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Green (@ribbon_bear) が毎週好きな音楽ネタを語ります! Since 2011

スティーブ・ヴァイ 「私はすっかり音楽理論を敬愛し、それをギタープレイや作曲に応用していた」

スティーブ・ヴァイが今年のオンラインNAMMのイベントに登場した時のビデオが公開されました。Vaideology の出版元である Hal Leonard の主催イベントで Vaideology の制作背景を語るとともに、視聴者からの質問に答えました。

これを読む方は Vaideology の購入者が多いと思いますが、先生が音楽理論を学んだ過程について語っているところは興味深いと思います。会話の概要を和訳しました。

 

 

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私は子供の頃から音楽理論に魅了されていてね、音符が好きだったのさ。音楽という言語は美しくて興味深いものだった。この言語を知ることで、他の何もできないような大きな創造性の扉が開くと直感でわかっていたのだ。私には自然でオーガニックなことだと思えた。手書きの譜面は私にとってしっくりと理解できる数少ないものの1つだった。

世の中には音楽的才能がありながらも、音楽理論に惹かれない人はたくさんいる。それは構わないんだ。音楽理論を学ばなくても有能なミュージシャンとなることは可能だ。なぜならミュージシャンとしての能力は学問的知識とは別のところ、君自身のユニークな想像力からくるからだ。

しかし、音楽理論を学ぶことで音楽的ボキャブラリーを身に付けることができるし、他のミュージシャンとの意思疎通に役立ったり、楽器を理解し、即興能力を身に付けることができる。作曲能力にも役立つし、作曲するならある程度の音楽理論を知らねばならないだろう。

私は幸運なことに7年生(日本でいえば中学生)のときに音楽理論のクラスを受講する機会を得た。ビル・ウェスコット先生の授業だ。彼は学識の深い人物で、まあクレイジーだったのさ。カールプレイス高校の教師で、7年生に受講を許可してくれたんだ。その授業こそが私が学校に通った真の理由さ。

彼は私に音楽理論の全てを教えてくれた。作曲を学んで私はクラシック音楽に傾倒し自分でも作曲を始めた。実際のところ、私に与えられた課題は毎日、自分で書いた譜面を提出することだった。コード記号とメロディだけでなく、完全に作曲されたものでなくてはならなかった。大好きな課題だったよ、今でもその譜面を全て保存してある。彼はそれをピアノで演奏してくれたから、私は自分の耳で聴くことができたのだ。それこそが上達または自分の作品を批評する最適な方法だ。なぜなら、作曲時には頭の中で想像して楽器で音楽に肉付けをしているだけで、実際に音で聴くことで初めて文脈としてその音楽が何を表現しているのかを知るのだ。そして自分の想像力がどのように音楽言語に翻訳されたかを理解する。

そうして私は夢中になったのだ。信じられなかったよ、小さな黒い点を書き連ねることで人がそれを見て演奏できるんだ。その結果、私は初めてのオーケストラ曲を書き上げたのだ。興味深いことに同じ頃、私はギターを弾き始めたのだが、音楽理論をギターに応用できないでいた。Led Zeppelin をプレイするのにその必要を感じなかった。もちろん、最小限は音符を学ぶのに必要だったろう、しかしウェスコット先生が教えていた重層な音楽理論とギタープレイの接点は考えられなかった。

だが、私にあったもう1つのアドバンテージは、ジョー・サトリアーニと同じ町で育ったことだ。彼は私の4歳年上で、彼もウェスコット先生の授業を取っていた。ジョーは昔から頭が良いから、音楽理論とギタープレイを結び付けて理解していた。だからジョーのギターレッスンのおかげで私もそれを理解することができた。

そして私はバークリーに入学すると、それらの教えに磨きをかけることができた。なぜならウェスコット先生からはクラシックを学んでいたのだが、バークリーでは一層ジャズに触れるようになったからだ。私はすっかり音楽理論を敬愛し、それをギタープレイや作曲に応用していた。それに教えることも好きだったんだ。継続して教えていたよ、高校でも教えたし、自分がカレッジから中退した後にカレッジでも教えていた。メインでやっていた訳ではなかったが、教えるのは大好きだったのさ。生徒が(頭の中で理論とギタープレイの繋がりを)理解して「そういうことか!」という表情をするのを見るのが好きなんだ。

音楽理論のコンセプトとその適用は私が魅了されるものの上位なんだよ。教えるのが好きだから、いつか本を書こうと思っていた。本か、何かオンラインで体験できるもの。ギタープレイヤーが知るべき基本的事柄と私が思う知識を学べるカリキュラムだ。そこである年のヴァイ・アカデミーではテーマに音楽理論を取り上げた。そこで生徒のためにPDFのテキストを書いたのだ。急いで仕上げたもので、完全ではなかったのだが、後からこれに手を加えて生徒たちに送った。私が知る全ての音楽理論を記したもので、ギターへの適用法も含めた。

音楽理論に恐れを抱いている若いギタープレイヤーに理解できる形にして、彼らのギタープレイに役立ちたかった。私がやろうとしたのは(基礎から)順番に並べて理解できるものにすることだ。何かを学ぼうとして本を買って読み始め、理解されているという前提で用語が出てくることほどイライラすることはない。しかも本の残りはそれらの用語で書かれているんだ。半分ほど読み進めるともはや何のことについて書かれているのかわからなくなっている。まあこれは君たちに起こったことではないかも知れないが、私には起こったのさ。私の記憶力は良いけど短いからね。もうこのジョークはやめておくよ。(笑)

