ニューアルバム『Inviolate』のプロモーションでヴァイ先生は大量のオンライン・インタビューに応えていますが、このインタビューは5つの質問に答える形式。
ニューアルバムの宣伝ゼロで、VAI説法の喋り倒しゾーンに入った先生が強烈です。(笑)とても示唆に富んだありがたい説法でしたので、以下に和訳してみました。
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1.お気に入りのギター
これは難しい質問だよ、我が子のうち誰が好きかというのと同じだからね。長年の間に、私が魅了される楽器というのは変わった。楽器により私が取り組んできたことがあるから。
長年の間、私の第1選択楽器はEVOだ。Ibanez Jem で、もう何十年も弾いている。ギターというのは弾き手の心の中で人格を形成するんだ。その人格と関係を築くのだよ。だから、楽器の持つ魅力というのは、外観や使用感ではなくて、感情的な繋がりかも知れない。
それで今はこの Onyx Black PIA だ。これは今私がちょっとギターを弾こうとすると常に手にしてしまうギターなんだ。これは第1個体なんだ。1本目が上手くいくこともあれば、そうじゃないこともある。出会っても二度と再会しないことがあるようにね。でもそのうちの幾らかの個体は強力であり続けるんだ。それがこれだ。
それに、もう1体をツアー用に受け取ったところさ。ツアー用の個体には違うセッティングをするからね。サステイナーを載せたり、他にちょっとしたことをする。このギターにはそういうのはない。(訳者注:画像ではサステイナーは載っています)
別のギターに全てをセットする。でもそれを手にとっても、何かを感じないんだ。思うに私はこの初号器と心を通わせつつあったんだ。だから、ツアー用のギターとも関係を築かないとね。
Jem は35年プレイしてきた私の愛するギターだし、更にJemをIbanez と発展させ続けるだろう。ただ、ほら背中にどこか痒いところがあるみたいに、何か新たなことを試す時が来たと思ったのさ。このデザインを思い付くまでは何年もの時間がかかったよ、私の込めた意味が形になっている。
(訳者注:ここからしばしPIAの説明に入りますが、過去に語られているので割愛)
2.無人島に持って行くアルバム
これは時と共に答えが変わるものだが、過去何十年も私の答えはトム・ウェイツの『Bone Machine』だよ、あれは素晴らしい。誰にでも惹きつけられるアーティストがいて理由はそれぞれなんだが、私にとってはトムがそうなんだ。
彼は頭の先から足の先まで宝のようなアーティストさ。私はどこへ行くにも彼の作品集を持って出かける。あのアルバムが最も私の共感するアルバムだね。選ぶのは難しいよ、どのトムのアルバムも、又はフランク・ザッパのアルバムでも無人島に持っていくなら満足できる。
でも『Bone Machine』は格別さ、傑作だからね。トムが捕らえた空気感は他の誰とも違うのさ。彼は経験からサウンドの配置をわかっている。奥行とその対極としての平行方向のことだ。だから彼のあのアルバムを聴くと、聴き手は捕えられ、あの空間の一部になるんだ。
それにあの歌詞ときたら!彼はあの宝石のように深遠な歌詞を、まるで吐き出すように歌う。美しいよ。そして彼が攻撃的に歌うときは、また異なるんだ、ロック・ミュージシャンのように、歌い方が激しくなる。あのアルバムは地が叫びながら死を迎えるようだ。アーティストの芸術的真正性として、無比のものなんだ。
3.ギターカルチャーで気に食わないこと
多くのギタープレイヤーが自分が何か間違っていると思っていること。もちろん全員じゃないけれど、どの道に進むのか混乱している。
「これをやったらいいのか?あの音楽をやった方が実入りがある?でもそれは本当にやりたいことじゃない。本当にやりたいことをすべき?でも失敗するかも」
これは「気に食わないこと」ではないけれど、私が不必要だと思うものなんだ。
多くのギタープレイヤーが混乱しているのは、「正しい道、間違った道」の考え方なんだ。そんなのは幻想に過ぎない。最善の道とは君のやり方で進むことだ。自分が不安で自信が無いというような感情に動かされたら、それに気付くこと。そして、ルールなどは無く、間違いなど存在しないのだと理解すること。
時間を無駄に使うことになるのかも知れないが、その時間によって自分の内面にあったものを発見し、軌道修正が図れるのだ。現実的でないものを追い求めることは時間の無駄だろう。それはファンタジーを追い求めているのだ。
適合せねばならないという思い込みや、十分でないという思い込み、これが常に人生の歓びから人を引き離しているんだよ。
ファンタシジーは人の内面に未来の投影を持込むのだ。多くのミュージシャン、また大勢の人々がやっていることだ。未来を投影して、彼らにとって必要と考えることを計画できると思い込むのだ。それで満足する。
社会的な条件付けによる思い込みによって人々は幸福とは成功と同義だと信じているのだ。そして世間では成功とは何かと考えているかと言えば、有名になり、アルバムが売れるといった具合だ。しかし、成功の意味とは、人によって違うのだ。
だから、君が「幸せ」になるために、ファンタジーが投影した未来を見るのなら、そこには「反発」するものが現れる。「もしうまく行かなかったらどうしよう」とね。それがファンタジーだよ。その一方で、君の真の個性的な創造的表現は、これは本当に君の中にある。これらは唯一、君に満ち足りた気持ちをもたらす、達成感だ。
