Stay Together

Green (@ribbon_bear) が毎週好きな音楽ネタを語ります! Since 2011

スティーブ・ヴァイ 「今ある自分を受け入れて、人生を生き、楽しむのだ」GG int. Part 3 of 3

スティーブ・ヴァイの女性ギター雑誌インタビューの続きです。

Part 3では気分の落込みからどうやって自分を変えたのか、ヴァイ先生自身の体験談が語られており、学ぶことが多いです。

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あなたがそのような悟りを得たのはいつのことですか?あなたが深い鬱に陥っていた頃には真実を見つけたいと祈っているだけだったとのことでしたが。

君はこれを理解していると言ったし、多くの気分の落込みに苦しむ読者にも理解できるだろう。あのような状態になると、孤独であると感じ、自分以外の誰にも理解されないと、人生ずっとそんな状態だろう。自分の人生は全てが惨めだったと信じるようにさえなる。

その理由は自分自身で頭の中で繰り広げているその思考にあるのだ。それは君に鉤爪を立てて入り込んでいるので、これを捨て去るのは実に難しい。その苦悩はそれ自体が余りにも重圧で、―これは私に起こったことだが― 鬱の状態にあるとき、人は苦悩や苦痛を抱える自分というアイデンティティを創る。

それが私に起こった。私はそれにひたすらしがみつき、自分には良く分かっている、それが正しい、世の中は最悪だ、という考えに凝り固まり、自らの心の中に敵対的な世界を創り上げたのだ。

私の場合、そういう考えを捨て去れなかった。「世の中は最悪だ、皆バカだ、何もかもバカげている」という感覚に溺れていた。それが余りに強力になり、ある時点で忘れ去ろうと試みた。それだけが助かる道だと思えたのだ。しかし何かが私に告げた、それは声とは違い、本能的な理解だった。自殺は解決にならないと。「ここで何が起こっているのか全くわからない。知りたいんだ。それだけだ、何よりもそれが知りたい」と自分の声が聞こえたんだ。

私は自分が人生で真に何を求めているのかを考え始めた。金持ちで有名になって、崇められ、裕福だとかそういったことか?そうではないと分かった。私が真に求めているのは、この地球にいる誰もが心の中心で望んでいるのと同様なのだ、平穏だよ。私が求めているのは心の平穏だ。心地よく感じたいのだ。幸せでありたい。自分のやること全てを楽しみたい。人生の真で深い答えを知りたい。それを何よりも求めている。それが誰にとっても最初の癒しのプロセスだ。

第一のステップは平穏を熱望することだ。言うのは簡単だが、実行するのは難しい。時が熟し、心の準備ができたときだけ可能なのだ。自分の人生で求めるのが平穏だと決めたとき、その決断を下したその瞬間が再起プロセスの開始なのだ。

あなたはどうやって音楽業界を生き抜いたのでしょうか?

私は自分の旧来の見解が酷いものだったと気付いたとき、考えを変えたんだ。あの鬱を経験した後、私は少しだけ目を覚まし始めた。それは一晩で起こるようなことではない。今でも私は発達途上なんだ。でも最初は自分でも信じていなかったけれど、自分にずっと言い聞かせていた言葉があるんだ。それは「私は毎日より幸せで健康になる」というものだ。苦悩を感じるときにはいつもこの考えを復唱する。

君が音楽業界に身を置く若いミュージシャンで、自分の仕事に情熱を持っているのなら、芸術家の常として、自分が芸術を創造したときの喜びを人々に体験して欲しいと思うものだ。エゴはそれを掴んでこう言うのだ「他の誰よりも自分の作品が優れている」と。

私は鬱を経験した後、突然にシーンで人気が出て、事が起こり始めた。大金が入り始め、あらゆる雑誌の表紙を飾り、グラミー賞を受賞し、あらゆる人気投票を受賞してしまったので、そういった人気投票からは引退したんだ。ファンからは手紙をもらい、自分を彫ったタトゥーをファンに見せられ、自分のヒーローたちがメディアで自分を褒める。そういったことが私に起こり始めた時期が90年代にあった。するとエゴが直ちに戻ったのさ。自分でもそれに捕らわれたことに気付かないのだ。

90年代に音楽シーンが変わり始めると、音楽勢力が変わり、私と仲間たちがやっていたことは既にピークに達していた。大きな反動があって、グランジがシーンにやってきた。突然私はギタープレイの悪しき誤った見本になってしまった。これこそがメディアの波の盛衰なのだが、私は理解していなかった。私は個人攻撃と受け取り、エゴがとても傷ついた。やがて私はかつて落ち込んでいた頃の感情を抱くようになった。救いようのない鬱の類ではないものの、自分に何の為にもならない考えに囚われてしまった。その多くは明確に音楽ビジネスに反映された。

