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Green (@ribbon_bear) が毎週好きな音楽ネタを語ります! Since 2011

キップ・ウィンガー 「誰かに対してチャンスの扉を開くことはできる、でもその後は彼ら次第なんだ」Part 2 of 2

キップ・ウィンガーがライアン・ロキシーAlice Cooper)のライブストリーミング番組に参加した動画の和訳続きです。

 

『Pull』のプロデューサー、マイク・シェプリーの話はなかなか興味深かったです。以前、レブが「キップはタイムも完璧じゃないと許してくれない」と言っていましたが、キップがそうなったのはマイクとの仕事のお陰なんですね。

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 RR:そして "Conversations With Nijinsky" でグラミー賞にノミネートされた。

KW:作曲家としてノミネートされるのは信じられない驚きだったよ。簡単に入れるクラブじゃない。翌年に(アカデミー会員として)審査員に招かれたのだけど、とても意地悪なんだよ、いい意味でなんだけど。

RR:サイモン・カウが8人いるとか?

(訳者注:元アメリカン・アイドル審査員の音楽プロデューサーで毒舌で有名)

KW:もっと凄いんだ、25人いる。彼らは殆どの候補作を通過させない。度肝を抜かれたよ。そんなクラブに参加できてとても光栄だ。

RR:君は今でも Winger をやっているし、クラシックと両立しているよね。頭の切り替えはどうやっているんだい?

KW:最初は難しかったけれど、ちょっとした工夫をしたんだ。皆もできると思うよ。野球帽を何個か買ったんだ。

RR:文字通り違う帽子を被ってるの?(笑)

(訳者注:英語で1人で複数の異なった仕事/役割をする人のことを wear many hats とか wear different hats という)

KW:ああ、違う帽子を被るのさ。被って、よし今はクラシックをやると言って集中する。Winger なら違う帽子を被って集中する。タイムマネージメントだよ。この2時間、4時間、6時間はそれだけをやり、それぞれの分野の能力を伸ばす。俺はもう59歳だが。

RR:健康で若く見えるよ。好きなことをやっていると若さが保たれるんだ。

KW:正直に言うと、ある頃にはロックを辞めてクラシックに集中しようと思っていた。でも今では、ロックをやってきて本当に楽しい。クラシックの世界にフィットするには本当に小さな穴に糸を通さなくちゃならない。和声として適当であり、反復は不可、フェイクやコピーも不可、それらに適ったモノを見つけるのは強烈に難しい上に、個性を出さなきゃいけない。

RR:聞いてると、ポップ・ミュージックと真逆の世界だな。ポップは繰り返しがあって、他の曲と同じじゃなきゃいけなくてって感じだもんな。

KW:ああ、それで、ナッシュビル交響楽団との仕事を十分やって、俺はただロックしたくなったんだ。だから今年の後半は集中して Winger のニューアルバムに力を注ぎたい。

RR:じゃあここで、皆からもらった質問のコーナーに進もう。1つ目の質問は @ribbon_bear から(訳者注:私が事前に送信した質問です!)「アリスから学んだ最も重要な教えは何ですか?」もちろん俺も学んだよ。君は?

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KW:アリスはアメリカンロックの貴族階級なんだ。アリスから学んだことは…寛大であること。アリスはとてつもなく寛大なんだ。俺がバンドから抜けるとき、皆が俺をバカだと思ってた。でもアリスは「お前の道に進め!お前のやりたいことをやれ」って言った人だ。

RR:ワオ、いいね。アリスが背中を押したって訳だ!次の質問は「ロックンロールは死んだ?」

KW:いいや。新しいバンドが沢山ある。活きのいい若いバンドだ。ロックンロールのスピリットは死に絶えない。ところで、俺のクラシック音楽にもロックンロールのスピリットがあるんだ。それが俺がクラシック界に持ちこむものだ。

RR:では次の質問。「Winger のニューアルバムは?」

KW:レブと俺は12月に集まって数曲書いたんだ。その頃に幾つか Instagram に投稿している。数個の素晴らしく良いアイデアとそれ程でもない沢山のアイデアが浮かんで、今俺が言えるのは、相当良い4曲が俺たちのリリースする水準に達していること。でもそこでコロナが始まってしまった。俺たちは今少しばかりファイルシェアで進めているが、これは俺の好きなやり方じゃない。俺は同じ部屋に入ってアルバムを創りたいんだ。それで、今はファイルシェアでアイデアを交換しているけれど、(レブとの)10日間のスケジュールを押さえたいと思っている。それでできる。来年1月には十分リリースできるだろう。

RR:ボー・ヒルやマイク・シェプリーらのプロデューサーと仕事してきたよね。

KW:ここでマイクの為に祈らせてくれ。安らかに眠れ。彼はミックス・エンジニアのピカソなんだよ。俺の見解ではマイク・シェプリーより優れた人はいない。俺はアルバムの創り方を彼から学んだんだ。『Pull』を聴けばこれがバンドのアイデンティティだってわかる。その前の2枚の方が成功したけれど、『Pull』で俺たちは初めて自分の音を見つけたんだ。俺には前の2枚ではそれは聴こえない。

スタジオでレブがリズムギターを録ってるときだ、マイクが「ハシってる」(訳者注:曲のテンポより速く演奏すること)って何度も言うんだ。俺たちは「は?」だった。でもマイクは「ハシってる」って言うのさ。俺にはそう聴こえなかったんだけど、ある瞬間に視界が開けて理解した、「ワォ!わかった!レブはハシってる!」そこから音楽の中のマイクロニュアンスが全て聴こえるようになった。ボールが地面に落ちるところ、それがビートだ。正確にビートをヒットしないとな。

それにエンジニアリングやミックスやその他全てをマイクから学んだ。問題は、マイクから学んだせいで俺がアルバムを創るのには時間がかかるってことさ。マイクはマット・ランジ(訳者注:Def LeppardAC/DC をプロデュース)と18年程仕事をしてた。正確な仕事だったよ。

クラシックでも同じだ。オーケストラの前にスコアを出して、オーボエに対し正確なアーティキュレーションが何か、それを知っていなくちゃならない。そうでなければ、自分が思ったように演奏されない。

音楽制作でも同じだ。でもそれは価値評価じゃない。パンクバンドならジャムして1曲一通り演奏すれば十分エキサイティングだろう、だからどちらが上とか下という話じゃない。ただ俺のやり方ではそれが必要なんだ。俺に聴こえるように正確にしたい。

RR:じゃあここで質問。Winger ってバンド名はアリスが名付けたの?

KW:いや違う。最初は Sahara って名前だったけど、同名のバンドから差止めの手紙がきたんだ。それでどうしようってことになって、どうなったのか思い出せないな、多分アトランティックの社長が「もう Winger にしておけ!」って言ったんだったかな、俺は嫌だなと思ってたし、レブはがっかりしてたよ。

RR:Beach にしたかったんだろ?

KW:ああ、あいつは Winger Beach にしたかったんだ。そしたらアリスが「Winger は凄く良いバンド名だ」って言うんだ。アリスがそう言うのだから、俺もクールなのかなと思ったんだ。俺は長年アリスのビジネスサークルと関係を持っていられることを誇りに思う。これはデカイことだ。彼はとても慈悲深いボスで、彼の下で働くと、皆がその台を支えたいと思うのさ。

RR:ニタ・ストラウスを Alice Cooper Band に推薦したのは君だね?

KW:ああ。アリスのビジネス・マネージャーと話していて、オリアンティが辞めるから女性ギタリストを探していると聞いたんだ。ちょうど Monsters of Rock Cruise でニタとコートニーに会っていたから、俺に心当たりがあると答えた。ボブ・エズリン(アリスのプロデューサー)に連絡してニタに電話した。

RR:与えられたチャンスを最大限にモノにしたのが彼女だね。完全に期待に応えた。

KW:全くだ。誰かに対してチャンスの扉を開くことはできる、でもその後は彼ら次第なんだ。

RR:その通りだ。俺にとってはそれがギルビー・クラークで、アリスが俺と彼のプレイを見て気に入ってくれたんだけど、彼にはタイミングが悪く、それで俺にやるべきだと勧めてくれた。

KW:俺にはケインとボー・ヒルが扉を開いてくれた。ボーがアリスのレコーディングに呼んでくれたんだ。それからケインがアリスのギグを勧めてくれた。そしてドアを開けたらその先は自分次第なんだ。

RR:君の次の目標は?