これをファンタジーと区別する方法は、思い出してくれ、ファンタジーは「これを手に入れたら幸せになる」という。満ち足りた思いは無いんだ。たとえ条件を達成したとしても、君自身が不幸せのメカニズムを持込んでいるんだ。そして更なる未来を投影する、際限がないのだ。決して満足感は得られない。私は多くの実例を見てきた。
唯一、君を満足させるものは、自分の個性的で刺激的なアイデアを表現することだ。これは君だけのもので、そこには恐れも疑念も存在しない。知ること、すなわち、発見と納得のひらめきだ。それが君の本能的で創造に満ちた個性的性質であり、君を突き動かすのだ。
エゴはこう言うだろう。「それでは有名になれない」とかね。いいかい、君は自分自身の能力を認めないがために、自分の潜在能力に気付かないんだ。
4.自分のファンを驚かせるギター・ヒーロー
ジャック・ホワイト。私のような者が彼を天才また才能の際立ったプレイヤーだと思うとは、驚く人がいるだろうね。彼は私の様に速弾きタイプではないから。
ギターの聴き手になったとき、私は速弾きの耳では聴いていない。速弾きのプレイヤーに私の耳が共感することはあるのだが、多くの場合、私の耳はブルースに惹きつけられるんだ、指板のどこに指を動かすべきか知っているプレイヤーにね。
更に深いレベルで言うと、ジャックのギターサウンドを構築する能力は革新的で、信じられない位に創造的だ。彼は音を多次元で聴いているのさ。一般に興味深いギターサウンドは様々だ。彼のギアの選択はとても賢く、音楽へ貢献する狙いがある。目新しさを追ってうるさく響くのとは対照的だ。
しかしそのどれもが音楽そのものが存在しなければ、長期的な視点で見れば効果的ではない。彼がプレイした全ては明らかに彼にとって自然な表現なんだ。私には彼が何かの未来を投影してそれに自らを適合させようとしようとしているとは全く思えない。彼は完全に本物だ。
5.秘密兵器
私の秘密兵器は皆と同じものだ。視覚化する能力だよ。これは真に強力な武器だ。それに気付かない人は多いけれど。それらの人たちは心の中で視覚化を行わず、知性化をしている。全く異なるものだ。知性化とは、自分の頭の中で物事について言葉で考察することだ。つまり、頭の中の小さな声と「どうしようか、できるだろうか」と会話するんだ。しかし、視覚化は生の体験で、自由で限界がない。君の達成したい事柄の視覚化能力を邪魔するのは、唯一君自身の恐れだ。
恐れはこう言うだろう、「ああ、そうしたいのだろうけど、失敗するよ」とか「お前には合わないだろう」とか、あらゆるナンセンスを言う。しかし、君の創造的欲求を追求する能力は明確な視覚化を求めるだろう。
第1のステップは熱望すること。「私はこれをやりたい」その何かはファンタジーかも知れないし、君の内面から湧き上がる創造的衝動かも知れない。それこそが重んじるべき最良のものだ。それが最も効果的に作用し、最も強力で魅了し、その過程においても、達成したことによっても君を満足させるだろう。
視覚化とは第2のステップだ。この秘儀には2つの要素がある。1つは君が達成したい事柄を心の目で実際に見て創造すること。既に達成したらどんな感じなのかを想像しなくてはならない。そうすれば君の経験から感覚がやってくるのを疎外するものはないだろう。
「こうしたい」と考えたら、それを視覚化するんだ。しかしそこで「いや、でも」と抵抗する声がするだろう。「どうやるんだ?」ここで人々が理解していないのは、やり方がわからなくても構わないということだ。なぜなら、方法は機が熟すまで現れないからだ。
君の視覚化と創造的表現の目的達成のための協調的要素は機が熟すまで現れないが、常に途切れることなく起こっている。しかしながら、我々は無知ゆえに今それを望むのだ。そして今起こらなければ、「ほらな、言っただろう、失敗するって」となる。
君の最強の道具は、自分と自分の仕事についての思考の質を見抜く能力だ。なぜなら、そうすれば君は自分の姿勢が悪かった場合、それを変える選択ができるからだ。否定的で悲観的な姿勢のことだ。それに対処したなら、そこから君は自由を手にする。
達成する方法を心配する必要はない。君がゴールを視覚化して達成した感覚を捉えることができれば、方法は君の進む過程で自ずと現れるのだ。君の協調的要素が揃えば自ずと現れる。それらは君の姿勢によって引き付けられるのだ。
君が明確に自分に浮かんだこれはユニークなアイデアだと確信していれば、それが何でも構わないんだ。ギターが好きな人たちは曲でなくてはならないと思うが、ピザのレシピかも知れない。君が「これだよ!」と思う何か心に共感するものだ。
I recorded “Teeth of the Hydra” perhaps 6 months or so ago and recorded it in sections. In prep for the tour and working to play the piece from top to bottom, in this shot I’m listening to the track and visualizing the performance to get it in my mind. pic.twitter.com/vTsXhwoesK
— Steve Vai (@stevevai) 2022年1月27日
1月28日のツイート。ヴァイ先生が "Teeth of the Hydra" を演奏するために、Hydra ギターを弾く自分の姿を視覚化するイメージトレーニングをしている様子が投稿されています。何かを学ぶとき、心の中で完璧にこなせれば、実際に演奏するとき、とても容易にできるようになるそう。