それで、私は自分の音楽ビジネスへの信念を変えねばならないと決断した。なぜなら、自分が信じるものが何であれ、それが自分にとっての現実になるからだ。私は「音楽ビジネスが好きだ」と唱えるようになり、実際に好きになった。素晴らしいビジネスだ。共に働き、学ぶことのできる創造力に富んだ人々で溢れている。これは全くの真実だ。創造力の捌け口を得ることで私は気分が良くなった。それらの優れたプロデューサーと仕事をするのは大好きで、私には学ぶことがある。

Generation Axe は大好きだ。彼らと集うのは歓びなんだ。音楽ビジネスには実に多くの創造的側面がある。ビデオ編集者、エンジニア、プロデューサー、レコード会社の重役、音楽専門弁護士、ミュージシャン、ソングライター、リリックライター、映画音楽作曲家のエージェントにだって君はなれるかも知れない。そうやって私は音楽ビジネスへの考え方を変えたのだ。その考えは自分の行動全てに注がれ、自分の信じるもの全てを見つける。私は悟ったのだ、私が望んだものは全て既に持っており、これは素晴らしいと。全ては自分の見解を変えたいという欲求に基づいて起こったことだ。

かつての闇の感情が戻るのを感じるときはありますか?

いやない。かつての日々にあった類の気分の落込みが私にやってきたことは一度もない。でも私は日々ずっと今に集中するエクササイズをしているし、自分が抱く思考に注意を払っている。なぜならそうすることで、それらの思考を吟味し、真実かそうでないかを見極めることができる。しかし、それには多くの訓練が必要だ。何千時間に及ぶ瞑想と魂の探求、そして私の人生を変えた優れた人々による著作の読書のことだ。それらは何千年にもわたって存在しており、再度耳を傾ける価値がある。

情報の元も重要です。時にはそれが違いを生みます。あなたの音楽を愛する人にとっては、あなたが人生を変える源かも知れません。

君が真実と感じることを私が何か言ったのであれば、それはそれが真実であり、君自身の内面にもあるということだ。

"Dear Me: A Letter To My Sixteen-Year-Old Self" (Joseph Galliano, 2011)という本では著名人に原稿の参加を求められた。とても素晴らしい本で、人々は若い頃の自分自身に対して温かく、感動的な手紙を書いていた。私も手紙を書いて欲しいと言われたのだが、私の手紙はたったの3語だけなんだ。“You're doing fine.”(その調子で行け) なぜなら16歳の頃の私が聞きたかったことはそれで、誰もそう言ってくれなかったからだ。

私はこのメッセージを読者ともシェアしたい。君は良くやっている。全く良い調子だ。君が過去の自分の失敗を問う必要はない。ただ今ある自分を受け入れて、人生を生き、楽しむのだ。知るべきことはそれだけだ。そして自分の弱みは無視して、強みを育てるんだ!

君が私の言葉をそのように受け取ったのは素晴らしいよ、多くの見解のあることだから。君がこれらの質問をしてくれたことを嬉しく思うし、これだけ時間をかけて答えられたことも良かった。「汝、与えられる」のさ。

(インタビュー終了)

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ヴァイ先生が最後に"Dear Me: A Letter To My Sixteen-Year-Old Self" について言及しましたので、補足しておきます。

この本は各界の著名人が16歳の自分に手紙を書くという形式で多くの人の温かい手書きの手紙とその頃の写真が集められた本です。多くの方が便せん数枚の手紙を書いている中、ヴァイ先生の手紙は五線譜のノートに

To Young Steve, (若いスティーブへ)
You're doing just fine. (その調子で行け)
from Old Steve (歳をとったスティーブより)

と書いてあるだけなのです。添えられた写真は長髪の16歳少年。ジミー・ペイジのカバーを弾いているのか、ギブソン風の12弦と6弦のダブルネックを持っています。

2013年のヴァイ先生来日時のEVOに参加した私は、この手紙についての真意を質問しました。その際のヴァイ先生の回答は次のようなものでした。

私の人生には成功と同時にもちろん手痛い失敗もある。成功と同様に失敗の経験も含めてあらゆる経験が今の自分を形作ったのだ。 だから過去の自分の人生を変える必要などどこにもない。16歳だった自分に今の私から手紙を送ることができたとしても、どうして「あれはするな、これに気をつけろ」などと脅かすことができるだろうか。 「その調子で行け (You're doing just fine.)」それで十分だ。

スティーブ・ヴァイ語録 @EVO Experience Tokyo - Stay Together

 先生らしい回答でシビれました。