KW:もう目標は達成したんだ。次のはまだない。ナッシュビル交響楽団との仕事でまだ何曲か書いているけれど。次は Winger のアルバムと俺のソロアルバムを仕上げたい。後はただ作曲を続けたい。歳をとったけど人生の目標というのは将来にはパリの路地を歩いていることかな。(笑)まあ、今やってること以外のことをやるつもりはない。今やってることを続けていくよ。

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《おまけ》

キップのいた部屋には時間ごとにメロディが鳴る時計があって、時折インタビューを遮ります。そのときの会話が傑作でした!

RR:(時計のメロディに遮られ)それ、まさか君が書いた曲とか?(冗談)

KW:違~う!(メロディを少し聴いて)ダイアトニックのメジャートニックなんて俺は使わない。

RR:やっぱ答えが違うな!俺にはペンタトニックしかない。(笑)

キップ・ウィンガー 「死の床で自分にイエスと答えるためには、今何をするべきか?」Part 1 of 2

キップ・ウィンガーがライアン・ロキシーAlice Cooper)のライブストリーミング番組に登場しました。

 

Alice Cooper Band という共通項のある友人同士の会話ははずんで、キップのキャリアの深い会話が聞けます。とても長いインタビューなので、過去記事であまり触れられていない内容や私が興味深いと思った部分を要約してまとめました。今週は Part 1。

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RR:ランディ・ローズやエディ・ヴァン・ヘイレンクラシック音楽から始めてロックに移行していったけれど、君がその真逆だというのは興味深いね。ロックから始めてクラシックに足を踏み入れた人は君しか知らないよ。(クラシック界の)プロの作曲家だからね。

KW:リサーチしてくれていて嬉しいよ。大抵のインタビュアーは俺がクラシックからロックに行ったと思っているから。俺が本当にクラシックを学び始めたのは35歳のときだ。俺は若い頃から兄貴たちのバンドでプレイし始めて音楽は独学なんだよ。その後ボー・ヒルが兄弟のバンドをプロデュースして、彼がNYに行ったので、俺は彼しか音楽業界のコネがないからNYに行ったんだ。

RR:ここで俺らの共通点が出てきたな。80年代後半に俺はNYにいたんだ。君らはアトランティック・レコードと契約してた、俺もその頃アトランティックと契約したんだ。NYでの話は後に回して最初に戻ろう。君は兄弟のバンドでロックをプレイしていて、16歳の頃、バレエを始めたんだよね。君はマーシャル・アーツをやっていたから、そこからの自然な発展だった訳?

KW:よく調べてるね。ああ、カジュケンボ(訳者注:空手と柔道とボクシングを組み合わせた武道らしい)をやってたんだ。ストレッチとか足を頭の上まで上げるキックとかやっていたから、ガールフレンドが一緒にバレエをやってと言ったとき、いいよって言ったんだ。初めてバレエスタジオに行ったときのことは一生忘れない。皆が足を頭の上まで上げてポーズしてたんだ。あんなのはブルース・リー以外の誰がしてるのも見たことがなかった。

(訳者注:これで、前回のインタビューでキップがブルース・リーの言葉を引用した訳がわかりました!過去記事はリンクから↓)

staytogether.hateblo.jp

RR:それで本当にバレエ・カンパニーで踊ったの?

KW:ああ。当時のコロラドで男がバレエするってのは凄く少なくて、相手役が要るからリクルートされたんだよ。俺はかなり真剣に取り組んでた。今でもレッスンしてるんだ、8ヶ月前だからコロナのせいで随分と前になっちゃったけど、とてもいいエクササイズになる。俺はデイヴ・リー・ロスを更に上のレベルでやるんだって思っていた。彼は史上最高のフロントマンだろう?それにフレディ・マーキュリーだってタイツを履いてた。それにイアン・アンダーソン(Jethro Tull)もタイツ姿だった。俺は彼らの上を行ってやると思っていて、俺はベースを弾くから、ベースを持って同じことをやろうとしたんだ。

RR:そうか、そこに捻りを加えた訳だ。成功した?それとも失敗した?やってみないとわからないよな。

KW:随分と批判されたよ。

RR:ボー・ヒルの話に進もう。君の最初の成功は曲を書いたところからだよね?俺のお気に入りのバンドで全く過小評価されていると思う、ボルティモアKIXだ。今朝リサーチで聴くまで知らなかったけど、アルバム 『Midnite Dynamite』の "Bang Bang (Balls of Fire)"だ。俺のお気に入りの曲だよ。これはどういういきさつだい?

 

KW:ボーはとても寛大だったんだ。ある日ボーから連絡があってKIXってバンドに何か曲のアイデアはないかと言われた。ボーは RAT で成功してから売れっ子になって色んなバンドのプロデュースをしてた。

RR:ボーは Winger のプロデューサーだね。

KW:ああ、最初のアルバム2枚。その後 Nirvana がヒットして俺たちは真っ逆さまさ。

RR:その話は何度もレブに聞いたよ。そう、俺たちのもう一つの共通点、レブ・ビーチだ。彼とは Alice Cooper Band で96年に一緒にプレイした。俺にとってもレブにとっても初めてのアリスとのギグだった。レブが良く言ってたよ、Nirvana とアニメが俺のキャリアを潰した」って。(訳者注:ライアンがレブのモノマネをしようとするけど、全く似てないw)でも彼は輝かしいキャリアを持ってる。

KW:ああ、Night Ranger, Dokken, Alice Cooper, Whitesnake, Winger, それにソロアルバムも何枚か。俺は多分何か挙げ忘れてるだろうな。謙虚な奴だよ、(プレイしてきたバンドの数々を)鼻にかけるようなことは全くないんだ。以前や最後にやったギグが何だったか忘れるような奴なんだ。

RR:あと、Winger のもう1人のメンバー、ポール・テイラーに会ったのは君が Alice Cooper Band にいたときだ。

KW:ああ。俺は子供の頃から兄弟でバンドをやっていたから、バンドとして仲間として上手くいくケミストリーというのがどんなものか本能的に分かるんだ。ポールに声をかけて、NYにレブって良いギタリストがいるから一緒にやろうと言ったんだ。当時のドラマーはケン・メアリー( Alice Cooper)だった。実際にポールとケンと俺の3人でコロラドに行って数曲レコーディングしたんだ。"Miles Away" も入ってる。

でも俺がNYに戻ってレブとアルバム制作をしていたら、偶然ロッド・モーゲンスタインに会ったんだ。レブは Dixie Dregs の大ファンで俺は知らなかった。俺たちがロッドにアルバムでプレイしてくれと頼んだんだよ。実はロッドのバンドへの参加はゆっくりと順に進んでいったんだ。最初はアルバムを頼んで、次にビデオ出演を頼んで、次にツアーも参加しないかと。そうして次第にメンバーとして固まっていったのさ。

RR:君は Alice Cooper Band にいた訳だけど、実際にはいつ自分のバンドをやろうと決めたの?

KW:ケイン・ロバーツのお陰というのは随分とあるよ。彼は実に洞察力のある人物で、俺にアリスのツアーを勧めてくれたのも彼だ。アリス以前の俺はソロアーティストとしてのデビューを探ってた。ピーター・ガブリエルみたいな、ブリティッシュ・ポップの音楽でね。1985年のことだ、その年には100曲くらい書いてた。Winger 2nd アルバムの "In The Heart Of The Young" を書いたのも85年だから、その頃書いた曲の感じがわかると思う。もっとドラムマシンぽい曲だったけどね。ケインが今は曲を書くときじゃない、ツアーに出ろって勧めたんだ。

それで26歳のときアリスのツアーで久しぶりにヘヴィな音楽をやってて思ったんだよ、俺は16歳の頃これをやってたんだ、この音楽は俺の血管を流れているものだと。当時は Megadeth や Tesla がオープニングをやってた。俺にもこういうバンドをやれるって思ったのさ。アリスとはアルバム『Constrictor』をやってツアーに1度出ただけだ。

RR:『Raise Your Fist and Yell』もレコーディングしただろ?

