私には証明しようがない。私には自分の心情ははっきりわかっている。
あなたが初めて注目した女性ギタープレイヤーは誰でしたか?
ジェニファー・バッテン。彼女は他のプレイヤー同様に素晴らしかった。私がギター音楽を聴くとき、プレイヤーの指が男性だろうが女性だろうが構わないのだ。
私の耳に偏見はない。そしてジェニファーは全てを備えていた。クリエイティブで興味深くユニークなことをやっていた。彼女のハンマリング、テクニックは明らかに完成されており、凄腕ギタープレイヤーの役割をこなすのに適していた。
しかも彼女はそのテクニックを外見を含め、マイケル・ジャクソンとの仕事でシアトリカルなショウに活かす力があった。見事なパッケージがあった訳だ。そしてそれは多くの女性ギタープレイヤーに刺激を与え、やがてこのような(女性ギタリスト活躍のムーブメント)ことが起こるのを目撃するに至ったのだ。
私にとって1つのパラダイム・シフトだったのは、何年も前にオーストラリアでライブをやっていたときだ。会場に入ると、サポート・バンドの演奏が聴こえて、この上ないギター演奏だった。
「私より上手い人間を雇うなんて!」と思いながら近づくとステージにいたのはまだ幼い少女だった。それがオリアンティさ。彼女は多分14歳くらいで、バッキングトラックを掛けながら弾き倒していたのさ。
ライブの後で彼女と対面し、翌日にはご両親とも会った。それから4年間連絡を取っていた。彼女は私に曲を送ってきたものだし、私が音楽を送ったりもした。私は彼女がギアを得るのを手助けもした。彼女は明らかにインストギターの虫になってしまったようだ、多くの人と同様にね。彼女の成長を長年見守り、彼女が遂にアメリカへ移住して最初のレコード契約を手にしたのを見るのは実に自然な進化だと思ったよ。彼女は優れたプレーヤーで、頭の先から足の先まで完全なギタープレイヤーなのさ。
ジェニファーにしろ、オリアンティにしろ、あのアルバムでプレイする全員の好きなところの1つはこうなんだ。もし、私が男性と女性のエネルギーの違いを描くとすれば、なぜなら我々は皆これらのエネルギーの両方を備えていて、性別に分けられていないのだが、女性的エネルギーの性質として共感、忍耐、母性的姿勢がDNAにあり、一方には男性的エネルギー、つまり狩猟的、競争、探求といったものがある。我々は皆、これらの異なったバランスを持っている。それはどちらの性別の肉体を持っているかには関係なく、どんな性的嗜好をしていようとも関係がない。ただエネルギーなんだ。
女性エネルギーがエレキのロック・ギター演奏のクリエイティブなゾーンに入り始めると、男性がプレイしているときとは異なる次元に何かが流れ込むんだ。そこには何かがあって、私はそれを見るのが大好きなんだ。これからそれを目にする機会が増えるだろうし、女性がギターを手に取りプレイする自信が革新的に増してくるだろう。
あなたは70年代を過ごしていますから、ナンシー・ウィルソンには注目しませんでしたか?彼女を見て多くの若い女性が刺激を受けましたが、若い男性にはどうでしたか?
私は怠慢なタチでね。それを聞いて昔を思い出したよ。その当時の Heart については覚えていないけれど、ナンシーは凄かったね。彼女は強力な自信を備えていて、実にクールだ。ギタープレイヤーに見たいのはそれだからね。あの自信とサウンド、実に的を得ている。
Runaways はまた別ものだった。当時私が聴いていたレコードは、アル・ディ・メオラ、アラン・ホールズワースとジェフ・ベックらのギターヒーローだった。だから Runaways を聴いたとき、彼らのような一流のギタープレイヤーとリタ・フォードを同一の言語では見なさなかった。でも、もちろん私はあのエネルギーや全体のヴァイブを感じて興奮したよ。
Generation Axe の話題に戻りましょう。ライブのオーディエンスは各国によって違いますか?女性はボーイフレンドに連れてこられた人ばかりですか?
私のキャリアを通じて…まあ、デヴィッド・リー・ロスの時代にはオーディエンスの大多数は女性だったけれど、あれは80年代のロックシーンのものだ。私がソロツアーに出ると、こんな声が聞こえてくるのさ。「なあ、ボーイフレンドに連れてこられた子を後ろで見なかった?」
しかし、その状況は変わり始めた。なぜなら、ギタープレイが好きな女性はいる。そして時折、慣例に反して、ギターに完全に魅了され、私の音楽を好む人がいるのさ。
歳を重ねるにつれ、女性ギタープレイヤーを取り巻く状況は変化していて、より多くの女性が私のライブに来るようになった。地域によって聴衆の構成はもちろん違う。オランダや北ヨーロッパに行けば、女性の比率は上がる。
昔の南米では女性が聴衆にいることは稀だった。昔のことだ。ライブに来ていた若い男性ギタープレイヤーが歳を重ねると、彼女ができて、カップルで来るようになる。そして家族ができると子供を連れて来るようになる。やがて男女の構成比は曖昧になる。現在ではまだ男性が多いけれど、劇的に変化している。でも理解して欲しいのは、私の音楽には癖があるということさ。
Generation Axe ツアーに女性が参加することも将来にはあり得ますか?
私が最初にラインナップを考えたとき、リスト最初の4人は今ツアーをしている4人だ。私の5人目の選択はオリアンティだった。今のラインアップの1人がショウに出られない可能性がでたことがあって、彼女に連絡したんだよ。でも当時、彼女はリッチー・サンボラとアルバムを制作していて、ツアーはできなかった。でもいいのさ、別の人にも門戸を開いたことになるから。私が Generation Axe のラインナップを選ぶとき、それはプレイヤーの楽器への貢献度に基づくものになる。それだけだ。職務に相応しい人を探すのだよ。
私の最初のマネージャーだったルータ・セペティスは21年間私に尽くしてくれた。彼女が仕事を始めた頃、彼女はまだ若かったが、彼女は誰よりも優れたマネージャーだったよ。21年間、彼女が辞めた理由は、彼女が書いた小説「Between Shades of Gray」が大ヒットになり、小説家の道を歩むことになったからだ。彼女の全ての作品は素晴らしい成功を収めている。
私の会計士は皆女性だ。長年ずっと今日まで私の弁護士を勤める2人は女性だ。私は「女性を雇おう、なぜなら…」とは言わない。私は「腕利きの弁護士を雇いたい」と言う。「女性弁護士を雇っている」とか「女性マネージャーを雇っている」とは言わなかった。そういうことは考えないんだ。私はその人物との繋がりを見出そうとするのだ。
(Part 2 へ続く)