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ストリーミングとアーティストの収入:再生1,000回で3ドル程?

ストリーミングからの収入がいかに少なくアーティストの苦痛になっているか、については以前から言われていましたが、第2四半期決算を開示した Spotify CEO, Daniel Ek がメディアのインタビューに先週応じ、アーティストの反感を買っていました。

今週はこの問題を取り上げてみようと思います。いくつかの資料を当たってみましたが、問題の根が深くて、結論はありません。(汗)以下ご参考まで。

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musically.com

《インタビューの一部要約》

多くのミュージシャンがストリーミング収入では生活できないと語っている。Spotify のミッションと彼らの声にギャップがあるのはなぜか?

わが社のミッションはより多くのアーティストが自らの芸術で自活できることであり、それは数字に表れているように実現しつつある。より多くのアーティストが盛大に成功し、影響力を持ち、新たなファンを獲得している。

パイ(ストリーミング市場)自体は拡大成長しており、多くの人がそのパイに参加できるのは極めて興味深い。

わが社のプラットフォームにも文字通り何百万ものアーティストがいる。報道されるのはストリーミングに不満だという人々になりがちだ。データからは明確にストリーミングで生計を立てられるアーティストが増えていることが示されている。

かつては良い収入のあったアーティストがこの新たな世界で上手くやれないという人もいる。3~4年に1回の音楽レコーディングもできずに、それでも十分だと思っている人たちだ。

現在成功しているアーティストというのは、ファンとの継続的な繋がりを作ることが重要だと認識し実行している。労力を注ぎ、アルバムにまつわる物語を語り、ファンと継続的な会話をすることが重要だ。

テイラー・スウィフトのニューアルバム『Folklore』にまつわる活動が成功例だ。思うに、ストリーミングで成功できていないアーティストの多くは過去にやっていたような音楽のリリースをしたい人たちではないのか。

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インタビューの途中で、アーティストが苦境にいるのはコロナでライブができないからだとEk氏が言っていたのには、議論のすり替え!と思いました。アーティストのストリーミング収入が少ないのは前から言われていましたから。ストリーミングで成功できるのは、テイラー・スウィフトとか超ビッグネームのアーティストなのでは。

このEk氏のインタビュー記事に対して多くのアーティストがぶちキレていました。その中で私が注目したのはマイク・ポートノイのツイート。

Spotify は全てのアーティストから搾取している!俺は2020年にアルバム8枚リリースするけど、この8枚で Spotify から得る1年分の収入は"多分"家族で1回ディナーの外食ができる程度だ」

先ほど取り上げたインタビューで、Spotify CEO は「3~4年に1回の音楽レコーディング」くらいもしないで文句を言うなと言っているようですが、マイクは年に8枚アルバム出す人なのに、ストリーミングではまともな収入が得られない訳で、これは仕組みとしておかしいのでは?

それで今度はストリーミングのアーティスト収入を調べてみました。

soundcharts.com


ストリーミング収入の配分について、それを1ストリーミング当たりに計算するとこうなるそう。

Spotify----------------$0,0032

Apple Music----------$0,0056

Google Play Music---$0,0055

配分の計算については、ジャンルや地域によって違いがあるようですし、無料会員の制度のあるSpotify と有料のみのサービスを比べても、どちらが高い安いと一概には言えないようなのですが、1000回の再生で3.2ドルでこれが全額アーティスト収入になる訳ではない(レーベルや作曲者への配分もある)のだから、そりゃ厳しい。

Spotify は収入のうち7割強程度をロイアリティの支払いにしているようですが、この割合が増えればアーティストの収入が増える?と単純に思っても、それは難しそう。2015年からのSpotify社決算を見たところ、ずっと赤字。むしろロイアリティ支払いを減らして粗利を上げたいくらいだと思う。そうすると、①サブスクリプションの料金を上げる ②有料会員を増やす が次の対策ですが、競合が多い中で難しいのが実情と思います。とりあえず②ができれば多少は改善かも。

2018年に公表された Citi Group のレポートが音楽業界の構造を詳しく取り上げています。それによると、2000年以前に比べ、2010年以降のスマホが普及した時代の方が北米での消費者音楽関連支出が1.5~2倍くらいに増えており、その内訳は多い順にサブスク、コンサート、CD等購入。CD等購入はピーク時の1/4位に減少。2010年以降にサブスク、コンサート支出が急増しており、この2つで消費者支出の8~9割程を占めるよう。コンサート支出がほぼ無い今年は大変なことになりますね。

次に消費者音楽関連支出だけでなく、広告収入やBtoBのライセンス収入も合わせた音楽業界の収入全体の分配を分析してあったのですが、(レポート62ページ)アーティストの取り分は全体の12%くらいでした。大部分を持っていくのが音楽プラットフォームとレコードレーベル。それでも全体収入に対するアーティストのシェアもアーティスト収入も2000年以前に比べると右肩上がりで増加していました。

今年はコロナでアーティストのコンサート収入が消滅してしまいましたから、更に多くのアーティストが苦境に追い込まれそうです。私たち音楽ファンはコンテンツにお金を払うのだけど、その先でアーティストに十分支払われない仕組みがあるというのは、悩ましいです。

最後に2018年にキップ・ウィンガーにインタビューしたときに彼が残した印象的な言葉をここに引用して終わります。考えさせられるコメントでした。 

「今じゃ音楽ってのは簡単に浪費されるものになってしまった。俺が書きたいのは、今から10年経って聴き返しても、何かを感じ、感情的な共感を得られるものなんだ。」

staytogether.hateblo.jp