KW:ああ、でも俺が貢献したのはほんの僅かで "Gail" っていう風変りなクラシック曲だ。

RR:将来の君の作品の先駆けだった訳だ!ケインとは義兄弟みたいな間柄なんじゃないかい?でもそこにライバル心もあるように思ったから、彼に後押しされてたとは興味深いよ。

KW:ケインと俺は最低でも週に3回は話すんだ。俺たちは凄く親しいんだよ、彼には本当に才能がある、彼の最新アルバム(『The New Normal』キップ参加)なんて素晴らしいよ。彼は面白くて、洞察力があり、超知性派なんだ。だから俺は良い意見を聞きたいときにはケインに電話するんだ。どう思う?って。

RR:アリスが言ってたよ、これまでツアーした中で一番面白かった2人はケイン・ロバーツとキップ・ウィンガーだって。2人が一緒の時はそりゃ凄かったって。

KW:ああ、楽しかったよ。俺がアリスの元を去ったとき、寂しかったのはそういう仲間とヘッドライナーのショウからも去るってことだ。バンドを辞めるべきじゃなかったかもと思ったのは、Alan Parsons のギグもそうだ。スケジュールが合わなくなってしまった。そういうギグを失うのは後悔したよ。

1996年のことだ、俺はサンタフェに住んでいて、グランジの台頭で80年代のロックシーンのミュージシャンはプレイする場所がなかった。俺は当時日本人のマネージャー、エイイチ ナイトウと俺の1stソロアルバムを制作していて、彼は元々、俺とレブに Winger の1stアルバムのレコーディング・スタジオを使わせてくれた人だ。彼は日本人アーティスト、喜太郎のマネージャーだった。

(訳者注:これで喜太郎に繋がった!キップとレブが初めてロッドに会ったとき、ロッドは喜太郎のギグのオーディションのため、マネージャーと会っていたのです!ヲタクな発見に喜ぶ私… 関連過去記事はこちら)

staytogether.hateblo.jp

ソロ・アルバムを出した頃にはミュージック・シーンが変わって、俺はブックストア・チェーンのBordersで10人くらいの観客を相手にソロライブしかできなかった。その頃からクラシックを真剣に学び始めたんだよ。ツアーとの両立、タイムマネジメントが大変だったけれど、死の床で「俺はやりたかったことをやったのか、やり遂げたのか?」と自問したときに何と言えるかということだ。それで俺は将来を想像したんだ、「死の床で自分にイエスと答えるためには、今何をするべきか?」って。

RR:それはシビれるアドバイスだね。誰もが何か得意なことがある。それを複数見つけて達成していけば人生は充実したものになる。クラシックのアルバムではクレジットを C.F. Kip Winger にしてるね。

KW:クラシックの世界に入るときには怖気づいていて、ロックのキャリアは邪魔になると最初は思って、キップじゃなくて本名の方がきちんとした響きかと考えたんだ。でもサンフランシスコ・バレエ交響楽団はキップを使いたがった。それで気付いたんだよ、彼らは物語を求めている、俺のロックのキャリアはこの世界で役に立つんだと。芸術には様々な形式がある、音楽やダンスや彫刻や絵画だけじゃない。例えば不動産仲介業者としてもその人自身の芸術と言える仕事に到達できるんだ。どんな仕事でも、技巧という要素はある。だから自分の日々の仕事に気高さを見出すことは重要なことだ。

(Part 2 に続く) 

 

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ストリーミングとアーティストの収入:再生1,000回で3ドル程?

ストリーミングからの収入がいかに少なくアーティストの苦痛になっているか、については以前から言われていましたが、第2四半期決算を開示した Spotify CEO, Daniel Ek がメディアのインタビューに先週応じ、アーティストの反感を買っていました。

今週はこの問題を取り上げてみようと思います。いくつかの資料を当たってみましたが、問題の根が深くて、結論はありません。(汗)以下ご参考まで。

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musically.com

《インタビューの一部要約》

多くのミュージシャンがストリーミング収入では生活できないと語っている。Spotify のミッションと彼らの声にギャップがあるのはなぜか?

わが社のミッションはより多くのアーティストが自らの芸術で自活できることであり、それは数字に表れているように実現しつつある。より多くのアーティストが盛大に成功し、影響力を持ち、新たなファンを獲得している。

パイ(ストリーミング市場)自体は拡大成長しており、多くの人がそのパイに参加できるのは極めて興味深い。

わが社のプラットフォームにも文字通り何百万ものアーティストがいる。報道されるのはストリーミングに不満だという人々になりがちだ。データからは明確にストリーミングで生計を立てられるアーティストが増えていることが示されている。

かつては良い収入のあったアーティストがこの新たな世界で上手くやれないという人もいる。3~4年に1回の音楽レコーディングもできずに、それでも十分だと思っている人たちだ。

現在成功しているアーティストというのは、ファンとの継続的な繋がりを作ることが重要だと認識し実行している。労力を注ぎ、アルバムにまつわる物語を語り、ファンと継続的な会話をすることが重要だ。

テイラー・スウィフトのニューアルバム『Folklore』にまつわる活動が成功例だ。思うに、ストリーミングで成功できていないアーティストの多くは過去にやっていたような音楽のリリースをしたい人たちではないのか。

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インタビューの途中で、アーティストが苦境にいるのはコロナでライブができないからだとEk氏が言っていたのには、議論のすり替え!と思いました。アーティストのストリーミング収入が少ないのは前から言われていましたから。ストリーミングで成功できるのは、テイラー・スウィフトとか超ビッグネームのアーティストなのでは。

このEk氏のインタビュー記事に対して多くのアーティストがぶちキレていました。その中で私が注目したのはマイク・ポートノイのツイート。

Spotify は全てのアーティストから搾取している!俺は2020年にアルバム8枚リリースするけど、この8枚で Spotify から得る1年分の収入は"多分"家族で1回ディナーの外食ができる程度だ」

先ほど取り上げたインタビューで、Spotify CEO は「3~4年に1回の音楽レコーディング」くらいもしないで文句を言うなと言っているようですが、マイクは年に8枚アルバム出す人なのに、ストリーミングではまともな収入が得られない訳で、これは仕組みとしておかしいのでは?

それで今度はストリーミングのアーティスト収入を調べてみました。

soundcharts.com


ストリーミング収入の配分について、それを1ストリーミング当たりに計算するとこうなるそう。

Spotify----------------$0,0032

Apple Music----------$0,0056

Google Play Music---$0,0055

配分の計算については、ジャンルや地域によって違いがあるようですし、無料会員の制度のあるSpotify と有料のみのサービスを比べても、どちらが高い安いと一概には言えないようなのですが、1000回の再生で3.2ドルでこれが全額アーティスト収入になる訳ではない(レーベルや作曲者への配分もある)のだから、そりゃ厳しい。

Spotify は収入のうち7割強程度をロイアリティの支払いにしているようですが、この割合が増えればアーティストの収入が増える?と単純に思っても、それは難しそう。2015年からのSpotify社決算を見たところ、ずっと赤字。むしろロイアリティ支払いを減らして粗利を上げたいくらいだと思う。そうすると、①サブスクリプションの料金を上げる ②有料会員を増やす が次の対策ですが、競合が多い中で難しいのが実情と思います。とりあえず②ができれば多少は改善かも。

2018年に公表された Citi Group のレポートが音楽業界の構造を詳しく取り上げています。それによると、2000年以前に比べ、2010年以降のスマホが普及した時代の方が北米での消費者音楽関連支出が1.5~2倍くらいに増えており、その内訳は多い順にサブスク、コンサート、CD等購入。CD等購入はピーク時の1/4位に減少。2010年以降にサブスク、コンサート支出が急増しており、この2つで消費者支出の8~9割程を占めるよう。コンサート支出がほぼ無い今年は大変なことになりますね。

次に消費者音楽関連支出だけでなく、広告収入やBtoBのライセンス収入も合わせた音楽業界の収入全体の分配を分析してあったのですが、(レポート62ページ)アーティストの取り分は全体の12%くらいでした。大部分を持っていくのが音楽プラットフォームとレコードレーベル。それでも全体収入に対するアーティストのシェアもアーティスト収入も2000年以前に比べると右肩上がりで増加していました。

今年はコロナでアーティストのコンサート収入が消滅してしまいましたから、更に多くのアーティストが苦境に追い込まれそうです。私たち音楽ファンはコンテンツにお金を払うのだけど、その先でアーティストに十分支払われない仕組みがあるというのは、悩ましいです。