とにかく、私はこの本を基礎から並べ、簡単に理解しやすく、そしてギタープレイヤーが利用できるものにしようとしたのだ。それから、多くのギタープレーヤーが音楽理論に気後れしているのにも気付いていた。そんな必要はないのだと言いたい。心から言っているのだよ、私にできるのなら君にもできる。私は平均的な生徒だったんだからね。それでも理解し、楽しみ、活用したんだ。大したことではない、恐れる必要などないのだ。理解したらボスになった気分になれる。気分のいいものだ。

Vaideology には基礎的な事柄から上級者向けの内容まである。しかし自分で興味を持てなかったらそこまでやらなくてもいい。私はこの本を楽しんで書いた。本の中の図表も全て私が書いたものだ。とても楽しんで書いたから、読者にとって役に立つものであると確信している。

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ここで視聴者の質問を取り上げます。あなたが採譜して最も感動した曲は?また採譜作業のインスピレーションを教えてください。

フランク・ザッパとの出会い、"Black Page" の採譜についての話は過去記事にまとまっていますので、以下の記事を参照のこと。)

staytogether.hateblo.jp

フランクとツアーしレコーディングして仕事をしていく中で私に課せられたもう1つの仕事はフランクの楽曲全てをリードシートに起こし、著作権を登録するためにワシントンへ送ることだった。殆どの楽曲が手つかずになっていたので、多大な時間をかけてリードシートを起こしたよ。フランクとバンドのライブアルバム『Roxy & Elsewhere』なんかはアルバム全ての音符を採譜した。凄く楽しかったよ。その後、他の採譜の仕事もしたんだ。アラン・ホールズワースや Dixie Dregs の採譜は覚えている。

実験と練習やプロジェクトの実行に充てる時間はどれくらいの割合ですか?

イデアを練るときには自分が無限だと考えるようにしている。そして想像し、ヴィジュアルを想い描くんだ。ヴィジュアル化するということはとても強力で、それがアイデアを明確化する第一歩なんだ。大切なことは自分で可能だと思うこと。そしてそれに着手したなら、諦めない限り失敗することなどない。まあ、諦めて止めてしまうこともあるが、自分の中での熱中度合いが高いとき、挑戦する自分を止めるものなど何もないはずだ。

情熱がそこにあるとき、自分の目的追求に役立つパーツの全ては君のレーダーの範囲に入るだろう。それらは常にそこにあったのだが、「できない」と思い込むことによって私たちはその存在をブロックしてしまう傾向がある。自分にその価値がないとか、そんなことは不可能だと思ってしまうのだ。

誰もが独自の創造性を持っている。君自身の人格から生まれる本物の独自性であり、それが自分であることを楽しめる元なのだ、本来の自分自身さ。その状態であれば、君が創作する物は独自のものだ。この世界にはそれが必要なのだよ。君が歓びを持って独自の創造性を発揮することが成功なのだ。それが達成感をもたらす。

私のキャリアを知っている人なら風変りな楽曲や私がステージで変な顔をしたり踊ったりするのを知っているだろう。人にはエキセントリックだと言われたりした、自分ではわからないけどね。それらのことで随分と批判を浴びたこともあった。でも本来の自分を変えることはできないのだよ、それに全ての人を喜ばせることなどできない。まずは自分を満足させることだ。そうすることで自然と自分に合った観客を引き寄せることになる。プリンスやデヴィッド・ボウイを見てごらん。

ちなみに今こんな状態なのは右肩(手?)の手術をしたからなんだが、右手が使えないので、左手だけで弾いているうちに1曲書き上げたよ。(訳者注:右手が使えないときに左手を使い過ぎて左手を痛め、最近の写真では左手に包帯を巻いているようです)

歳をとってからギターを始めた者にアドバイスをお願いします。

大きな期待を持たずに楽しむことだ。そして自分が本当にやりたい音楽は何か考えてごらん。そして楽器を演奏する者にとって達成感を味わえるのは曲を最初から終りまで弾けて、それがきちんと曲に聴こえることだ。どんな曲でもいい、毎日少しずつ覚えて1曲弾けるようにしよう。ゆっくりから始めてスピードを上げていこう。

私のおすすめはそれを自分で録音して聴いて批評して何度もプレイするというものだ。何度も録音しては練習しよう。そうしてもはや何も考えずに弾けるところまできたら、そこが曲として聞こえる段階の最初の入口だ。そこまできたら、自分の演奏に感情を込められるようになる。既に肉体的な困難を乗り越えた演奏は、感情を込めることで更に良いものになる。ここから夢中になっていくのだ、自分が音符になるのだよ。

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先生の「君にもできる」発言、Vaideology に挫折した私は頭を垂れるばかりでした。(涙)
でも、以前見ていたニタ・ストラウスのインタビューで、彼女も Vaideology を心待ちにし、発売日に購入して読み始め、途中で挫折した話をしていたので、プロフェッショナルでも挫折するんだと何だか嬉しかったのでした。