最後に2018年にキップ・ウィンガーにインタビューしたときに彼が残した印象的な言葉をここに引用して終わります。考えさせられるコメントでした。 

「今じゃ音楽ってのは簡単に浪費されるものになってしまった。俺が書きたいのは、今から10年経って聴き返しても、何かを感じ、感情的な共感を得られるものなんだ。」

staytogether.hateblo.jp

ジョー・サトリアーニ 「パフォーマー側の問題を解決しなければ、コンサートなどできない」

ジョー・サトリアーニがハワイのラジオ番組に遠隔で参加しました。このところサッチが積極的にメディアのインタビューに応えており、アルバム発売日直後のような活発さです。遠隔からの参加でも音声がかなり良く、実際にサッチはラジオのオーディエンス向けにちょっとした即興もプレイしています。意外にもブルースです!(動画36:33時点)

コロナの影響、マスク着用について、BLM運動など最近の社会問題についても語るサッチのコメントが興味深かったので、インタビューの一部概要を和訳してみました。

 

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Club Joe というライブストリーミングをシリーズでやっていますね。

ああ、世の中にはビデオカメラの緑のランプ(録画モード)に向かってアコースティックギターやピアノを弾いたり歌ったりするのが上手い人がいるよね、素晴らしい才能だよ。インストのギタリストにとっては少々違って、難しいんだ。というのは私のことなんだけど。

ここにはバンドはいないし、それでマネージャーに言ったんだ、生のオーディエンスの前で演奏にエネルギーを注ぎその瞬間を生むのは大好きだけど、ラップトップの緑のランプをのぞき込んでやるのは自分にはできないと。緑のランプではオーディエンスに向き合ったときのようにインスパイアされないんだ。それでファンと繋がるためにどうしたらいいかと。

世間には若い才能に溢れたシュレッダーがいて、彼らの才能を20秒にして凄いギタープレイを投稿しているだろう、インスタグラムにはその長さで十分だ。私たちはギタリストだけでなく全てのファンに楽しめるものにしたかったんだ。それで私の過去のカタログを取り上げて、ビゾネット兄弟を呼んだり、サミーやチャドやアンソニーを呼んだり、スティーブ・ヴァイやジョン・ペトルーシに声をかけたのさ。

少し前には Club Joe で Chickenfoot のメンバーが集まっていましたね。皆はどうしていますか?

ああ、サミーはいつものようにちょっとしたジョークのビデオを送ってくれたんだよ。彼のバンドの The Circle は毎週リモートでカバーをやってビデオを投稿してるよね。ちょうど "Right Now" をやってた。クールなアレンジだった。2日前にも彼には困らされたよ。撮影中に、何やってる?どっか行こうぜ!って来るんだから。(笑)彼から連絡が来てもう1曲創ろうぜ(Chickenfoot 曲)と言われたのだけど、私はアルバム3枚作曲している真っただ中だと言わなくちゃならなかった。

そのうちのインストゥルメンタルの1枚はライティングを終えて、リモートでのレコーディングを始めるところなんだ。今は私のライブバンドでアルバムを制作している。今年ツアーに行く直前にキャンセルになってしまったから。それでインストゥルメンタルの1枚、ボーカル入りの1枚、私とエリック・カデューでクレイジーなテクノアルバムを1枚をやろうと。なにしろ、来年の4月に欧州ツアーを開始するまでは家から出られないんだから。でも私は家のカウチに座って Netflix を観る気はない。アルバムを創るよ。

『Shapeshifting』の "All For Love" のムーディなギターが好きです。この曲について教えてください。

その曲を選んでくれて嬉しいよ。90年代後半にツアー用に購入したキーボードでオーケストラ曲を書いていたんだ。2分半の曲が書けて、これはいいなと気に入って数年後に ProTool に入れたんだ。ジョン・ポール・ジョーンズLed Zeppelin)とオーケストラ・プロジェクトの話をしていたから、彼にCDを渡したのだけど発展しなかった。それですっかり忘れてしまっていたけれど、アルバム制作時に思い出したんだ。

ギタープレイについて言うと弾くのが難しいのは速い曲じゃない。テンポの遅い曲こそ弾くのが難しいんだ。最も難しいのは自分の持てる才能の全て、感情表現の全てを使って、フレージングやトーンなど全ての質感に集中すること。ステージで速い曲を弾きフラッシーな演奏をしてオーディエンスを指さすようなことをするにはさほど才能は必要じゃない。

それでさっきの曲の話に戻ると、これを仕上げるときが来たと思ったんだ。ギターにアレンジして、レコーディングに向かった。最初の9テイクは酷かったよ。とても弾くのが難しいいんだ、高ゲインの中でギターを静かにさせるのも、あの曲のテンションでのプレイも。ミスの余地は無い。シンガーの素晴らしい歌の周りでギターノイズがしたら気をそがれてしまうだろう。インストギターの窮地だよ。10テイク目でコントロールルームの皆がこれだ!というプレイができた。でも本当に難しかったから、ライブで演奏したら失敗しそうだ。(笑)自分で落ち着いて聴いてみたら、わかったよ。私がいつもそうしたいと思っていることができたんだ、オーディエンスの心に触れるということ。

コンサートの再開についてはどう思いますか?

再開の方法はやがて見つかるのだと思う。通常の予防接種のように有効なワクチンが開発されるだろう。その一方で人々の心に不安は残るのだろうね。

私がアジアツアーをした何年もの経験から言うと、アジアの人たちは常にマスクをしているんだ、礼儀としてね。彼らは風邪をひいたらマスクをする。マスクをすることが社会的に嫌われる行為ではない、コミュニティに対しての礼儀なんだよ。アメリカではなぜか歪曲して受け取られ、自由を奪うものになっている。これは変えなくてはいけない。マスクをしている人は周りの人に対して善い行いをしているんだ。コミュニティや家族を守ろうとしているんだよ。マスクをしている人が周囲の人をゾンビだと思っている訳じゃない!アメリカ、特に本土でのフリーダム運動では物事を歪曲して、自由という概念に干渉することに対して何でも、周囲に不穏を築いているんだ。

もう1つ、コンサートについて言えば、皆はオーディエンスのことを気にしている。観客同士の距離が十分保たれるなら安心だとかね。でもそこでは重要なことを忘れているんだ。現地のクルー、バンドのクルー、そしてバンド自身。皆がパンデミックの時期にバックステージという最も最悪の状況に居ることになる。スペースが無いし、何でもシェアするし、1日の18時間を1都市ですごし、移動するというのを週の6~7日繰り返すんだ。

オーディエンスについては収容力の1/3のチケットを売ったらいい、それで解決するだろう。でもそれでは会場のオーナーやプロモーターが1ヶ月やそこらで破綻してしまう。それにパフォーマー側の問題を解決しなければ、コンサートなどできない。去年は Experience Hendrix のツアーを2つやったのだけど、5~6台のツアーバスには1台に12人乗っていた。共にバンクに寝て、コーヒーマシンや冷蔵庫をシェアする。バスルームやラウンジもさ。会場に着くと皆が集まって食事する、そこには現地のクルーもいるんだ。

これらの問題を解決するのはワクチンしかない。コンサート再開の方法はやがて見つかるとは思う。科学的にこのウィルスについて判明したことはいくつかあるけれど…とにかくマスクを付けること。そうしなければ他人に感染し、広げてしまう。

あなたが挙げた数々の問題は来年4月までに全て解決してツアーができるでしょうか?それとも来年4月というのは仮の日程ということでしょうか?

それには私がこのウィルスの脅威を実感した最初について話そう。妻と地元のスーパーマーケットにいたときだ、人々が奇妙な行動をしていたんだよ。レジの人に「何かあったの?」と訊いたら「この世の終わりです」と笑って言っていた。でも彼は怖がっていたよ。お客が店の棚の物を買い占めていたんだから。その後1日で私はマネージャーに電話してツアーをキャンセルすると告げたんだ。「ビジネスのことを考えるのは止めよう。自分の家族、バンドの家族、子供や親のことを考えよう。ロックよりも大切だ」と。

ウィルスの問題もありますが、今のアメリカはBLM運動を始め、警察の暴力や市民権運動や様々な問題を抱えています。あなたの考えを教えてください。

私が子供の頃からあった問題だ。私は60年代後半に子供時代をすごしたのだが、実に騒然とした10年間だった。近所で起こっていたので公民権運動の争いを目撃したし、両親の職場はその影響を受けていた。何年にもわたって我が家のディナーには様々な人種や国籍の人がやってきていたのに、(今起きている)こんなことは辻褄が合わないよ。今になって社会はそうでなかったのだと気付いた。ご近所にも人種差別主義者がいたことがわかったんだ。

この歳になっても社会が何も変わっていないと知るのはとても気が滅入るよ。オバマ前大統領や非白人女性の政府高官もいたから昔よりは事態が改善しているのだろうけれど、あるべき状態からはかけ離れている。だから私はBLM運動を支持する。私にはそれに反対する人の気持ちがわからないんだ。暴力については反対だ。破壊や人々が傷つくのを見たい人などいないと思う。でも誰もが平等に扱われることは正義だし、そのために立ち上がらなくてはならないと思う。政治家でもなく、私には解決策はないけれど、それができるリーダーシップのある政治家はいると思う。

私がとても心苦しく思うのは、私の世代が息子の世代にこのような惨状を手渡してしまったことだ。子供の頃は大人になったら、こうした問題は全て解決するんだと思っていたのに。いくらでも大きな音でギターを弾けるとか、自由に好きな人と結婚できるとか、職業選択の自由とか、居住地選択の自由とか、平等な人権とか、全て人種や性別にかかわらず。それができなかった、つまり私たちの世代は失敗したんだ。とても恥ずかしいし、恐ろしいよ。こんな世界を息子に。息子のキャリアにとっても、これが大人たちの与えた世界なんだ。

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普段は政治の話はしない人ですが、BLM運動については語っていましたね。親としての気持ちがにじむコメントでした。

それからコロナ中にサッチが制作するアルバムが少し前の時点から1枚増えています!さすが多作で仕事の早いサッチ!エリックと制作する予定のテクノ・アルバムというのは、『Engines of Creation』以来2人が集まって続編を制作するということでしょうか?あのアルバムはあまり受けが良くなかったような記憶ですが、20年後に再チャレンジなのかな。それらのアルバム制作のため、サミーとの Chickenfoot 新曲制作が立ち消えになったとしたら、ちょっと悲しいです。

『Shapeshifting』の "All For Love" の演奏がいかに難しいかの話が出ていましたが、『Shockwave Supernova』ツアーでみせた "Butterfly And Zebra" の演奏は素晴らしく、サッチのサウンドコントロールのテクニックに感激しましたので、きっとツアーで演奏しても素晴らしいのだろうなぁと思います。

 

キップ・ウィンガー 「ヘヴィメタルとクラシック音楽はとても似ている」

キップ・ウィンガーがナッシュビルの公共ラジオ局のクラシック音楽番組のインタビューに応えました。ラジオにクラシック専門の番組があるとはさすが音楽の盛んな地域。

後半、なかなか深い話をしてくれていますので、興味深いです。クラシック作曲家の道を目指したキップに開けた境地、そしてヘヴィメタルクラシック音楽の類似性とは。

91classical.org

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あなたの作曲スタイルについて教えてください。最大の影響を受けたのは誰からでしたか?

ストロマン主義がスリリングな初期モダニズムに繋がった領域のどこかだ。俺はロックバンドの出身だからその経験を俺の作曲に持ち込もうとしている。

影響を受けた人物のリストは常に変化しているが、故人のアルテュールオネゲルは挙げなくてはいけないな。俺が自分自身を深く掘り下げたいとき、彼は俺にとって鉄板の作曲家だ。彼のスコアを見ると、彼の音楽が明確にわかるんだ。

その他にも大きな影響はいくつかある。そしてその影響というのは彼らの音楽のフィーリングだけなんだよ。必ずしも彼らのスコアを学んではいない。モーリス・ラヴェルイーゴリ・ストラヴィンスキーヘンリク・グレツキヴォーン・ウィリアムズアルベルト・ヒナステラ、クシシュトフ・ペンデレツキ、ドミートリイ・ショスタコーヴィチなどだ。

存命の作曲家では、リチャード・ダニエルプール、クリストファー・ラウズ、ジェニファー・ヒグドン、マイケル・ドアティ、ミヒャエル・クレクで、そのうちの2人とは学んだことがある。

どの作曲家がもっと著名であったらいいのにと思いますか?

オネゲルヒナステラだ。俺に言わせれば彼らの音楽はあまりに過小評価されている。彼らの音楽がプログラムに載るのはほとんど見ない。残念だよ。

パンデミックの前には、あなたの交響曲第一番はナッシュビル交響楽団によってワールド・プレミアを迎える予定でした。作曲について教えて頂けますか、インスピレーションやあなたにとって初の交響曲を作曲するのはどうでしたか?

クラシックの世界に受け入れられて俺はこの上なく幸運だ。ナッシュビル交響楽団)が作曲依頼したもので、ジャンカルロ・ゲレロが俺に初の交響曲を提案したんだ。自分からは手を出さなかったかも知れない。完成するまで18ヶ月かかったよ。俺はいつもツアーに出ているから、断続的にしか作業できなかった。作曲は今年の1月4日に完成した。新たなプレミア日程が近づいたらこの件については喜んで話そう。

(訳者注:交響曲第一番の作曲依頼がきたときの詳しい話はこちらのインタビューでも話しています。↓)

staytogether.hateblo.jp

今年は多くのことが起こりました。パンデミックによって生演奏ができなくなった他に、人種差別に反対するデモが全国に広がりました。さらに今年は大統領選挙の年です。今年の出来事は作曲家のあなたにどのような影響を与えましたか?

影響は無い。作曲の時間がたっぷり取れるようになった他にはね。俺は政治的タイプの作曲家じゃないんだよ。自分の政治姿勢については表に出さないし、人種差別については、2020年にもこういうことが続いているのを見るのは悲しいよ。

ヘヴィメタルクラシック音楽は全く違うように見えますが、あなたのキャリアにおいてそれらがいかに交錯しているのか話していますね。Winger の経験がクラシックの作曲に最も役立ったのは何でしたか?

ブルース・リーがこう言っている。「私が格闘技を学ぶ前、私にとってパンチは単なるパンチであり、キックは単なるキックだった。格闘技を学んだ後には、パンチはもはやパンチではなく、キックはもはやキックではなかった。そして、格闘技とは何かを理解したとき、パンチは単なるパンチとなり、キックは単なるキックとなった」

俺が交響曲を作曲するのを夢見ていたとき、俺は完全に怖気づいていた。どうやってあの領域を超えられるんだ?と。俺は自称クラシック音楽を作曲したって言う「ロック野郎」にはなりたくなかった。彼らのやり方でやりたかったんだ。数百年かけて発展してきたテクニックを学び、正統な言語を話して。それで35歳で作曲と理論の教師を探したんだ。俺は未来を掴むためには俺の過去を捨てなくちゃならないと思っていた。

学びの過程は厳しいものだった。主に、俺がクラシック音楽環境に縁遠かったのが原因だった。だから俺は自分で大量にその音楽を聴き、作曲してその環境を創らなくてはならなかった。10年程して、マイケル・キュレックの指導の下、俺の発表できる初めての作品 "Ghosts" ができ、幸運にも大きな成功となった。

2014年にダニエルプールと学んでいるときになって初めて、彼のピアノ・コンチェルトのプレミアがヴィーナであったときだ、俺の頭の中で灯りが点って、「キックは単なるキックだ」と理解したんだよ。それ以来、俺は今の本当の自分に戻る方法を探し、クラシック作曲家として言いたいことを考えていた。結局のところ、ヘヴィメタルクラシック音楽はとても似ている。自分を表現したいどちらのジャンルにしても、形式とオーケストレーションを知り、独自のハーモニーセンスを育てることだ。

作曲において次にあなたのやっておきたいことは?

今はヴァイオリン協奏曲と Winger のニューアルバムに取り組んでいる。インスピレーションに溢れていて幸運に思っているよ。自分のやっておきたいことリストについて言うと、どこかの時点でピアノ協奏曲を是非作曲したい。

 

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キップの交響曲第一番のワールド・プレミアですが、当面のところナッシュビル交響楽団によって演奏される予定はなさそうです。楽団は今年の6月に2020/2021シーズンの公演をキャンセルすることを発表しており、活動停止状態になっています。コロナの影響でこうした楽団が活動できない状態や財政的危機が起きており、文化芸術を支援する活動が待たれます。

思い返せば、私が交響曲第一番の話をキップから初めて聞いたのは、2018年3月の来日時のインタビューでした。交響曲第一番をナッシュビル交響楽団のために作曲しているという話はまだどこのメディアにも話していなかったと思いますので、新しい話だなと驚きつつ、それがどんな意味のあることかはクラシック音楽の知識がない私にはピンときませんでした。とにかくキップが大仕事を始めたのだということは理解しました。

そして2020年2月の再会時にキップから交響曲第一番が完成したこと、自分の最高傑作になったという興奮に満ちた話を聞くことができました。交響曲着手と完成のお話を本人から聞けたのはとても感慨深いです。

制作期間は単純計算では18ヶ月じゃなくて21ヶ月程になりますが、途中作業できない期間もあったから18ヶ月なのかな。キップ最高傑作のプレミアは遠くなりましたが、必ずナッシュビル交響楽団が活動再開して演奏してくれるものと信じています。

 

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スティーブ・ヴァイ 「解決策は探している人には見つかる」

コロナの影響で自宅スタジオに籠っているスティーブ・ヴァイがインタビューに応えましたので概要を和訳しました。

guitar.com

ヴァイ先生が今抱えているレコーディング計画に更に1つのプロジェクトが加わったようです。先生、風呂敷広げ過ぎないように頼みますよ。話には出てこなかったけど、Generation Axe のライブアルバムも Jamathon のライブ音源も作業あるんですよ…忘れてないよね?

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現在の都市封鎖は日常生活に大きな影響がありますか?

5~6月に欧州でオーケストラとのレコーディングの予定があったのだが、延期になった。幸運なことに、私は知る限りでは病気にかかっていないし、比較的には通常どおりの仕事だ。どちらにせよ私はスタジオに住んでいるから。パンチを打たれれば身体を丸めるけれど、私はパンチだとも感じていないんだ。

多くの人が苦難を受けているのは知っている、健康面と経済面においてね。その一方で、コロナの結果として様々な方面で成功している人も目にした。新しいビジネスを始めた人もいるし、違うタイプの仕事を見つけた人もいる。別のやり方で仕事をする方法を見出した人もいる。それに、多くの人が今まで実現できなかった家族と生活するということからの発見もあったようだ。この状況での利点というのもあるのさ、探しさえすれば。

リモートでレコーディングできるミュージシャンもいますが、オーケストラには難しいでしょうね。

私のオーケストラ曲をリモートで録音するのは気が進まないだろうね。とても特別な楽曲で私がそこにいる必要がある。しかし、こういうことさ。障害が起こったら、それに取組むことで、対処能力を身に付け、解決に基づいた前進計画を見出す機会を得られる。もし恐怖とパニックの状態にいるだけなら、他のことを探すばかりでそれらの機会を逸してしまうだろう。恐ろしいことばかりを探してしまうんだ。

コロナウィルスについてはそこが興味深い。ウィルスの恐怖が人間の陰湿さを引き出すのだが、人々はそれに気付かないのだ。彼らは悪いニュースばかりを探してしまう。目にするものが全て悪いニュースなら、人々のすること全ての知見にフィルターがかかるだろう。私はいいニュースを探して、見つけたんだ。

ツアーできない多くのミュージシャンはかつて無い程にSNSの恩恵に浴していますね。

ああ、ニューノーマルになったね。とても良いと思うことの1つはZoomミーティングでミュージシャンのオンライン・コミュニティが一体になったことだ。私は多くの友や人々とZoomタイプのミーティングをやったし、私は長いこと2つのライブストリームをやりたかったんだ。1つは私のギタープレイヤーとしての知識と経験に基づくもので Alien Guitar Secrets と名付けた。もう1つはより深遠な話題を討論するもので、私が生涯で学んできた精神哲学の内容だ。これらは Under It All と名付けた。

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これは過去にはやったことのない試みで、私にはやる資格があると思えなかったのもあるし、当時は適切でないと思っていた。でもやりたいとは思っていた。最終的に私のメディア・チームから電話があり、「スティーブ、ロックダウン中に皆がライブストリームをしているから、あなたがあれを検討してみるのにいい時期かも知れない」と言われたんだ。

それで時期が来たなと思い、2つのライブストリームを始めたんだ。7週間やったところで、仕上げたい仕事があったので、今は停止しているんだ。反響はとても良かった。これは全てロックダウンの結果起きたことだ。私の生業や発言に興味のある人々とコミュニケーションする新たな方法となった。

最近、あなたがジョー・サトリアーニとジョン・ペトルーシとのライブストリーミングに参加したのを見ました。

あれは素晴らしかった。明らかに今年はミュージシャンはツアーに出られないから、私にはどうにもライブができるとは思えないんだ。けれどアーティストは人々と繋がる方法を見つけている。音楽コミュニティは家族のようなものさ。家族と同様に口論や競争はあるのだが、コミュニティがあるのさ、特にギタープレイヤー相互にね。我々は互いを必要としているし、互いに成功して欲しいと思っている。多くのミュージシャンにとって今は厳しい時だ。多くの人は苦しんでいる、ギグからギグへとその日暮らしをする人は。

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しかし、先ほど言ったように、そのような状況に置かれているなら、前向きに解決策を探すことにすれば、それは見つかる。解決策は探している人には見つかる。人々は心中の意図では何を探しているのかわからないのだ。もし戸惑い、パニック、恐れ、職業上の不満、家計のやりくりといったことに囚われていると、気にしている通りのことになるだろう。そして解決策は容易に見つからないだろう。

オーケストラとのレコーディングができないので後回しにして、家でできる他のレコーディングに注力するのですか?

もちろんさ。もう着手している。私の計画は変わるので、話すのが難しいのだけどね。着手していることを公にすると、皆が直ぐ期待するんだ。だから、これは前置きと思って欲しい、どうなるかはわからないからね。

私の元々の計画はトリオのインストゥルメンタルのギターアルバムをオーバーダブ無しでレコーディングすることだった。1枚はクリーンのギタートーンで、2枚目は私のいつも通りのディストーショントーン、3枚目はチューンダウンした8弦もののような私が思う限り最上にヘヴィなもの。これが私が計画したプロジェクトの1つだ。でも他の事が立ちはだかった。

"Candle Power" の1曲はレコーディングした。これは(先ほど言った)クリーントーンのアルバム用だ。これには私が Joint shifting と呼ぶクールなテクニックを使った、ずっと試していたものだ。別方向にベンドしながら、プリングオフして別の音を弾くのだが、これを正確にやるには指の先端を使うしかないのを発見したよ、そして指先でベンドするのさ。

私はフィンガーピッキングの練習をしてこなかったのだが、「よしやってみよう、何かが生まれるかも知れないぞ」と思ったのさ。この奇妙なベンディングはずっと私の頭の奥にあったアイデアなんだ。カントリーで聴くベンディングのようだ。 Alien Guitar Secrets の第8回でやったよ、1時間半に渡って私のビデオを再生し、この曲へのアプローチ全てを説明した。

staytogether.hateblo.jp

このテクニックがこのように使われるところは見たことが無い。だが、これ自体は以前に恐らく多くのプレイヤーが使ったのだと思う。曲をリリースしたら、ジェリー・ドナヒューがこれのようなことをやったと言う人が何人かいた。それで彼をチェックしたら、確かに彼は似たタイプのことを何十年も前にやっていた。私は初めて見たのだけどね。

Real Illusions のトリロジーもあるんだ。既に2枚はアルバムが出ているので、3枚目を創らねばと思ったのだ。それをまとめ始めたところだよ。

Alien Guitar Secrets のライブストリーミングの1つで、アコースティックとボーカル入りの "The Moon And I" をプレイした。反響が素晴らしかったので「よし、アコースティック・アルバムを創るぞ」と思ったよ。ソロのアコースティック・ギターとボーカル曲だ。とは言ったけれど、どんな結果になるのかは誰もわからない。そこがサプライズでお楽しみなのさ。

この状況にどう対処しているか、ミュージシャン仲間と話しましたか?

ああ、皆の様子を聞いているよ。とても活発に活動している人もいて、プロジェクトの真っただ中だったり。デイヴ・グロールは私の家から1本先の道沿いに住んでいる。Foo Fighters は私の家から1ブロック先の家でレコーディングをしていたんだ。彼らは友人だから、少しばかり訪ねていったよ。私は超常現象は信じないタチなんだが、あの家には確かに霊が憑りついている。デイヴがその家の歴史を話してくれたんだが、「何てことだ、やはりこの家は憑りつかれている!」と思ったよ。実のところ、テイラー・ホーキンスとジャムする予定だったのだが、コロナのせいで全てが保留になっている。

またツアーできるのはいつのことだと思いますか?

今は一度に一ずつ取り組むよ。情報が入ってくれば、いずれ決断を下す。それしかできないんだ。抵抗なくその考えにアプローチすれば、つまり、私がやりたいようなやり方でできないと思うなら、全てが間違いだ。興味を持ちポジティブな期待でアプローチするなら、全てが上手くいくだろう。いいかい、今から6ヶ月後に私のエージェントが電話をしてきて「ダメだ。誰も2021年にツアーしない」と言ったなら、そういうことだ。私は何か別のことを考え出さなくてはならない。私がする事に困ることがあるとは思わない。

オンラインストリーミンングやレコーディングの他に、今の状況で日々のスケジュールが変わったことはありますか?

私がずっとやりたかったのは厳しいワークアウトのスケジュールを創ることだった。だから今それをやっているよ。他に変わったこと?週末には妻と様々な興味深い番組を観ているよ。私は重い、暴力的な番組は普段観ないのだが、Game Of Thrones (アメリカの大人気TVドラマシリーズ)は全話を2回観たよ。 Grace And Frankie と The Good Place(どちらもアメリカのコメディドラマ)なんかを観るんだ。Schitt's Creek (カナダのコメディドラマ)は私のお気に入りの1つだ。あと私たちが大好きなのは The Great British Bake Off(イギリスのお菓子料理コンテスト)だよ、お気に入りさ。素晴らしい料理番組だ。観ていると今起こっている悪いことを全て忘れられるんだよ。でも普段の私たちの生活ではそれほどテレビは観ないよ。ニュース番組は全く観ない。なぜならその殆どは恐怖に基づいていて、実際のところ問題の核心だからだ。テレビは恐怖を伝えている。私には不要だ。

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ヴァイ先生はライブストリーミングでもニュースは観ないと話していました。ただコロナの感染者状況など数字や政府の発表する施策などを政府のウェブサイトでチェックしているとのことでした。

あと気になるのは、新たに出現したアコースティックの歌モノ・アルバム計画。この前見た映像ではスタジオ内に嬉々としてアコギを揃えていました。EPの姿が見当たらなかったような… 先生、1つずつ順番にアルバム仕上げましょうよ。あれこれあり過ぎじゃない?(泣笑)

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ジョー・ボナマッサとミッチ・ラフォン対談 新メディアとアーティストの関係

ジョー・ボナマッサがカナダのロック・ジャーナリスト、ミッチ・ラフォンに自分の動画チャンネルで逆インタビューしました。ミッチはカナダで20年超のキャリアを持つロック・ジャーナリストで、彼の番組は私も良くチェックしています。

いつもインタビューされるアーティストの立場から放つジョーの質問が興味深く、ミッチの話も面白く、いろいろ考えさせられたので、インタビューの一部概要と私の感想を書いてみました。

 

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JB:今はロックミュージシャンにアクセスしやすい状況になっているよね、朝食に何を食べたかとかもわかったり。昔と比べてミステリアスでなくなってきたことはどう思う?

ML:例えば僕の子供たちが昔の僕のようにKISSのLPレコードの生々しさに感激してファンになるかというと違っていて、インスタグラムで彼らの様子を見る方が彼ら世代に受けるのだと思う。そういうものが新たなファン層を惹きつけているんだ。

それに昔は KISS や Aerosmith が町に来るのは一大イベントで、「わぉ、アンコールもやってくれた、きっと僕らは最高の客だったんだ」と思っていたけれど、今ではツアー全部のセットリストもわかるし、他の町と同じってわかる。昔のような楽しみは無くなったけど、どちらがいいかはわからないな。

JB:昔はアルバムのセールスに多額のプロモーション費用がかかったけど、今ではSNSで十分なフォロワーがいれば、写真をとってアップすれば、多くの人がそのアルバムに関心をもってくれるよね。費用はかからない。

ML:SNSについて言うと、無料で宣伝できるし、数百万のフォロワーを獲得することもできる。でも肝心なのは彼らに参加させ続けることだ。フォローしてもほとんど更新しない人だった場合、チェックするのも面倒だ、となる。そうしない為には常にクリエイティブでコンテンツを提供しないといけない。いやらしくない程度で、興味深いものでなくちゃならない。これは紙一重の差なんだ。

JB:11歳のときにジーン・シモンズにインタビューしたそうだけど、その話を教えてくれる?

ML:テレビのチャンネルが2つしかない田舎に住んでいた僕はKISSの大ファンだったので、彼らに会える方法がないかと考えたんだ。そしたらアルバムにマネージメントの名前が書いてあったので、そこへ電話してインタビューできないかと訊いた。Dynasty Tour (1979)の後で彼らの人気に陰りが出ていた頃でちょうどいいと思ったんだ。

僕の友達はKISSのメンバーに会いたいなって言ってるだけだったけど、僕はどうしたら会えるかを考える子供だったんだよ。(笑)それで、先方から最初ポールでいいかと訊かれて、もちろん!と言っていたら、後から都合が悪くなったからジーンでどうかと訊かれた。きっと向こうも必死だったんだよ。

JB:良いインタビューにするものは何だと思う?

ML:それは究極のところ2つだと思う。まず第一に事前のリサーチをしっかりやっておくこと。例えば、ニューアルバムのことを訊いてから次に好きなアイスクリームを質問するようなインタビューってあるだろう?とんでもないね。

それから毎回同じ古いことを訊かないこと。君にも最近インタビューしたけれど、君の12歳のときの出来事はもう何度も話題に出ている。君のインタビューを聴いているのは君のファンなんだから、また同じことを訊く必要はないだろう。

僕は何か少し変わったことを訊くようにしている。例えば最近クラウス・マイネ(Scorpions)のインタビューをやったけど、Desmond Child と2007年にやった『Humanity:Hour 1』について訊いたら、それを訊かれるとは、と驚いていたよ。今まで同じ過去の名盤の質問ばかりだったろうからね。

もう1つは、僕は質問を決して紙に書かないんだ。最初にするアルバムやツアーの質問の後は相手の話を聞いて、そこから訊きたくなったことに入っていく。

基本はリサーチをすることと、計画を立てないこと、それから相手の話をしっかり聞くこと。例えば相手の答えから更に5つの質問が浮かぶこともあるんだ。フェスティバルに行くと、相手の話もしっかり聞かずに質問の答えだけ得ようとする輩(ジャーナリスト)がいるだろう?全く何してるんだ?となるね。

JB:ビッグネームのインタビューだと広報担当者とやり取りすることもあるよね、「これを訊いて、これは訊くな」とか。それはどう対処するの?

ML:重要なことは相互リスペクトだと思う。「先月バスで酔っぱらった話はするな」という広報は他に3人のアーティストも担当してたりするだろう。だからそれを無視することはできない。でも時にはアーティストからそれを話してくることがあるんだ。そういう時は、「彼が話を出してきたんだ」って言う。相手の話を聞いて、そこから質問していくよ。でもそこではある程度のリスペクトも必要だ。

JB:クリックベイト(センセーショナルな見出しを付けて、ネット上で記事へのクリックを誘う撒き餌のこと)の話をすると、俺は31年音楽ビジネスをやっているんだけど、ただの1度もコカインとかそのテのものを勧められたことがないんだ。俺には全く縁がないものだけど、これって侮辱に近いんじゃない?(笑)なんて話をここですると、そこを切り取られて見出しに使われてしまったりするよね。でもインタビューの本文の内容とは全く関係のない話なんだ。こういうジャーナリズムについてどう思う?

ML:イラつくよ。そういう切り出しをするとそこにはもう本来の意味が無いんだ。僕はこうして音声会話をしているから、聞き返せばどういう文脈で会話をしていたかわかる。クリックベイトについては数年前の出来事を話そう。

Blabbermouth.net(ネットのHR/HM音楽メディア)が僕のやったルー・グラム(Foreigner)のインタビューから切り出して、そこに過去のミック・ジョーンズ(Foreigner)が彼に言った悪口を添えたんだ。ルーの妻から電話があって僕はもう出入り禁止だと言われたよ。なぜ?と訊くと、Blabbermouth.net を読めと言う。それは僕が書いたんじゃない!彼女には「あなたがインタビューしたんだから責任がある」と言われたけど、とんでもない!

それに僕がSNSにいろいろ投稿すると、本当に意地の悪いコメントが付くことがあって、僕はそういうのを削除して、できるだけ(スレッドを)クリーンにしようとしてるんだ。僕はアーティストをプロモートしようとしてて、彼らは僕に善意を示して(インタビューに応えて)くれたから。

思うに、Blabbermouth.net とかあの手のメディアは皆、ああいうのをどうにかすべきだ。彼らは結局のところ、アーティストをプロモートしているんだから。バンドの広報がもうあのサイトには載せさせない、と言ったら仕事に困るのは彼らなんだから。彼らはコンテンツ元のネタを使って金に換えているんだから、コンテンツ元に対してもっと敬意を払うべきだ。

JB:その通りだ。マイク・ポートノイやジョン・コラビもそういう目に合ってる。俺は敵対者じゃないけど、ああいう書き方はどうかと思う。メディアが印刷だった時代が恋しいかい?

ML:ああ雑誌が恋しいよ。その前にポートノイの話をさせてくれ。僕の理論では人は10年ごとに新たな自分になる、成長するんだ。だから何十年経ってもポートノイは Dream Theater でしかないような書き方はどうかと思う。

JB:そこだよ。彼は素晴らしいミュージシャンでシンガーで作曲家だけど、それじゃクリックを稼げないからさ。

ML:雑誌については、恋しいと思うところとそうでないところがある。雑誌の付録のKISSポスターを壁に貼るのは楽しかったさ。でも HitParader(1942年から2008年にかけて運営されたアメリカの音楽雑誌)に書いてあるのは広報のプレスリリースのコピペばかりだった。しかも情報は3~5ヶ月前のものばかりで、今の情報は得られなかった。今はネットで最新の情報が得られる。でも時々それは正確じゃないことがある。

JB:情報の量もあるな。今は子供だってちょっと機器を揃えて Podcast をやってたり、俺みたいなのがこうして配信をやってたりするんだ。今はコンテンツの量が多すぎて、本物の情報が見つからない弊害が起きているんじゃないかと思うけど、どうだい?20年この仕事をやってきた君はどう見てるの?

ML:最終的にはコンテンツこそが最重要だと思っている。最近の僕のインタビューはデヴィッド・カヴァーデイル、クラウス・マイネ、デニス・デ・ヤング等だった。僕はこのパンデミックの最中に絶えず努力して一流どころに接触してる。今は誰もが誰にでもインタビューしてるだろう?だから僕はこの競争から前に出る為に普段は捕まえられない大物に申し込んでいるんだ。

JB:本物のライブとトラックを使ったライブについてはどう思う?

ML:この件については支離滅裂になってしまうんだけど、小さなクラブでは血と汗の生のライブが観たい。友人が言った言葉だが、ライブは「不完全ゆえの完全」なんだ。でもアリーナのショウを観るときには話が違って、チケット二人分とディナーや車での移動を考えれば、$800に見合う完璧なライブが観たい。アーティスト側の見方で言えば、常に完璧でありたいだろうね。それがファンの望みだからだ。

JB:アーティスト側から付け足すと、常にこれ(スマホ撮影)がある。

ML:そうなんだ!SNSが全てを変えたんだよ。例えば君のライブがあるとして、行こうか迷っているときに「JBはシンシナティで酷かった」って書き込みを見たら、別のライブにしておこうかなと思う。だから完璧なライブにしようとするアーティストの気持ちはわかるよ。

それから音楽がパフォーマンスの乗り物でしかないアーティストのライブの場合、グエン・ステファニーやマドンナやシャナイア・トウェインとか。彼女らを観に行けば、ファンは音楽を聴きに行っているんじゃない。友達と楽しむとか、ダンスとか、レーザー光線とか。彼女らに2時間踊って歌ってキーを外すなって言うのは無理だよね。だからこの問題はアーティストによっても違うんだ。

だから、もし100人くらいのクラブに行って、もしアーティストが音源を使おうとしたら、絶対ノーだね。

JB:以前ノースハリウッドでリハーサルしてたとき、ギアを倉庫に取りにいったら、コンテストで優勝した若いバンドがリハーサルしてるところに遭遇したんだ。ドアの外にいたら、それは素晴らしい歌が聴こえてきて「うわ、凄いな!」と思ったのさ。で、ドアが開いたんで中を見たら、ステージにはベースを弾いてる子しかいなくて、他の音は全部PAから出てたんだよ!全部コンピューターで操作してた。何十年もギター弾いて歌ってる俺ってアホかと思えたよ。(笑)

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2人の会話はなかなか興味深かったです。最後のライブでの音源使用問題では最後にミッチから80年代のバンドがフェスで口パクのみならずオーディエンスの音まで用意している話も出ていました。(びっくり)

ネット系メディアと「今は誰もが誰にでもインタビューしてる」という話にはいろいろ考えさせられました。

この数ヶ月、Vince Palamara さんという一般の音楽ファンの方が Cameo というアプリを使って面白いことをしていました。Cameo はアーティスト等が登録して、1回の短いビデオの依頼を有償で受け、アプリを通じて納品するサービスです。多くのロックアーティストも登録していて、ファンの誕生日祝いメッセージなどを返したりしています。値段はアーティストによって少額から高額まで様々で、ファンと繋がり、アーティストが隙間時間をお金に変える手法の1つです。

ヴィンスさんはこのアプリを使って、好きなアーティストやその周囲のアーティストに様々な質問をしてその回答を彼らの承諾のもとYouTubeに上げていました。コロナで仕事ができないアーティストに対して助けになったと同時にヴィンスさんにとっても知識欲が満たされ、好きなアーティストのサポートができたのだと思います。(ちなみにヴィンスさんはYouTubeに上げることによる収入を得てはいないそうです。そのためにやっているのではないからでしょう)

 

彼のYouTubeから Blabbermouth.net は7回、他にも17のメタル系サイトが引用記事を書いたそうです。この引用記事を最初に見たときは驚きました。遂に一般人の取材成果からメディアが記事を書くようになったとは!いったいメディアって何なのだろうか?

これらの Cameo を見ると、ヴィンスさんは Sons of Apollo の大ファンで長年のロックファンだから、いい質問をしているのですよね。そういう熱意とピンポイントの深い知識は職業ジャーナリストとの違いじゃないかと思います。

かくいう私も機会を頂き、キップ・ウィンガーのインタビューをしましたし、ジョエル・ホークストラのインタビューもしました。

私が機会を頂けたのは、メディアに予算が無いご時世だったからと思います。来日するアーティストの広報にお金を出すのはプロモーターかレコード会社か、エンドーズ契約会社かなので、そこから出なければ取材者や翻訳者の報酬が出ない=取材は無い、という結果になります。(雑誌等の媒体が積極的に取材する場合は別)

海外には星の数ほどもネット上にメディアがあって、アーティストのインタビューやら大量の情報が流れていますけれど、日本ではロック音楽についても昔ながらの雑誌とかラジオとかTVとか、そういう媒体がほぼ全てで、ネット系メディアはまだほんの一部のような印象です。

私が行ったジョエル・ホークストラのインタビューですが、実は国内業界の方にジャーナリストでもない素人が何してるんだとお叱りを頂きました。でもジャーナリストって何だろう?資格職業でもないし、必ずしも質の高い記事を書いていないジャーナリストもいる。しかも予算のあるアーティストでなければジャーナリストに記事を書いてもらえない可能性が高い。ヴィンスさんは自己資金を投下して取材し、その成果をメディアが二次利用するような時代。

情報は印刷物やテレビの時代からネットにメインステージが移動し、ネットは音楽を始め、いろいろなモノを民主化した。この流れは止まらないと思う。もちろん誰もがメディアになったり誰もがクリエイターになったら質の低いものも多く生まれるけれど、それらはネットの海の中で淘汰されていくのではないのかな。

 

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